『ヒーリングっど プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』

TOHOシネマズ上野、スクリーン4入口脇に掲示された『ヒーリングっど プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン4入口脇に掲示された『ヒーリングっど プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』チラシ。

原作:東堂いづみ / 監督:中村亮太 / 脚本:金月龍之介 / キャラクターデザイン:山岡直子、川村敏江、爲我井克美 / 総作画監督:爲我井克美 / 撮影監督:高橋賢司 / 美術監督:小川友佳子、渡辺佳人 / CGディレクター:大曾根悠介 / 色彩設計:佐久間ヨシ子 / 音楽:寺田志保 / 音楽特別協力:佐藤直紀、間瀬公司 / 主題歌:北川恵理、Machico / 声の出演:悠木碧、依田菜津、河野ひより、三森すずこ、加隈亜衣、武田華、金田アキ、白石晴香、三瓶由布子、竹内順子、伊瀬茉莉也、永野愛、前田愛、仙台エリ、草尾毅、入野自由、小林星蘭、勝生真沙子、高木渉、村井かずさ、藤田ニコル、生見愛瑠、景井ひな、さぁや / アニメーション制作:東映アニメーション / 配給:東映
2021年日本作品 / 上映時間:1時間16分(併映『トロピカル~ジュ!プリキュア プチ とびこめ!コラボ♡ダンスパーティ』含む)
2021年3月20日日本公開
公式サイト : https://2021spring.precure-movie.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2021/3/25)


[粗筋]
 花寺のどか(悠木碧)、沢泉ちゆ(依田菜津)、平光ひなた(河野ひより)、風鈴アスミ(三森すずこ)の4人は、のどかの母・やすこ(村井かずさ)に連れられて、東京へと旅行にやって来た。
 目当ては、主要観光地で催される、最新技術に関連するイベント。天才科学者・我修院サレナ(勝生真沙子)が開発した、ひとびとの空想したものを具現化する《ゆめアール》を用いて、天空にある奇跡の花を咲かせる、というものだった。
 だが、到着するなり、アスミのパートナーであるヒーリングアニマル・ラテ(白石晴香)が、なにかの気配を察して走り出し、はぐれてしまう。手分けして探していたのどかは、ラテに寄り添うひとりの少女と出逢う。少女は何故かのどかに驚き、早く東京から離れるように言い残して去っていく。
 合流した4人とそれぞれのパートナーは、渋谷の交差点で催されるライブを観覧する。ステージに立っていたのは、先ほどラテと一緒にいた少女だった。彼女は我修院博士の娘カグヤ(小林星蘭)であり、人気のモデルなのだという。カグヤの合図で、ひとびとの抱くイメージが鮮やかに夜空を舞う光景に、のどかたちは見蕩れる。
 そこへ突如、謎のモンスターが現れると、観客の女性の力を吸って凶暴化した。のどかたちはプリキュアに変身して応戦するが、分裂して同時に攻めてくるモンスターに手を焼く。
 そこへ6人の、別のプリキュアたちが現れた。彼女たちプリキュア5(三瓶由布子、竹内順子、伊瀬茉莉也、永野愛、前田愛)とミルキィローズ(仙台エリ)のチームの助力で、どうにかモンスターによって囚われた女性を救出するものの、モンスターは逃げ出してしまった。プリキュア5たちは、あとは任せて欲しい、と言って風のように去っていった。
 カグヤはその事情を知っていた――あのモンスターはエゴエゴ(高木渉)と言い、我修院博士が研究の助けにするため、のどかたちが戦うビョーゲンズをもとに作り出したのだという。しかしある日、エゴエゴは研究室から逃げ出してしまった。ひとの心にある夢のつぼみを吸収して力にするエゴエゴは、特に光輝く夢のつぼみを持つのどかを狙う可能性が高い。だからカグヤは彼女に、東京を離れるよう忠告したのだという。
 母のために自分がエゴエゴのことは解決する、と言うカグヤに、のどかたちは協力を申し出た。
 だがこのとき既に、事態はカグヤも知らぬうちに、動き始めていた――


[感想]
 長年続いているシリーズにも拘わらず――というか、恐らくはそれ故にだろう、この《プリキュア》劇場版は、本来のターゲットを低年齢に設定しているのに、凝った趣向やテーマを組み込んでくることがある。
 本篇の場合、《ゆめアール》と名付けられた、実在するVR・ARを空想的に膨らましたようなガジェットが目を惹く。しかしそれよりも驚かされるのは、テレビシリーズから引き継ぐ少々重い題材を、絶妙な匙加減で盛り込んでいる点だ。
 今回のプリキュアの中心人物であるキュアグレースこと花寺のどかは、重い病を患い、長い間入院していた、という過去がある。テレビシリーズでもピンポイントでしか触れられていないこの背景が、本篇ではゲストキャラクターのドラマと重ねて描かれる。《プリキュア》シリーズの世界観ならではの、ファンタジー要素に支えられたドラマなのだが、そこにのどかのリアルなドラマが重ねられることで説得力と奥行きが増している。
 更に、終盤に語られる事件の背景には、現代を生きる日本人が囚われ続ける、《東日本大震災》が影を落としている。劇中、当事者の台詞においては明示されていないが、さりげなく組み込まれるカットや、小道具に記された年月日に仄めかされている。
 これらの描写は、このシリーズが本来ターゲットにしている観客層は体験していない可能性もある出来事だ。それを敢えて組み込むのは、私のような奇特な客だけを狙った、というわけではなく、ターゲットの親、ひいては本来の対象とする観客が成長したときに、その意図に気づいてくれることをも期待している、と考えられる。
 2020年度は新型コロナウイルス感染症が様々な分野に影響を及ぼした1年であり、本篇のベースであるテレビシリーズ『ヒーリングっど プリキュア』もまた、約2ヶ月間再放送で凌がねばならなかった。タイトルに反し、視聴者の心を癒すどころか、作品自体も傷つきながら辛うじて完結まで漕ぎ着けた格好になっている。近年の基本的スケジュールである1月いっぱいでの完結ではなく、少し遅らせての幕引きとなったが、それでも通常より4話ほど少なくなっている。それゆえに、例年よりもいくぶん駆け足で終わった、という印象も受けた。
 これも近年の《プリキュア》シリーズの傾向として、敵を倒す、というより、それが利用する負の感情を必殺技で浄化し、“解放する”という体で戦いを終結させている。従来はそういうイメージ、という程度の処理だったが、このシリーズでは“ヒーリング”と称し、意図を明確にした。
 テレビシリーズも、のどかの過去を軸にしてこの主題と向き合い、きちんと決着させることに成功したが、しかしこの映画版は別のキャラクターとの対比、そして観客が大人になればこそ解る描写をちりばめることで、更に昇華させた、と感じる。2020年度のコロナ禍ばかりでなく、10年前の傷からも回復していないひとびとの心に寄り添い、癒やそうと試みた。成否はともかく、それを幼児向けのアニメーションで試みる心意気に打たれてしまう。
 ある時期からこの劇場版《プリキュア》は3DCGを、手書きでは難易度の高いアクションを複雑なカメラワークで表現するために採り入れてきた。近年、この技術は驚異的に高まり、眼の慣れた人でないと区別がつかなくなっていたが、本篇に至っては、使っているのかすら解らなかった――ただ、少なくともエゴエゴとの最初の対決では、基本的に手書き主体で描いていると思われる。それこそ、本篇でコラボした『Yes!プリキュア5GoGo!』の劇場版で示した躍動感、力強さを蘇らせたのも、往時を知るひとへのサーヴィスであり、挑戦でもあるのかも知れない。これまで意識的に新しいテーマ、表現に挑んできたシリーズが、“ヒーリング”という題目を得たことで、表現的にも過去や原点と向き合う道を選んだように映る。
 惜しむらくは、せっかく共闘した『Yes!プリキュア5GoGo!』の面々が、キャラクターを際立たせる機会を得られていないことだが、それはあくまでも本篇が『ヒーリングっど プリキュア』の作品であることを思えば致し方のないことだろう。あくまでも現在、プリキュアに素直に憧れることの出来る年齢層こそがメインターゲットであり、実は干支ひとまわりも前のシリーズに属する彼女たちを優先するのは筋が違う。
 本当に観て欲しい層を重視しながら、本篇は過去にも、そして未来にも細やかに心を配っているのが窺える。やはりこの《プリキュア》というシリーズは目が離せない。

 2009年の『プリキュアオールスターズDX/みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』以降、《プリキュア》劇場版は春先に、始まったばかりのテレビシリーズのキャラクターを中心に、以前はほぼすべてのプリキュアが、近年は直近数年間のプリキュアたちが共演する、《オールスターズ》系の新作を劇場公開するのが常だった。
 しかし2020年の『プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』封切がコロナ禍により秋までズレ込み、本来その時期に公開されるべきであった本篇が《オールスターズ》封切の枠に入ってきたため、2021年度の最新テレビシリーズ『トロピカル~ジュ!プリキュア』が主演となる《オールスターズ》は飛ばされる格好となったようだ。
 その代わりに本篇では、『トロピカル~ジュ~』の特別短篇が併映された。本篇尺約3分、《プリキュア》シリーズ恒例のダンスムーヴィー約2分で短篇作れ、と言われたのをそのまんま形にしたような荒々しい内容だが、それゆえに妙に勢いはあるし、短いながらメインキャラクターの個性派ちゃんと出ているので、何とか顔見せは果たしていると思う。
 個人的に、各シリーズ単独の長篇よりも見せ方に工夫の要る《オールスターズ》の試行錯誤ぶりを観るのが楽しみなので、来年は無事、春先に《オールスターズ》系新作が拝めることを期待したい。そして願わくば、『フレッシュプリキュア!』以降の作品で唯一、《オールスターズ》の主役を張り損ねそうになっている『トロピカル~ジュ~』の彼女たちにも改めてスポットライトを当ててあげて欲しい。


関連作品:
プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』/『Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!』/『Yes! プリキュア5 GoGo! お菓子の国のハッピーバースディ♪
劇場版 ふたりはプリキュア Max Heart』/『劇場版 ふたりはプリキュア Max Heart 2 雪空のともだち』/『ふたりはプリキュア Splash Star チクタク危機一髪!』/『フレッシュプリキュア! おもちゃの国は秘密がいっぱい!?』/『ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』/『スイートプリキュア♪ とりもどせ!心がつなぐ奇跡のメロディ♪』/『スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ!』/『ドキドキ!プリキュア マナ結婚!!? 未来につなぐ希望のドレス』/『ハピネスチャージプリキュア! 人形の国のバレリーナ』/『Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』/『魔法つかいプリキュア! 奇跡の変身! キュアモフルン!』/『キラキラ☆プリキュアアラモード パリッと! 想い出のミルフィーユ!』/『HUGっと!プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』/『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて
プリキュアオールスターズDX/みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』/『プリキュアオールスターズDX2/希望の光☆レインボージュエルを守れ!』/『プリキュアオールスターズDX3/未来にとどけ! 世界をつなぐ☆虹色の花』/『プリキュアオールスターズ New Stage/みらいのともだち』/『プリキュアオールスターズ New Stage2/こころのともだち』/『プリキュアオールスターズ New Stage3/永遠のともだち』/『プリキュアオールスターズ 春のカーニバル♪』/『プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪ 奇跡の魔法!』/『プリキュアドリームスターズ!』/『プリキュアスーパースターズ!』/『プリキュアミラクルユニバース
劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〔新編〕 叛逆の物語』/『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝-永遠と自動手記人形-』/『ズートピア』/『AKIRA アキラ(1988)』/『聲の形』/『若おかみは小学生!』/『劇場版SHIROBAKO
サマーウォーズ』/『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』/『HELLO WORLD』/『君は彼方

コメント

  1. […]  映画館自体はギリギリで営業を続けていましたが、封切自体が延期になったり、こちらにも諸々と身辺の変化があって出かける時間が取りづらく、辛うじて毎年の目標である100本に達した格好です。重複して鑑賞したのも『ARIA The CREPUSCOLO』と『ヒーリングっど プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』の2作だけでした……もう1回劇場で観たい! と思った作品は幾つかあったんですが。ちなみに、年明け早々に『ARIA the BENEDIZIONE』はもういっかい観ます。 […]

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