『スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ!』

ユナイテッド・シネマ豊洲、施設入口付近に掲示されたポスター。

原作:東堂いづみ / 監督:黒田成美 / 脚本:米村正二 / キャラクターデザイン:川村敏江 / キャラクターデザイン&作画監督:小松こずえ / 美術監督:佐藤千恵 / 美術設定:増田竜太郎 / 色彩設計:秋元由紀 / 制作担当:額賀康彦 / 音楽:高梨康治 / 声の出演:福圓美里、田野アサミ、金元寿子井上麻里奈西村ちなみ大谷育江陶山章央安元洋貴阿部敦日笠陽子、吉田小南美、小林由美子、てらそままさき、林原めぐみ / 配給:東映

2012年日本作品 / 上映時間:1時間11分

2012年10月27日日本公開

公式サイト : http://www.precure-movie.com/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2012/11/08)



[粗筋]

 星空みゆき(福圓美里)は伝説の戦士プリキュアとして一緒に戦う4人の仲間たちと一緒に、世界中の絵本を題材にしたテーマパークを訪れた。絵本好きのみゆきを中心に、日野あかね(田野アサミ)、黄瀬やよい(金元寿子)たちも、日常とは少し異なる世界に浸ってはしゃぎまわる。

 みゆきたちは会場の片隅に、映画館らしき施設を見つけた。興味津々で上映に臨んだ5人の前のスクリーンで繰り広げられたのは、西遊記に登場する金角・銀角にひとりの女の子が追い回される場面。やがて、スクリーンが目映く輝いたかと思うと、中で追いかけっこをしていた面々が飛びだしてきた。事情が解らぬまま、プリキュアに変身したみゆきたちは、金角・銀角をどうにか撃退して女の子を救う。

 助けられた女の子は、ニコ(林原めぐみ)と名乗った。彼女は絵本の世界の住人であり、お礼にみゆきたちを自分の世界に招待、それぞれの好きな絵本の物語の主人公を体験させてくれるという。みゆきはシンデレラ、あかねは一寸法師、やよいは孫悟空緑川なお(井上麻里奈)は浦島太郎に、そして青木れいか(西村ちなみ)は桃太郎に扮し、主人公気分を味わおうとするが、どういうわけか、彼女たちの経験する話は、どこか記憶と違う筋道を辿るのだった……

[感想]

 テレビシリーズ自体が2年続いた『ふたりはプリキュア』、『Yes!プリキュア5』を除き、この“プリキュア”はシリーズと言い条、基本は1年ごとに新たな世界観、新たなキャラクターが構築されている。一貫しているのは、異世界から救いを求めてきた妖精によって、少女たちが“プリキュア”と呼ばれる伝説の戦士に変身する能力を与えられ(或いはその才能が開花するように導かれ)、身近な出来事に悩まされつつも戦いに身を投じる、という部分くらいだ――男の子向け作品のように荒々しい造形がなく、意匠が基本的に可愛いのはまあ当然のこととして。

 だが、その一方で、1作ごとに研鑽を積み重ね、変化、成長を遂げている、という点で、間違いなくこれらの作品はシリーズとして繋がっている。シリーズ全体として9年目、そして映画版として13作目を数える本篇も、旧作に対する反省や、美点を意識的に踏襲した痕跡が窺える。

 シリーズ5作目『フレッシュプリキュア!』まで、劇場版ではTVシリーズと異なる世界からの敵が登場、同じヒロインたちが登場しながらもTVシリーズの中での位置づけが不明瞭である場合がほとんどだったが、『ハートキャッチプリキュア!』は同じ世界観のなかで別の敵を用意するかたちで緩やかにTVシリーズと連携する趣向を採り入れた。翌年の『スイートプリキュア♪』はこれを更に敷衍し、そのままTVシリーズの1話に組み込んでも違和感のない話に仕立てたが、しかしその一方で、劇場版としての特別な雰囲気をやや損なう結果となった。基本的にTVシリーズに親しんでいる層のみ対象にしているシリーズだが、あまりにかっちりと填め込んでしまったことで、見逃しや中途半端な理解で入ってくることを拒絶してしまう印象が付きまとってしまっている。

 本篇には、この『スイートプリキュア♪』の失敗を考慮した節がはっきりと感じられる。敵はTVシリーズと一致していないが、しかし絵本、お伽噺の世界が絡んでくる、という世界観はしっかりと地続きになっており、大幅に乖離した印象はない。だがそれでいて、本篇のどのあたりに組み込まれるのか、というところは明示していないので、TVシリーズをある程度観ていれば、違和感なく入り込むことが出来る。匙加減が少しずつ巧くなっていることがはっきりと感じられる。

 もっと顕著なのは、プリキュアたちが対峙する状況そのもののシチュエーションだ。細部は伏せるが、この流れはシリーズ全体としての先行作となる『プリキュアオールスターズ New Stage/みらいのともだち』の、趣向のひとつを踏まえた感がある。あれはあれで成功していた、と個人的には解釈しているが、それを更に洗練し、TVシリーズ劇場版定番の趣向のなかに絶妙に填め込んで昇華させている。

 そして、構成も非常に巧い。粗筋では省いたが、この物語はみゆきの幼少時代の出来事から始めている。それがやがて登場するニコの背景と絡みあい、クライマックスの胸を熱くさせる展開へと結びついていく、という、劇場版プリキュアの優れた流れを踏襲しているのだが、プロローグの性質ゆえに、一種“キュアハッピー・ビギンズ”のような内容にもなっている。TVシリーズを観ているひとなら、彼女の人物像がここから始まっていることに感心し、滅多にいないだろうがTVシリーズ未体験のひとでも、入り込みやすい流れとなっている。

 考えれば解釈が可能だとは言い条、どうしてニコを中心とする出来事が“プリキュア”たちと交差したのかが解りにくいし、クライマックスの台詞のやり取りはさすがにストレートすぎて面映ゆい、というあたりがいささか気になるが、このあたりを問題視するのはたぶん世界観に入りきれない大人ぐらいのものだろう。独自の美点、面白さを真摯に追求し、その結実として提示される、良質のシリーズの1本であることに変わりなく、とりわけ本篇は瑕疵の乏しさ、美点の見事な結実、という意味でシリーズのなかでもベスト3に数えられる出来映えである、と思う。

 ……と、ほとんどシリーズの1篇としての質の高さについて語ってしまったが、個人的に本篇を高く評価するのは、その描写の細やかさにも理由がある。

 この作品は話の要請から、昔話の内容がごく断片的に組み込まれる格好となる。そこでやたらとマニアックな題材を選ぶことなく、シンデレラ、桃太郎など年代問わずに馴染み深いものを拾って子供にも解りやすくしている、のはごく当然ながら、断片的な描写に、目敏い人間ならばこそクスリとしてしまうようなものを採り入れているのが快い。中盤以降の見せ場で昔話の要素が絶妙に絡んでくるのもそうだが、どうでもいいところにけっこう見所があるのだ。

 そして何より、肝心のプリキュアたちの性格を踏まえた描写が愉しい。こちらもクライマックスでそれぞれの得手を活かした戦い方をしているのは無論、会話が聴こえないオープニングのなかでさえも、実に各々のキャラクターを如実に感じさせる描写がちりばめられている。絵本の世界にいのいちばんにみゆきがはしゃぐのが当然なら、彼女にもっとも容易く感化されるやよい、どうしてもツッコミに廻ってしまうあかねに、ここでも面倒見のいいなお、という具合だが、とりわけ個人的にツボにはまってしまったのはれいかだ。

 これもプリキュア劇場版では恒例となった観客に注意を促す場面で、明らかに彼女が大人向けに話しているのもごく自然だが、特にニコが絵本の世界の住人であることを打ち明けるくだりの行動が実にいい。いちばんの常識人に見えて、少し行きすぎているくらいに順応性の高いれいかの面白さが、あの短いくだりで見事に表現されている。

 シリーズの中の位置づけという意味でも、物語の出来映えとしても優秀だが、何よりこういう細部への気配りが感じられることこそ、私が本篇を高く評価したい所以である。

関連作品:

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