『ハピネスチャージプリキュア! 人形の国のバレリーナ』

TOHOシネマズ西新井、スクリーン4の前に掲示されたチラシ。

原作:東堂いづみ / 監督:今千秋 / 脚本:成田良美 / キャラクターデザイン:佐藤雅将、大田和寛 / 作画監督大田和寛 / 美術監督:柴田聡 / 色彩設計:澤田豊二 / 製作担当:太田有紀 / 音楽:高木洋 / 出演:中島愛潘めぐみ、北川里奈、戸松遥松井菜桜子小堀幸、金本涼輔、山本匠馬、堀江由衣小野大輔森川智之ふなっしー / 配給:東映

2014年日本作品 / 上映時間:1時間11分

2014年10月11日日本公開

公式サイト : http://www.precure-movie.com/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2014/11/05)



[粗筋]

 愛乃めぐみ(中島愛)、白雪ひめ(潘めぐみ)、大森ゆうこ(北川里奈)、氷川いおな(戸松遥)の“ハピネスチャージプリキュア”と、彼女たちをサポートしている相楽誠司(金本涼輔)は、保育園で子供達のために人形劇を催した。子供たちに喜んでもらい、満足して後片付けをしていると、入れ物のなかに見知らぬバレリーナ人形が紛れ込んでいる。すると、その人形が独りでに動き出し、めぐみたちに話しかけてきた。

 つむぎ(堀江由衣)と名乗ったその人形は、自分たち人形が暮らすドール王国が、幻影帝国の刺客・サイアークに荒らされている、という。プリキュアたちをサポートする地球の精霊ブルー(山本匠馬)は、ドール王国というものに心当たりがないことを訝るが、プリキュアたちに助けて欲しい、というつむぎの願いを、めぐみが拒むはずもなかった。

 つむぎの言葉通り、ドール王国にはサイアークが溢れていた。幾度も戦いを経験し成長したプリキュアたちにとっては決して強い相手ではなかったが、いおなはやけに手応えがないことを却って不審に感じる。

 それでも、プリキュアたちに感謝したい、と言う人形たちにパーティに誘われると、イヤとも言えなかった。とりわけひめは、エスコートに現れたジーク王子(小野大輔)に一目惚れしてメロメロになってしまう。ゆうこやいおなも、いっときの休息を楽しむが、幻影帝国の魔手は既に間近まで迫っていた……。

[感想]

 毎年観ている変な大人ぐらいしか解らないだろうが、プリキュアシリーズはどこかしら変化し、進化を求めている。成功しているときもあれば失敗するケースもあるが、試行錯誤と研鑽が窺い知れるシリーズである。

 とはいえ、個人的には『ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』がクオリティとしては頂点で、以降は試行錯誤を感じさせつつも次第に伸び悩んできた感があった(ただし、リアルタイムでシリーズを観ているひとには問題なく楽しい)が、そういう評価をする私が、今回の仕上がりには舌を巻いた。

 物語の構成としては、シリーズが固めてきたフォーマットにほぼ則っている。ゲストキャラクターにより、テレビシリーズとは違う世界に招かれ、窮地に陥る。劇場に集まった子供たちの応援で、中心格のプリキュアが特別な力を得て、物語を決着へと導く。そういう意味では冒険をしていない。

 だがこの作品では、それらの要素が活きるために必要なツボを完璧に押さえているのだ。

 たとえばゲストである。テレビシリーズではやたらと浮き世離れした物云いが多く、“恋に恋する”を地で行くようなキャラクターだが、そんな彼女に打ってつけの“王子様”を用意している。テレビシリーズだと、めぐみの揺れる感情やいおなの過去との戦いなど、他のメインキャラの活躍に押されている感があるが、ここでは活き活きと飛び回っている。

“王子様”よりも更に効果を上げているのが、この劇場版の中心人物たる少女・つむぎである。そのまま物語の重要な鍵を握る彼女が投げかけてくる疑問は、実のところ本篇のテレビシリーズが抱えながらも、恐らくは尺や構成の都合で踏み込みにくい疑問だ。それを、劇場版の尺を使ってしっかりと受けとめている。劇場版だけで観ても本篇の主題は解りやすいが、テレビシリーズを観ているともっと伝わる構造になっている。

 しかもこの作品は、劇場版だけでも成立するが、テレビシリーズの1話として解釈しても何ら問題がない内容になっている。前述した通り、舞台が異世界であるのは劇場版の通例に従っているし、プリキュアと仲間たちを除くすべてのキャラクターはオリジナルだが、その世界観はテレビシリーズを逸脱していない。だから尚更に、テレビシリーズから違和感なく入り込めるし、逆に本篇からテレビシリーズに入っていくのも難しくない。ほとんどテレビシリーズと違うルールで動く悪役を作っていた初期シリーズも、それはそれで面白かったが、劇場版はあくまでテレビシリーズから派生した作品だ、という本来の意義を考えると共に、対象が若年層であることを考慮すれば、本篇のような趣向が理想的なのだ。

 故に、世界観がテレビシリーズから大幅に逸脱することなく、主題もテレビシリーズに極めて寄り添い、それでいて劇場版単独で成立するカタルシスを演出する本篇の内容は、プリキュア劇場版のなかでも屈指に近い出来映えと言っていい。

 更に特筆すべきは、絵のクオリティの高さである。1年間ぶっ通しで続くシリーズとしては充分に質を維持しているとはいえ、テレビシリーズのほうはやはり省力化を図っている印象があり、時として首をひねるような出来映えのときがある。もちろん、視聴者に毎週欠かさず届けるのに、常にスタッフのフルスペックを酷使していては身が持たないので、力を抑えることに文句はないのだが、その分、年に1度(オールスターズも含めると2度やってるのだが)のお祭りぐらいは豪華にして欲しい、というのはわざわざ劇場に足を運ぶ側としても当然の望みだろう。無論、この点でもプリキュア劇場版は欲求に毎回応えているのだが、本篇のクオリティはぐうの音も出ないレベルだ。動きの大きさ表情の豊かさ、場面場面の魅力、どれを取っても最高水準にある。

 また、ゲストであっても本職の声優を起用しているので、タレントなどの強引な起用が許せない、という向きも不満を持つことはないはずだ――ふなっしーがいるといえばいるが、本筋には絡んでいないし、演じているのもふなっしーそのものなので特に気にならない。むしろアレも妖精なのだから、作品の世界観は侵していない、とさえ言える。ついでに言えば、ゲストの声優がみな“大きなお友達”の心をくすぐる配役を施しているのも評価したい。

 特に過剰な要素を盛り込んでいるわけではない。これまでのシリーズで、確実に支持されてきた美点を徹底的に強化している。逆に、このあとどうすれば次のレベルに繋がるのか、怖くなるくらいの完成度に達した作品である――シリーズのどれが好きなのか、は各個の好みによるだろうが、ことクオリティについては、これこそ頂点、と言い切りたい。

関連作品:

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