『プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』

TOHOシネマズ上野、スクリーン4入口脇に掲示された『プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン4入口脇に掲示された『プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』チラシ。

原作:東堂いづみ / 監督:深澤敏則 / 脚本:村山功 / キャラクターデザイン&作画監督:板岡錦 / 美術監督:渡辺佳人 / CGディレクター:大曽根悠介 / 色彩設計:佐久間ヨシ子 / 撮影監督:高橋賢司 / 音楽:寺田志保 / 声の出演:悠木碧、依田菜津、河野ひより、三森すずこ、加隈亜衣、武田華、金田アキ、白石晴香、成瀬瑛美、小原好美、安野希世乃、小松未可子、上坂すみれ、木野日菜、吉野裕行、引坂理絵、本泉莉奈、小倉唯、田村奈央、田村ゆかり、多田このみ、野田順子、福島潤、稲垣来泉、平田広明 / 配給:東映
2020年日本作品 / 上映時間:1時間11分
2020年10月31日日本公開
公式サイト : https://spring.precure-movie.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2020/11/05)


[粗筋]
 花寺のどか(悠木碧)はその日、一緒に宿題をするために、沢泉ちゆ(依田菜津)と共に友達の平光ひなた(河野ひより)の家を訪ねる予定になっていた。道中、キャンプ場に向かう途中の女の子とぶつかったり、温泉巡りの途中の仲間とはぐれた女の子を案内したり、思わぬ出来事に遭遇したりしたけれど、普通の1日になる――はずだった。
 奇妙なのは、のどかたち3人が伝説の戦士プリキュアに変身するためのパートナーとなる妖精、ラビリン、ペギタン、ニャトランが何故かみんな《ミラクルンライト》と呼ぶアイテムを持っていたことだった。のどかたちが宿題を終えるのを妖精たちが待っていると、そこにミラクルン(稲垣来泉)という小さな妖精が現れる。そのときようやくラビリンたちは、この妖精からミラクルンライトを託されたことを思い出す。
 そこへ、奇妙な怪物たちが現れた。どうやらミラクルンはその怪物からずっと逃げ続けていたらしい。騒ぎに駆けつけたのどかたちは妖精たちの力でプリキュアに変身、応戦するが、それまでに戦ってきた相手とは違う強さに翻弄される。
 市街地でのどか=キュアグレースが窮地に陥ったとき、朝方出会った女の子たちが駆けつけた。実は彼女たちはそれぞれ《HUGっと!プリキュア》と《スター☆トゥインクルプリキュア》という、プリキュアの先輩たちだった。
 合流したちゆ=キュアフォンテーヌ、ひなた=キュアスパークルも合流し、形勢逆転したかに思えたとき、怪物たちの親玉、リフレイン(平田広明)は不適に呟く。12時になれば、また同じ1日が始まる、と。すると、奇妙な力が《HUGっと!プリキュア》、《スター☆トゥインクルプリキュア》たちを呑みこんでいく。キュアグレースたちは、ミラクルンに促され、ミラクルンライトを振って抵抗するが、彼女たちも吸い込んでいった――
 ふたたび気がついたとき、のどかは自分の部屋のベッドに横たわっていた。戸惑いながら朝の支度をするのどかだったが、起きる出来事すべてに覚えがある。
 それこそが、リフレインの力――あの怪物は、世界を同じ1日のなかに閉じ込めていたのだ。そして、この事態を脱出する鍵こそ、ミラクルンとミラクルンライトだった……


[感想]
 本来は毎年春先に公開されていた、《プリキュアオールスターズ》の系譜に連なる2020年度作品だったが、全世界の経済に大打撃を与えたCOVID-19の影響により、本篇も2020年3月20日の封切りが延び延びになり、例年テレビシリーズ単独の劇場版が公開される時期である10月にズレ込んでしまった。
 その影響が本篇の冒頭で如実に顕れている。劇場版プリキュアのシリーズでは、本来のターゲット層である子供には小さなライトがグッズとして渡され、作中のキャラクターからの呼びかけでそれを振って応援する、という参加型イベントがあるのが恒例だった。今回も、小さな観客には、劇中に登場する《ミラクルンライト》が入場者プレゼントとして用意されているが、従来とは反対に、上映中は振らないように指示をする。また、振り回したり光を直視したりする、などの危険行為に対する注意をキャラクター達がするのもお馴染みの光景だが、今回、本篇には登場しない《ヒーリングっど プリキュア》4人目のメンバー・キュアアースがここだけに顔を見せる。前述の通り、毎年10月がテレビシリーズ単独の劇場版が公開される時期であり、本篇が本来公開されるはずだった3月には彼女はまだお目見えも済んでいない。封切りが遅れたがゆえに、不自然な不在が出来てしまった彼女のために、従来ならあり得ないアナウンスでの登場、という配慮をしたのだろう。
 また、オールスターズが春先に定着したあたりから、本篇のあとに次の作品の特報を出すのも恒例だが、恐らくは制作初期段階での告知であるため、たいていはタイトルとごく大まかなイメージ映像しか出て来ない。初期の作品では、本篇あとに流れる予告篇と、実際に完成された次回作の映像が一致しない場合もあったほどだ。だが本篇に添えられた、2021年3月21日公開予定の次回作『ヒーリングっど プリキュア ゆめのまちでキュン! っとGoGo! 大変身!!』の予告はやたらと具体的で、既に制作の進みつつある作品から抜粋した、という印象を強く受ける――むろん、実際に完成した作品と比較してみなければ解らないが、恐らく今回は、封切りがここまでズレ込むとは考えずに制作を継続していたため、この『プリキュアミラクルリープ』公開時点でだいぶかたちになっているのだろう。そういうところにも、流動的な事態に翻弄されていたことが窺える。
 予告篇はともかく、冒頭のアナウンス部分については、映像ソフトとしてリリースされる際には本来のかたち(中盤に加わるキュアアースを省いた、初期メンバーのみでのアナウンス)に差し換えられる可能性もある。だが、これを書いている時点で公開中の本篇には、確実にリアルタイムの世相が映しだされている、と言えよう。

 作品の評価とは関係のないところで長々と記してしまった。そうした、リアルタイムで鑑賞する作品としての混乱ぶりは窺えるものの、しかし内容と映像的な仕上がりは変わらずプリキュア劇場版のらしさ、魅力を保っている。意欲的で、完成度が高い。
 大人からするとまず、タイトルに“リープ”の文字があるだけで驚く。幼い女の子を主なターゲットとする映画で、“タイムリープ”を題材にするのはそれ自体かなりの冒険だ。同じ日を繰り返す、というシチュエーションはSFではお馴染みのもので、工夫次第で様々な見せ方も可能だが、必然的に生じる“繰り返し”で、飽きやすい子供たちをどのように惹きつけるか、“リープ”からの脱出をどのようにカタルシスとして演出するか、という難しさがある。
 如何せん、こうやって語っている当人がいい大人なので、断言はしかねるのだが、本篇はかなり解りやすく整理していると思う。煩雑かつ退屈になりがちな反復は最小限に、しかし“同じ日を何度も繰り返す”という設定ならではの妙味もちゃんと楽しませつつ、カタルシスも明快だ。これはむしろ、本篇が基本ヒーローものの流れを汲んでいて、“倒すべき敵がいる”という大前提があるお陰で解りやすくなった感がある。どうすれば収束に向かうのか、がはっきりしているので、恐らく子供にも把握しやすいはずだ。
 そして相変わらず、ドラマの組み立ても巧い。冒頭、まさかの妖精たちの“活躍”からの始まりで度肝を抜いたところで、現行シリーズの中心であるのどかの視点に移り、現行シリーズの仲間たちと旧シリーズのプリキュアたちが顔を見せる。アクション・シーンでは変身のくだりも可能な限り盛り込み、直近のシリーズを楽しんできた層を丁寧に喜ばせる。
 初期の“オールスターズ”は、あまりにも増えすぎたプリキュアたちにまんべんなく見せ場を与えようとするあまり、ストーリーがおざなりになりがちだったが、近年は直近の2、3シリーズまでに絞り、更に現行シリーズのプリキュアたちに主役を委ねることで、ストーリーの質を高めている。その発展ぶりは本篇でも明瞭で、大人でも見落としてしまいがちなところに伏線を設けたり、振り返ってハッとなるような描写も仕込んである。大人はもちろん、後年になってこの記事をご覧になっているかたも、機会があればいちど頭から見直していただきたい。思いのほか繊細に組み立てられている。
 また、私が本篇で特に評価したいのは、アクション・シーンに空間の広がりを感じられる点だ。テレビシリーズなどでは、作画のカロリーを下げるなのだろう、森などの変化が最小限で済む環境であったり、極めて限られた空間で戦うため、どうしても迫力に欠くきらいがある。しかし劇場版ではこの制約が緩くなるので、勃然と躍動的になるのだが、本篇はそれまでにのどかが移動し、他の場面でも登場した背景を駆使し、移動距離の長さやアクションのスピード感を演出、躍動感が格段に増している。大きなスクリーンに映すため、被写体が小さくなっても視認出来るのだから、そうするのが正解だし、他の劇場版でも同じような工夫はしているが、本篇は印象に残るくらいに質が高い。とりわけ、キュアフォンテーヌが最初の交戦で見せる躍動感は絶品だった。
 不満がないわけではない。リフレインの動機や、いったいどこから現れた存在なのか、というポイントはドラマとも結びついていて巧いのだが、過程でもう少しヒロインたちからの共感があれば、更に深みは増したはずだ。また、初公開時には封印されてしまった格好だが、お馴染みのスクリーンから応援を求めるくだりで、観客を待つ余白をもう少し用意すべきだったように思う。尺の都合も大きいのだろうが、どうしてもその辺りが性急に見えてしまうのだ。
 とはいえ、これは難癖をつけているに過ぎない。基本、1時間10分程度の限られた尺に、平明なかたちで“タイムリープ”ものの面白さを詰め込み、胸を震わせるドラマもきっちり作っているのだから、やはり完成度は極めて高い。常々、「劇場版プリキュアは日本のアニメーション文化の精髄だ」と思っているが、改めてその確信を深める仕上がりだった。


関連作品:
プリキュアスーパースターズ!』/『HUGっと!プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』/『プリキュアミラクルユニバース』/『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて
プリキュアオールスターズDX/みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』/『プリキュアオールスターズDX2/希望の光☆レインボージュエルを守れ!』/『プリキュアオールスターズDX3/未来にとどけ! 世界をつなぐ☆虹色の花』/『プリキュアオールスターズ New Stage/みらいのともだち』/『プリキュアオールスターズ New Stage2/こころのともだち』/『プリキュアオールスターズ New Stage3/永遠のともだち』/『プリキュアオールスターズ 春のカーニバル♪』/『プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪ 奇跡の魔法!』/『プリキュアドリームスターズ!
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