『AKIRA アキラ(1988)』

TOHOシネマズ新宿、5階ロビー部分に掲示されたIMAX版ポスター。 
原題:“AKIRA” / 原作&監督:大友克洋 / 脚本:大友克洋、橋本以蔵 / プロデューサー:鈴木良平、加藤俊三 / 製作:野間佐和子 / 作画監督:なかむらたかし / 作画監督補:森本晃司 / 美術監督:水谷利春 / 撮影監督:三沢勝治 / 編集:瀬山武司 / 効果:倉橋静男 / 音楽監督:山城祥二 / 録音:瀬川徹夫 / 音響監督:明田川進 / 声の出演:岩田光央、佐々木望、小山茉美、玄田哲章、石田太郎、鈴木瑞穂、神藤一弘、中村龍彦、伊藤福恵、渕崎有里子(渕崎ゆり子)、大倉正章、草尾毅、大竹宏、北村弘一、池水通洋、荒川太郎、岸野幸正、平野正人、田中和実、秋元羊介 / 配給:東宝 / 映像ソフト発売元:バンダイナムコアーツ
1988年日本作品 / 上映時間:2時間4分 / PG12
1988年7月16日日本公開
2020年4月24日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon|4Kリマスターセット:amazon|4Kリマスターセット amazon.co.jp限定:amazon]
公式サイト : https://v-storage.bnarts.jp/sp-site/akira/
TOHOシネマズ日劇にて初見(2018/1/28) ※“さよなら日劇ラストショウ”上映作品として
TOHOシネマズ新宿にて再鑑賞(2020/4/7) ※IMAX with Laser上映


[粗筋]
 1988年、新型爆弾の投下により東京は崩壊、世界は3度目の大戦に突入した。
 それから31年を経た2019年、東京湾に再建された都市はネオ東京としてふたたび繁栄を始める一方、局地的なスラム化も進んでいた。社会への不満は大規模なデモやテロ活動、更には新興宗教が横行し、混沌とした様相を呈している。
 その日、金田(岩田光央)は職業訓練校の仲間たちと共に、対立する暴走族クラウンの行方を追っていた。ようやく一団を発見、バイクを駆って抗争を繰り広げるなか、先行して飛び出した鉄雄(佐々木望)が事故を起こす。呻きながら鉄雄が指さした先に、金田は一瞬、異様に年老いた顔をした子供を見た。
 金田達は警察に連行されたが、鉄雄は敷島大佐(石田太郎)が指揮する部隊によって収容されてしまう。警察ではどうやらテロ行為に関わったグループを探しているらしく、不良同士の小競り合いに過ぎなかった金田達は間もなく放免されたが、鉄雄の行方については伝えられなかった。
 その頃、病院で謎の検査を受けさせられていた鉄雄は、人目を盗んで病院を抜け出す。同じ学校に通うガールフレンドのカオリ(渕崎有里子)と合流してバイクを走らせるが、そこをクラウンの連中に発見されてしまい、袋叩きにされる。クラウン達がカオリに暴行しようとしたとき、金田達が駆けつけ、辛くも窮地を脱した。
 だがその直後、鉄雄は激しい頭痛を訴える。悶絶する鉄雄を金田達が心配していると、彼らの前にあの不気味な子供が現れた。ふたりが邂逅した途端、発生し始めた怪現象に戸惑う隙に、またしても現れた敷島大佐率いる部隊が、鉄雄とあの子供を揃って回収して去っていく。
 いったい鉄雄の身に何が起きたのか。そして、鉄雄の頭に呼びかける“アキラ”とは何なのか……?


[感想]
 劇中で新型爆弾が投下されたのと同じ日に公開されて以来、伝説と化している作品である。
 今でこそ製作期間2年、製作費1億超えは劇場向け作品としてそれほど不自然な計画ではないが、公開当時に製作期間3年、費用は10億円を超える、という破格の体制で作られている。しかも監督は原作を手懸けた大友克洋自身が担当している。ちょうど製作が始まる少し前に宮崎駿が自身の連載作品『風の谷のナウシカ』を発表し評価されているが、その影響もあるのかも知れない。

 製作背景も興味の湧くところだが、そんなことを抜きにしても、滅法面白い作品であることは確かだ。
 冒頭から矢継ぎ早に物語は展開していく。本来の“東京”をあっさりと葬り、跡地にネオ東京が建設されると、暴走族達の疾走感に富んだ抗争が始まる。並行して描かれる社会の騒乱、そのなかから現れた奇妙なふたり連れの物語が金田達と交錯する。鉄雄が軍によって攫われると、金田が偶然から関わるレジスタンスの行動と、鉄雄を軸とする軍の動きが交互に描かれていく。適度な説明を交え必要な設定は巧みに観客へと浸透させ、予測が困難な展開にのめり込ませてしまう。指向しているのはハードSFなのだが、恐らくSFに関心の薄い観客でも惹きこまれてしまうはずだ。
 そうした間口の広さには、深遠な設定と緻密な書き込みの一方で、描かれるドラマが多くの観客にとって共感しやすいものである、という点も貢献している。
 鍵を握る者たちは、大崩壊を経て過酷な運命に晒され、多かれ少なかれ歪んでしまった者ばかりだが、しかし物語を牽引していくのは、そんななかにあっても、本質的に普通であり続けた少年たちや少女たちだ。
 自ら進んでレジスタンス活動に身を投じていると思しきケイはともかく、物語の軸となる金田も鉄雄も、決して社会正義や何らかの理想に従って生きているわけではない。屋版だがこの時代、この世界観だからこその日常のなかで、束縛を感じながらも欲求や享楽にある程度正直に生きようとしている。登場したばかりの金田は粋がった不良少年に過ぎず、鉄雄はそんな金田や仲間たちにいくぶん軽視されていることを自覚し、しかしそこでどうにか折り合いをつけて自らの立ち位置を作っていた。
 だがそこに、特殊能力の存在が介入することで、関係性が捻れてしまう。鉄雄は圧倒的な力を手にしたことで、それまで金田や仲間たちに対して抱いていた劣等感、鬱屈が噴出、無軌道な暴走を重ねていく。その一方で、そんな鉄雄に対する侮りのあったはずの金田は、囚われている段階では鉄雄を連れ戻すためにレジスタンスに加わり、圧倒的な力を見せつけられてなお、危険を顧みず自らの手で鉄雄に引導を渡そうとする。
 鉄雄の暴走には、精神的に弱いところのある彼のような人間も、不良グループに加わり肩肘張るかたちでなければ生きられないこの世界の現実があり、鉄雄を救出するためにレジスタンスも利用しようとし、最後は軍部や大人らを頼ることをしない金田の姿にも、そうやって自らの力で解決しなければならなかった少年たちの現実が垣間見える。そうしたディープなSF設定と、中心となって動くふたりの少年のドラマが見事に溶けあい、昇華し合っているから、本篇の物語としての強度は著しく高い。
 それでも終盤近くなると咄嗟に理解しづらい描写も現れてくるのだが、金田と鉄雄の感情や意地が激突する白熱のドラマに引っ張られて意識する暇がない。牽引力の強さは並大抵の娯楽映画では太刀打ち出来ないほどだ。
 本篇が製作されたのは1980年代であり、画面から滲む古さはリマスターを経ても隠せていない。ただ、当時としては異例の枚数を費やしたという動画のお陰で、動きの滑らかさはCG全盛の現代と比較しても美しい。また今となっては、1980年代の視点で想像した2019年の文化やそのヴィジュアルが、作品に美術的な価値も加えている。
 私が初めて本篇を鑑賞したのは、日劇の閉館に伴う企画上映の際で、公開当時に用いられていたフィルムが素材として用いられていたのだが、画面の傷もさることながら、音声が粗く台詞が聴き取りづらい場面があることが残念だった。しかし、劇中の時代設定に現実が到達したことを機に本篇には4Kリマスターが施され、極めて良好な状態で鑑賞することが可能となった。
 こうしたリファインは、新しいメディアの登場や、作品の発表から一定の期間を経た記念すべき時に施される。予算や人的資源を必要とし、一定のセールスがあることも見込まれて初めて実現するこうしたリマスター作業がきちんと行われていることが、本篇が優れた作品である何よりの証拠と言えよう。そして恐らく今後も折に触れ改修が施され、長く語り継がれていく作品となるはずだ。

 一時期、日本産のアニメやホラーのリメイク権がハリウッドで持てはやされていた。実際に『スピード・レーサー』や『ゴースト・イン・ザ・シェル』、『アリータ:バトル・エンジェル』など完成に漕ぎつけ日本に届くものも幾つかあったが、流れたものも無数にあるらしい。山崎貴監督によって前後篇で実写化された漫画『寄生獣』も、ハリウッドでの映画化が企画されていたという。
 実は本篇も、実写化の話がある。しかもかなり早い段階から噂は流れていた。幾度か監督の名前が浮上したのだが、その都度何らかの問題が生じて降板し企画が宙に浮く、というのを繰り返している。
 あまりにも設計が長期化すると、どこかで“断念”という話も出て来るものだが、本篇は作品の魅力故かなかなか立ち消えにならない。
 私が把握している、現段階での監督は『マイティ・ソー バトルロイヤル』の監督タイカ・ワイティティであった――が、ワイティティ監督は『バトルロイヤル』の好評から『マイティ・ソー』第4作への再登板が確定してしまった。なにせあちらは複数のシリーズが連携していく巨大なプロジェクトの一部であるため、組み込まれたが最後、目処が立つまで抜け出せないことは予想に難くない。
 案の定、2020年2月の段階でタイカ・ワイティティ監督は、「最終的に作られることにはなるだろうが、それが自分なのかは解らない」と発言しているそうで、どうやら確証は難しい状況になったようだ。
 この際、オリジナルのファンにとって満足する出来映えになるか、という問題をいったん無視して、ワイティティ監督の言葉通り、誰がメガフォンを取るにせよ、きちんと実現することを願いたい。あんまりいつまでもヤキモキさせないで欲しい。


関連作品:
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