『ファイト・クラブ』

TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『ファイト・クラブ』上映当時の午前十時の映画祭11案内ポスター。
TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『ファイト・クラブ』上映当時の午前十時の映画祭11案内ポスター。

原題:“Fight Club” / 原作:チャック・パラニューク / 監督:デヴィッド・フィンチャー / 脚本:ジム・ウールス / 製作:ロス・グレイソン・ベル、セアン・チャフィン、アート・リンソン / 製作総指揮:アーノン・ミルチャン / 撮影監督:ジェフ・クローネンウェス / プロダクション・デザイナー:アレックス・マクドウェル / 編集:ジェームズ・ヘイグッド / 衣装:マイケル・カプラン / キャスティング:レーライ・メイフィールド / 音楽:ザ・ダスト・ブラザーズ / 出演:ブラッド・ピット、エドワード・ノートン、ヘレナ・ボナム・カーター、ミート・ローフ、ザック・グルニエ、リッチモンド・アークエット、デヴィッド・アンドリュース、ジョージ・マグワイア、ユージニー・ボンデュラント、ジャレッド・レト、ポール・ディロン、ホルト・マッキャラニー / リージェンシー・エンタープライズ製作 / 初公開時配給:20世紀フォックス / 映像ソフト最新盤発売元:Walt Disney Japan
1999年アメリカ作品 / 上映時間:2時間19分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / R15+
1999年12月11日日本公開
午前十時の映画祭11(2021/04/02~2022/03/31開催)上映作品
2018年3月16日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD VideoBlu-ray Disc]
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/81281872
有楽町スバル座にて初見(2000/2/12)
TOHOシネマズ日本橋にて再鑑賞(2021/11/27)


[粗筋]
 ぼく(エドワード・ノートン)はいま、口に銃口を咥えている。何故だ? ただの会社員だったぼくが、何故こんな目に遭っている?
 少し前からぼくは不眠症に悩まされていた。大手自動車会社に勤務し、部屋は上等、服も家具も一流品に囲まれているが、担当部署はリコールの調査でストレスは日々蓄積を続けている。
 精神科の医師はそんなぼくに、「世の中にはもっと苦しんでいる人がいる」と諭し、睾丸がんの患者の集会を覗くよう勧められた。男性機能を失った嘆きを共有する患者たちとともに涙に暮れたぼくは、久々に熟睡することが出来た。
 以来、ぼくは夜な夜な様々な患者の集会に参加した。それぞれに異なる悲劇を持つ患者たちの話は刺激的で、しかも面識のないぼくの話も優しく受け入れてくれる。その爽快感が、気づけばクセになっていた。
 しかし、ぼくの平穏な日々は、マーラ・シンガー(ヘレナ・ボナム・カーター)の登場でふたたび破壊される。女性にも拘わらず睾丸がんの会合に姿を現すと、あちこちの会合で遭遇するようになる。偽患者であることを糾弾して追い出そうにも、ぼく自身が患者を装っている立場なので強く出られない。けっきょく、マーラとぼくとで参加する会合を振り分けることで手打ちにしたが、ぼくの不眠症は癒えなかった。
 そんな矢先、出張に出かけたぼくは、飛行機内で隣にいた男から話しかけられる。焼けに自信満々なその男の振る舞いは、強い印象を残した。
 出張から帰ると、ぼくを思わぬ災厄が待ち受けていた。留守中にぼくの部屋で爆発事故が起こり、ひとり暮らしのあいだに揃えた北欧風の家具もろとも室内が吹き飛ばされていたのだ。寝る場所を失ったぼくは、窮した挙句、飛行機で隣り合ったあの男の名刺を取り出していた。
 そうしてぼくはその男、タイラー・ダーデン(ブラッド・ピット)との異様な共同生活を始めたのだった――。


[感想]
 誰しも、自分の置かれている境遇に不満や不安を抱くものだ。だから、その不満をぶちまける作品や、現状から脱却しようとする物語に共感し、爽快感を覚える。
 しかし、それも度を過ごせば反感を招き、場合によっては脅威さえ覚えるようになる。本篇が衝くのは、まさにそういう領域だ。
 序盤はまったく物語の方向が掴めない。何らかの心理的問題によって不眠症を患った“ぼく”の境遇が異様にペースの速いナレーションとともに綴られ、難病患者の会合に入り浸る奇妙な日常へとスライドしていく。マーラ・シンガーの登場により“ぼく”の平穏が揺らぎはじめて、ようやくタイラー・ダーデンの登場へと至る。この男が、自らの境遇を唯々諾々と受け入れていた“ぼく”の人生観を揺さぶっていくのだ。
 恐るべきはタイラー・ダーデンのロジックだ。一見破天荒で支離滅裂に映るのだが、その言説には異様な説得力、魅力がある。現実の軛に囚われ、閉塞感に苦しめられる者は、この男の破滅を招く論理に、それと気づきながらも誘惑されてしまう。
 絶妙なのは、そのタイラーの破滅的なロジックが、決して序盤には剥き出しになっていないことだ。彼が最初に“ぼく”に対して誘ったのは、自分を殴ること。しばしばバーの外で繰り広げたこの殴り合いが、いつしか鬱屈を溜めこんだ野次馬たちを巻き込んでいく。そうして組織化されていった《ファイト・クラブ》が、タイラーという男の破滅的な思想を具現化していく。
 デヴィッド・フィンチャー監督は早くからCGを駆使した特異な構図やカメラワーク、そして完璧な統一感を保った画面造りをするひとだが、本篇ではそのセンスが物語の狂騒的なトーンと融合し、尚更すべてを魅力的に見せる。まさにドラッグに犯された状態としか思えない濡れ場の描写や、細かなカット割りで展開するファイト・シーンと、そこだけ切り抜いてもインパクトのある場面が無数にある。タイラーのしでかしたイタズラに触れるくだりでは、フィルム時代特有の仕様をネタにしたり、随所にサブリミナル的に画像を挟みこむようなお遊びもあり、いちど観ただけでは味わいきれない面白さも秘めている。
 いちど観ただけでは、という意味ではひとつ際立った趣向があるが、観終わってすぐには納得できないひともいるのではなかろうか。しかしそういうひとこそ、もういちど観ていただきたい。大胆かつ暴力的に綴られているようでいて、その実本篇は、この趣向については繊細に表現している。最初に観たときは不審に感じられた描写も、結末を知ったうえで鑑賞すると、きちんと意味があるのだ。
 ちなみに本篇は同題の小説に基づいているが、結末は少し違っている――趣旨としては似通った部分もあるが、恐らく余韻はかなり異なる。原作に魅せられてから本篇を鑑賞すると、いささか楽天的に映るラストシーンに不満を抱く向きもあるかも知れない。何より、当事者はともかく、社会的にはかなり大変な事態になってしまっている。
 しかし、その常識の観点によるやり切れなさもまた、本篇の妖しい魅力のひとつと言える。それが危険な発想であればこそ、本篇は触れるものを惹き寄せてしまうのだろう。悪夢に転じる原作の終幕より、この映画版のほうがテーマにはそぐわしい、とさえ私は考える。
 デヴィッド・フィンチャー監督とブラッド・ピット主演という、特異な存在感を放つ傑作『セブン』のコンビの再集結作という点でも注目された本篇だが、20年を経たいまでもそのインパクトが衰えていないことこそ本篇の最大の凄みかも知れない。色んな意味で、恐ろしい作品である。


関連作品:
ベンジャミン・バトン 数奇な人生
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