『テッド(吹替)』

TOHOシネマズ西新井、無人券売機待機列の入口に設置された注意書き入りポスター。

原題:“Ted” / 監督、原案&声の出演:セス・マクファーレン / 脚本:セス・マクファーレン、アレック・サルキン、ウェルズリー・ワイルド / 製作:スコット・ステューバー、セス・マクファーレン、ジョン・ジェイコブス、ジェイソン・クラーク / 製作総指揮:ジョナサン・モーン / 撮影監督:マイケル・バレット / プロダクション・デザイナー:スティーヴン・ラインウィーヴァー / 編集:ジェフ・フリーマン / 衣装:デブラ・マクガイア / 視覚効果監修:ブライアー・クラーク / キャスティング:シェイラ・ジャフィー / 音楽:ウォルター・マーフィ / ナレーション:パトリック・スチュワート / 出演:マーク・ウォルバーグ、ミラ・クニス、ジョエル・マクヘイル、ジョヴァンニ・リビシ、パトリック・ウォーバートン、マット・ウォルシュ、ジェシカ・バース、エイディン・ミンクス、ビル・スミトロヴィッチ、ノラ・ジョーンズサム・ジョーンズトム・スケリット、ブレットン・マンリー、ラルフ・ガーマン、アレックス・ボースタイン、レイ・ロマーノライアン・レイノルズ、テッド・ダンソン / 声の出演(日本語吹替版):有吉弘行、咲野俊介、斎藤恵理、沢城みゆき釘宮理恵 / ファジー・ドア/ブルーグラス・フィルムズ/スマート・エンタテインメント製作 / 配給:東宝東和

2012年アメリカ作品 / 上映時間:1時間46分 / 日本語字幕:種市譲二 / 吹替翻訳:税田春介 / 字幕&吹替版監修:町山智浩 / R15+

2013年1月18日日本公開

公式サイト : http://ted-movie.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2013/02/05)



[粗筋]

 1985年、ボストン郊外。ひとりの孤独な少年の願いが、世界が忘れつつあった“魔法”を現実のものにした。友達のいなかったジョン・ベネットは、クリスマスの日、プレゼントでもらったテディ・ベアのぬいぐるみが、ずっと傍にいて、あらゆる悩みを相談できる親友になってくれれば、と思い、本当に動き出してくれるように願ったのだ。驚くべきことにその願いは受け入れられ、“テッド”と名付けられたぬいぐるみは翌る朝、自らの意志で語り、動き始めた――この奇跡はたちまちのうちにアメリカ全土を席巻し、テッドは一躍人気者となったが、誓い通り、“親友”ジョンを決して裏切ることはなかった。

 ……それから、27年が過ぎた。

 成長したジョン(マーク・ウォルバーグ/咲野俊介)とテッド(セス・マクファーレン有吉弘行)はいまも変わらずに親友同士だった。4年前、ジョンが運命的な出会いを果たした恋人ロリー・コリンズ(ミラ・クニス斎藤恵理)と同棲するアパートにも、テッドは当然のように居座っている。

 しかし、変わらない、というのも大問題だった。かつてアメリカ中のアイドルだったテッドはとうの昔に忘れ去られ、落ちぶれた子役タレントよろしく、麻薬の悪徳に溺れ、利発だった物云いを悪口雑言に研ぎ澄ませ、すっかり憎たらしいオッサンに成り果てており、親友ジョンとうだつの上がらない日々をエンジョイしている。それ故に、交際4年という節目にも、ジョンはロリーに求婚する度胸が出来なかった。

 ロリーも、ジョンからのプロポーズを待ちわびているのだが、やはり彼女の眼から見ても、テッドの存在は問題だった。ふたりが親友なのは承知しているが、30代も半ばを過ぎて、未だにベッタリで暮らしていたら、成長することも適わない。記念日のディナーの席で諭され、ジョンも納得するのだが、決定打となったのはその帰りだった。テッドはよりによって留守のあいだにコールガールを招き、乱行を働いていたのである。

 テッドも自分の行いを反省し、別れて暮らす、という提案に頷かざるを得なかった。かつては有名人だったテッドも、いまはプーに過ぎない。首尾よくスーパーに働き口を得、かくして“喋るぬいぐるみ”も普通の大人として自立した、かに見えたのだが……

[感想]

 ぬいぐるみが自分の意志で動き、歩き、ものを言うようになったとしたら、きっと自分にとって最高の親友になるに違いない――小さい頃にそんなことを考えた経験がある、というひとはきっと少なくない。だが、それが実現して、大人になっても大親友のままでいる、というシチュエーションを本気で想像するひとは、意外にいなかった。そこに目をつけた、という一点だけでも、本篇は半分くらい“勝った”も同然と言えるかも知れない。

 そこで妙に遠慮していれば生ぬるいファンタジーに終わるだろうところを、本篇は日本でもR15+という高いレーティングをあえて甘受し、赤裸々に、生々しく描写することを徹底した。下ネタを繰り出す皮肉屋で、日頃から乱行三昧の基本ニート。止むに止まれず働き出しても、その本質は変わらない。

 だが、本篇がアメリカ本国は無論、日本でもヒットを果たしたのは、それらに加え、世界観の構築やストーリーの構成に芯が通っているからだろう。ひたすらバカをやっているようでいて、決して野放図にバカを許しているわけではない。

 もし本当にテディ・ベアが自分の意志で動いたとしたら? というシミュレーションに、非常に説得力がある。そんな美味しいネタをマスコミが放っておくはずもなく、一躍時代の寵児になるものの、他に芸がないのなら当然で、すぐに消費され飽きられる。作中でも何度か、テッドが自らを人気の子役になぞらえる場面があるが、この凋落振りの描き方にはまさに、よく聞く往年のスター、名子役の後年を彷彿とさせる。そこに、子役といえど容赦なく消耗させる芸能界への諷刺も籠められている、と捉えることも出来ようが、仮にそこまで深い意図がなかったとしても、“動くテディ・ベアの末路”を描く上で絶妙のモデルを選んでいるのは確かだ。

 少年の最大の理解者となり、彼の価値観を肯定して歳を重ねた結果、少年もろとも駄目なひとになっている、というのも、さもありなん、である。もと少年ジョンはいちおう職を得ているもののうだつのあがらない有様で、働くこともなく悪徳漬けのテッドは当然のようにジョンを怠惰な道へと引きずり込んでしまう。ぬいぐるみが動く、という事態の顛末としてはいささか残酷でさえあるが、かなり本質を衝いていると言えよう。

 だが、本篇がそういう愚かさや、品のない物事を扱いながら、あまり不快感を与えないのは、そこに一定の“常識感覚”を留めているからだ。ロリーの説教に、ジョンも危機感を覚えていることを打ち明けるし、口が達者でしょっちゅう世間をなじっているようなテッドも、自省を促されるとけっこう素直に応えてしまう。享楽というハレの部分を堪能しつつも、ケの部分を軽んじていない辺りが実感的だ。

 そういう意味では、この作品の物語において、ロリーの果たしている役割は非常に大きい。最初から最後までブレることなく、テディ・ベアが大人になった、とは違う意味での“大人”を貫いてくれているから、本篇は快さを保っている。さながら、ジョンとテッドという大きな“ガキ”を見守る、寛大な母親めいた存在になっている。彼女がいるから、やもすると“キモチワルイ”と切って捨てられそうな描写が、爽快感を保っているのだ。

 もちろん、ギャグそのものの切れ味が優れていることも間違いない。終始フィーチャーされる、往年のカルト作品『フラッシュ・ゴードン』を筆頭に、『スター・ウォーズ』や『ナイトライダー』など、80年代を経験しているひとには懐かしいネタがちりばめられ、やもするとマニアックになりそうなところを、巧みな処理によって、知らないひとでも笑いを誘われる描写に結びつけている。畳みかける勢いでツウを唸らせつつも、一般的な観客を軽んじていないところも本篇の美点だ。

 他方、そうしたマニアックさによらないギャグの扱いがまたうまい。コールガールを招いたひと幕や、スーパーのレジ係を口説くくだりの、剥き身に過ぎる下ネタも効いているが、細かなネタ振りを怠らない、伏線を活かした笑いの引き出し方を随所で仕掛けてきている。個人的にいちばんお気に入りなのは、テッドが就職するスーパーでのくだりだ――詳しくは述べないが、こういうシチュエーションは世界観がしっかり固まっていなければ有効にはならない。こまめな工夫が、本篇のクオリティに貢献しているのだ。

 大枠となるストーリー自体はだいたい予想できるし、この結末が単なる妥協にしか映らず、釈然としない想いを抱いて評価を落とすひともいるだろう。だが、本篇はそういうところまで含め、愚かさを自覚して匙加減を保っていることが窺える。バカだけど、そこに甘んじることも、しかしその立ち位置を軽んじることもない姿勢が、本篇をお下劣でも好感の持てる作品にしているのだろう――R15+という高いレーティングをはねのけ、コメディ作品としては久々の大ヒットを遂げているのも当然と言えそうだ。

 私はふだん、洋画についてはなるべくオリジナルの音声のニュアンスを感じたいので、言語が充分に理解できなくても字幕版で鑑賞するのだが、本篇はあえて吹替版を選択した。ヒットを目論む作品で、吹替版の声優にタレントを起用する、というのはよくある手法だが、本篇の場合、そこに毒舌で知られるタレント有吉弘行を配した、ということに、個人的に興味を抱いたからだ。

 オリジナルでテッドを演じているセス・マクファーレン監督とは声質がまるで異なるものの、異なっているからこそ、キャラクターのイメージを膨らませる配役が活きてくる。テレビで充分すぎるくらいに顔の売れてしまった人物であるだけに、随所で顔が思い浮かんでしまうのも事実だが、テッドの“愛ある毒舌”ぶりには異様にマッチしていて、観ているほどに違和感は薄れてくる。キャラクターが合っているお陰もあるのだろう、芝居が下手、という印象もなく、私が予想していた以上にはまり役だった。

 全世界的に好成績を上げたこともあり、本篇には当然のように続篇の企画が持ち上がっているようだ。もし無事に完成した暁には、是非ともまた有吉にテッドを演じてもらいたい――さすがにもう、テレビから姿を消すことはないだろうし。

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