『スナッチ(2000)』


原題:“Snatch” / 監督&脚本:ガイ・リッチー / 製作:マシュー・ヴォーン / 製作総指揮:スティーヴン・マークス、ピーター・モートン、アンガッド・ポール、トゥルーディ・スタイラー、スティーヴ・ティッシュ / 撮影監督:ティム・モーリス=ジョーンズ / プロダクション・デザイナー:ヒューゴ・ルジック=ウィオウスキ / 編集:ジョン・ハリス / 衣装:ヴェリティ・ホークス / キャスティング:ルシンダ・サイソン / 音楽:ジョン・マーフィ / 出演:ベニチオ・デル・トロ、デニス・ファリーナ、ヴィニー・ジョーンズ、ブラッド・ピット、ラデ・シェルベッジア、ジェイソン・ステイサム、アラン・フォード、マイク・リード、ロビー・ジー、レニー・ジェームズ、ユエン・ブレムナー、ジェイソン・フレミング、エイド、ウィリアム・ベック、アンディ・ベックウィズ、スティーヴン・グレアム / 配給&映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment
2019年日本作品 / 上映時間:1時間44分 / 日本語字幕:? / PG12
2001年3月10日日本公開
2017年9月6日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon|Blu-ray 新録吹替ディスク付:amazon]
公式サイト : http://www.snatch-jp.com/ ※閉鎖済
日比谷スカラ座1にて初見(2001/03/24)


[粗筋]
 フランキー・フォー・フィンガーズ(ベニチオ・デル・トロ)たち4人の強盗が、ラビを装い宝石商を襲撃した。狙っていた86カラットの特大ダイヤモンドを奪うと、フランキーは単身ロンドンへ飛び、闇取引で現金化を図る。
 だが、一緒に強盗に入った男は、その稼ぎを奪うべく、違法な取引で収入を得ているロシア人のボリス・ザ・ブレイドに連絡を取った。ボリスは裏で情報のやり取りがあったことをフランキーに悟らせぬため、質屋のソルたち3名を雇い、別の強盗を装ってフランキーから宝石の横取りを目論む。
 同じ頃、闇ボクシングのプロモーターであるターキッシュ(ジェイソン・ステイサム)は思わぬ窮地に立たされていた。
 収益を上げるべく、ターキッシュは闇ボクシングの胴元でありギャングの元締めでもあるブリックトップ(アラン・フォード)と接触、八百長を仕掛けることになっていた。
 だがその直前、ボロになった事務所代わりのトレーラーハウスを新調するため、仕事仲間のトミーを流浪民のもとへと送りこんだ。しかしトミーは騙されて不良品を掴まされ、言い争いの挙げ句に決闘へと発展する。用心棒として子飼いのボクサー、ゴージャス・ジョージを同行していたトミーだったが、迂闊にも相手の実力を見誤った。流浪民のニッキー・オニール(ブラッド・ピット)は素手ボクシングの達人であり、一発でジョージは重傷を負わされてしまう。
 出場させる選手がいなくなってしまったが、既に賭けは始まっており、カードを取り下げることは出来ない。代役を立てなければ、ターキッシュたちはブリックトップの飼う豚の餌にされてしまう。
 巨大なダイヤモンドと、闇ボクシングの八百長計画。ロンドンを舞台に輻輳する目論見が、やがて思わぬかたちでもつれていく――


[感想]
 映画を作りたい、という思いからマシュー・ヴォーン(のちの『キングスマン』シリーズ監督)とともに企画を起こし、スティングからの出資を受けて『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』を発表、高く評価されたガイ・リッチー監督が、ブラッド・ピットやのちのオスカー俳優ベニチオ・デル・トロらを招き、2000年に満を持して発表した長篇2作目である。
 作りは基本的に前作を引き継いでいる、と言っていい。舞台はロンドンの下町、ギャングやチンピラ達がそれぞれの動機、目的によって別々にしていた行動が思わぬところで絡みあい、想定外の騒動に発展していく。終盤でド派手な事態に至ることも共通しており、前作で受け入れられた方法論に、増えた製作費と新たに招き入れた俳優たちのネームバリューで拡大して再度挑んだのが明白だ。
 恐らく製作者たちはクエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』を強く意識していたと思われるが、そこにいささか異なる味付けをしているのが、監督自身がイギリス出身であり、下町の言葉や特有の訛をふんだんに盛り込んだ台詞回しだ。英語圏に生活していなくとも、ある程度英語圏の映画に接しているひとなら、そのオフビートぶりが興味深く味わえるはずだ。
 しかしこの作品、登場するのはだいたい悪党ばかりだが、みなどこか間抜けだったり愛らしかったり、奇妙に憎めない。不良品の拳銃を売りつけるボリス・ザ・ブレイド、不気味だがやけに愛想はいいバレットトゥース、劇中ずっと表情はクールなのにギャンブルに目がないフランキー・フォー・フィンガーズ。明らかにいちばんヤバいと解るブリックトップでさえも、その人を食った振る舞いと粘っこくも語彙豊かな台詞回しで強烈な魅力を放っている。
 なかでも特に目を惹かれるのはニッキー・オニールだろう。キーヴィジュアルでセンターに立たされているが、実は出番はあまり多くない。演じているブラッド・ピットの知名度にかこつけたかのような引き立てぶりだが、しかしその実、物語に対する貢献は極めて大きい。ピンポイントで存在感を発揮しなければならないこのキャラクターを、鍛え上げた美しい肉体と、やりすぎの感もあるテキトーな訛で見事に体現している。
 そしてもうひとり注目すべきは――したくなくても、語り手なのだから意識せざるを得ないが――ターキッシュだ。演じるジェイソン・ステイサムはガイ・リッチー監督の先行作『ロック、ストック~』が初の長篇映画、本篇は大抜擢だったはずだが、のちに自身の持ち味とするタフガイの片鱗を覗かせながらも、終始物語に対して主導権を持つことが出来ず振り回される道化っぷりが板についている。ステイサムといえば下町訛の強い喋り方が印象的だが、本篇で既に完成されている――作品のために仕上げた、というより、あれが地と思われるが、矯正することなくそのままで通しているのは、本篇でその個性と魅力を確信したからこそなのかも知れない。
 多彩なキャラクターたちが右往左往し、随所で交錯してねじれていく物語は、意外でありながらも腑に落ちるところへと着地する。ある意味でまだ最悪の騒動が続きそうな結末でもあるのだが、もはや一本道にしかならないこの先を語るのは無粋だろう。
 舞台は薄汚れた街、品がなくて残酷な描写も多い。にも拘わらず本篇には不快感がない――むろん、どうしても肌に合わない、というひともいるだろうが、序盤15分ほどのテンポとユーモアを喜ぶようなひとであれば、最後までその軽快さを楽しみ、ハードとも言えるクライマックスに爽快な気分になるはずだ。教訓などなく、ただただ面白いだけの、純然たるエンタテインメントである。

 ……と、本篇においては、やや中弛みする場面がありながらも素晴らしく冴え渡ったストーリー・テリングで魅せたガイ・リッチー監督だったが、それから20年近く経たいま、正直に言わせてもらえば、これが頂点だった。
 本篇の時点で「他のジャンルにも作りたいものがある」と言い自信を見せていたリッチー監督だが、その評価は続く作品で早くも崩壊してしまう。当時の配偶者だったマドンナを主演に据え、往年の傑作『流されて…』をリメイクした『スウェプト・アウェイ』を発表したが、これがヒドかった。富豪の女と使用人の男がふたりして無人島に漂着、力関係が逆転してしまう、という話だが、宇宙飛行士になるべく身体を鍛えていたマドンナがまったくのミスキャストだったうえ、次第にロマンスに発展していく繊細なドラマを、それまでのギャング映画に近い手法で描いたためにチグハグ艦が著しく、むしろ監督としてのセンスの乏しさを露呈する結果となった。
 その後、ロバート・ダウニー・Jrを主演に招いた『シャーロック・ホームズ』をヒットさせ、2019年には実写版『アラジン』を手懸けるなど、一定の成績は上げているが、未だ初長篇『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』と本篇を上回る作品は生み出せていない、というのが率直な印象だ。これを書いている段階で日本での公開がされていない『ザ・ジェントルメン』では久々にこの路線へ回帰しているようだが、作品の面白さは取り戻しているもののクオリティ、インパクトいずれも初期2作には及ぶことが出来なかった、と見える。
 この様子だと、ガイ・リッチー監督にとって本篇を含む初期2作は、越えがたい壁としてとうぶんのあいだ立ちはだかることになりそうだ。その向こうの光景を見せてくれる日は、果たして訪れるのかどうか。


関連作品:
スウェプト・アウェイ』/『リボルバー』/『ロックンローラ』/『シャーロック・ホームズ』/『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム
エクセス・バゲッジ』/『プライベート・ライアン』/『ソードフィッシュ』/『ミーン・マシーン』/『スパイ・ゲーム』/『バットマン・ビギンズ』/『ゴースト・オブ・マーズ』/『トランスポーター』/『スリーデイズ』/『トレインスポッティング』/『フロム・ヘル』/『007/カジノ・ロワイヤル』/『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト
007/危機一発(ロシアより愛をこめて)』/『スティング』/『レザボア・ドッグス』/『パルプ・フィクション
ウェルカム・トゥ・コリンウッド』/『ケープタウン』/『ワイルド・スピード/スーパーコンボ

コメント

  1. […]  いまや押しも押されもせぬ一級のアクション俳優、という趣のあるステイサムだが、彼の俳優としてのキャリア初期から追ってきた私には、この変化はちょっと驚きでもあった。 […]

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