『トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』

TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』チラシ。

原作:東堂いづみ / 監督:志水淳児 / 脚本:成田良美 / キャラクターデザイン&総作画監督:上野ケン / 美術監督:倉橋隆 / 色彩設計:清田直美 / CGディレクター:大曾根悠介 / 撮影監督:高橋賢司 / 音楽:寺田志保 / 製作担当:村上昌裕 / 声の出演:ファイルーズあい、日高里菜、花守ゆみり、石川由依、瀬戸麻沙美、田中あいみ、水樹奈々、水沢史絵、桑島法子、久川綾、川田妙子、くまいもとこ、菊池こころ、渡辺明乃、松本まりか / 配給:東映
2021年日本作品 / 上映時間:1時間10分
2021年10月23日日本公開
公式サイト : https://2021.precure-movie.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2021/10/26)


[粗筋]
 人びとの“やる気”を集めていく《あとまわしの魔女》の刺客と戦い続ける《トロピカル~ジュ!プリキュア》の面々に、思わぬ人物からの便りが届いた。
 それは雪に包まれたシャンティア王国の戴冠式へと招待する手紙だった。王女シャロン(松本まりか)が王位を継ぐにあたり、戴冠式に全世界から、“みんなが笑顔になれる力を持つ人々”を招いているのだという。南国出身の夏海まなつ(ファイルーズあい)が雪に興味を示したこともあって、まなつたち5人は招待を受け入れる。
 不思議な列車に乗り、トンネルを越えた先は、一面の銀世界。まなつたちは到着すると、同じように招待を受けた花咲つぼみ(水樹奈々)たちと出会い、すぐに打ち解ける。人魚の国グランオーシャンの次期女王候補であるローラ(日高里菜)もまた、近い境遇であるシャロンと意気投合した。
 そうして戴冠式が華やかに始まった――が、この式、どこか様子がおかしい。まなつたちがそれに気づいたときには、既に事態は進行していた――


[感想]
 2020年から21年にかけては、あらゆる分野でコロナ禍が猛威を振るったが、このシリーズに齎した影響は特に著しかった。
 それまでは、春に最新シリーズと先行数作のプリキュアたちが共演する《オールスターズ》系列の作品が、そして秋に最新テレビシリーズ単独の劇場版が公開される、という流れが定番化していた。
 しかし2020年はコロナ禍の拡大が収まらず、その余波により映画館には一時、営業休止が要請され、規制が解かれても販売する座席を半減するなど様々な対策を講じなければならず、その結果、収益化に多くの観客動員を要する大作を中心に公開延期が相次いだ。主な対象年齢の低いこのシリーズも、2020年春の『プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』が本来テレビシリーズの劇場版に当てられていた秋口の枠を使うまでにズレ込み、続く『ヒーリングっど プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』はテレビシリーズ完結後の封切という、シリーズでも初の状況に陥った。
 かくて、2021年度の最新作である『トロピカル~ジュ!プリキュア』の劇場初お目見えは《オールスターズ》ではなく『ヒーリングっど プリキュア』と同時上映の短篇、というかたちになり、《オールスターズ》は飛ばすことで本来のスケジュールに戻した。
《オールスターズ》が恒例化してから、次回作の予告をエンドロールのあとに提示するのもお馴染みで、その点は本篇でも踏襲されている。しかし作品は春の《オールスターズ》系列ではなかった。未だ正式発表のなされていない、2022年度最新テレビシリーズのものと思しい劇場版が、1年後の秋に公開される、という趣旨だった。
 どうやら、《オールスターズ》系列はいったん、製作を控える、という判断が下された、と思われる。
 致し方のないところだろう。最初こそ、初代から最新シリーズまですべてのプリキュアを勢揃いさせていたが、多すぎて整理しきれず、キャラクターの扱いもストーリーも散漫になりがちだった。ここ数年は直近の3作品程度に絞ることで整理を図るとともに、本来の観客層が接したことのないプリキュアたちに退場願う、というスタンスで継続してきたが、形骸化の傾向は否めなかった。かてて加えて、コロナ禍のような事態に陥れば、スケジュールが大幅に狂い、児童向けアニメーションでは必須の関連商品の展開も難しくなる、ということが判明している。
 初期作品からず~っと追い続けている変わり者としては、過去のプリキュアと再会できる《オールスターズ》がないのは寂しい限りだ。しかし、恐らくそのぶん、年1本に絞り込んだテレビシリーズ劇場版に傾注する余力が倦まれる。これまでも、児童向け、という本質を守りながらも様々な実験的手法を導入し、大人を唸らせてきたシリーズであるから、1年後の新作では更なる高みを示してくれる、と期待したい。

 のっけから本筋とズレたところで熱が籠もってしまったが、コロナ禍、という問題は恐らく、本篇の製作態勢そのものにも影響を及ぼしている。
 近年はテレビシリーズの演出で経験を積んだ若手などが監督に抜擢されることが多かったが、本篇の志水淳児監督初期3作や『プリキュアオールスターズ New Stage/みらいのともだち』などを手懸けた、いわばシリーズでも特に古株である。脚本を担当した成田良美もごく早い時期からテレビシリーズ、劇場版ともに携わってきた。ここに来て、熟練したメインスタッフがふたたび顔を出したのは、恐らくコロナ禍による制作ペースの乱れも一因となっているのではなかろうか。
 しかし同時に、この《プリキュア》シリーズが初期から絶えず行ってきた試行錯誤が、そろそろ一段落し、成熟期に入っていった証でもあるように、個人的には感じた。
《プリキュア》劇場版シリーズは、ターゲットとなる世代へのアプローチにおいても、アニメーション表現としても試行錯誤と実験を重ねてきた。《オールスターズ》と交互での公開や、ミュージカル形式にオムニバス形式など、様々なアプローチを試み、入場者プレゼントを利用した“観客参加”のスタイルはいっとき定番にもなった。アニメーションとしての探究も怠りなく、描線は作品ごとに大きく変わっているし、エンディングのダンスパートから始まった3DCGの導入は、トゥーンレンダリングとして世界的に見ても屈指のレベルに達し、のちに本篇にまで採り入れられ、近年はよほど仔細に観察しなければ手書きの部分と判別がつかないレベルに達している。
 だが、そういう意味での実験性は、本篇にはさほど感じなくなった。ミュージカル要素も、トゥーンレンダリングも、それらを過剰に意識させず、ごく自然に物語の中に溶け込んでいる。大上段に構えずとも、テクニックとして使いこなしていることが窺える。
 また、ここ数作は現行のテレビシリーズに基づく劇場版には、10年程度前の先行シリーズのプリキュアチームをゲスト参加させる手法を取ることが増えた。前回まではいささか唐突の感が強かったのだが、本篇での登場はかなり自然だ。たまたま居合わせた招待客同士で交流し、自然と親しくなったところで事件が起き、プリキュア仲間であることが初めて判明する。その時点で少し友情を育んでいるから、劇場版ならではのサーヴィスといえる合体技も――よく初見でそこまで合わせられるな、とツッコみたくはなるが――受け入れやすい。
 こなれたスタッフであるが故か、新旧それぞれのプリキュアたちのキャラクターを活かしたドラマ作りも巧みだ。本篇では、メインとなる《トロピカル~ジュ!プリキュア》チームからはローラがフィーチャーされているが、《ハートキャッチプリキュア!》側から来海えりか(水沢史絵)を対立する側として採り上げているのが絶妙だ。いずれも海をモチーフとするキャラクターである、という設定の一致もあるが、出自などは大きく違っても押しの強さ、ファッションへのこだわりなど共通項も多い。いずれもテレビシリーズではコメディリリーフ的に活躍することも多く、ムードメーカーにもトラブルメーカーにもなっている。そういうふたりだからこそ、我がぶつかり合うのは筋が通っている。複数のシリーズに馴染み、キャラクター性を把握しているスタッフならでは、と思える活かし方だ。
 肝心の、事件に至る背景と、プリキュアたちの始末のつけ方も、この《プリキュア》劇場版が育ててきた論理、価値観を踏襲していて味わい深い。どうしてシャンティア王国がこのような状態になったのか、シャロンがどんな想いでこの戴冠式を催したのか、それらの事件との関わりが、同じように、守るべき国を失ったローラと共鳴し、異色のクライマックスやエピローグへと繋がっていく。
 本篇でいちばん驚かされるのはクライマックス、決着へのくだりだ。《プリキュア》劇場版はすべて観ているが、ここまで静かで動きのないクライマックスはたぶんなかった。しかしこのシーン、過度な装飾をしていないからこそ感動的で、胸に沁みる。完成された手法で構成された本篇において唯一、実験的な趣向と言えるが、こういう表現を選択出来るのも、シリーズに対する深い理解とキャラクターへの信頼、それに観客が共鳴してくれるという確信の表れであり、成功していることがこのシリーズの熟成の証と言えよう。
 きちんと映画の中で完結したシナリオは、本篇だけ鑑賞しても楽しめる。しかし、テレビシリーズとしての『トロピカル~ジュ!プリキュア』、更に『ハートキャッチプリキュア!』まで網羅していればなお堪能出来る。そしてそれ以上に、劇場版も含めたシリーズ旧作に親しんでいればなおのこと深く味わえる、《プリキュア》劇場版ならではの傑作である。


関連作品:
ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?
劇場版 ふたりはプリキュア Max Heart』/『劇場版 ふたりはプリキュア Max Heart 2 雪空のともだち』/『ふたりはプリキュア Splash Star チクタク危機一髪!』/『Yes!プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険!』/『Yes! プリキュア5 GoGo! お菓子の国のハッピーバースディ♪』/『フレッシュプリキュア! おもちゃの国は秘密がいっぱい!?』/『スイートプリキュア♪ とりもどせ!心がつなぐ奇跡のメロディ♪』/『スマイルプリキュア! 絵本の中はみんなチグハグ!』/『ドキドキ!プリキュア マナ結婚!!? 未来につなぐ希望のドレス』/『ハピネスチャージプリキュア! 人形の国のバレリーナ』/『Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』/『魔法つかいプリキュア! 奇跡の変身! キュアモフルン!』/『キラキラ☆プリキュアアラモード パリッと! 想い出のミルフィーユ!』/『HUGっと!プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』/『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』/『ヒーリングっど プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!
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どうにかなる日々』/『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 』/『ポッピンQ』/『若おかみは小学生!』/『リズと青い鳥』/『聖☆おにいさん』/『ARIA The CREPUSCOLO』/『SPACE BATTLESHIP ヤマト
アナと雪の女王』/『アナと雪の女王2

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