『アクアマン/失われた王国(字幕・3D・Dolby Cinema)』

丸の内ピカデリー、スクリーン入口脇に展示された『アクアマン/失われた王国』ポスター。
丸の内ピカデリー、スクリーン入口脇に展示された『アクアマン/失われた王国』ポスター。

原題:“Aquaman and The Lost Kingdom” / 監督:ジェームズ・ワン / 脚本:デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック / 原案:ジェームズ・ワン、トーマス・パー・シーベット、ジェイソン・モモア、デヴィッド・レスリー・ジョンソン=マクゴールドリック / 製作:ジェームズ・ワン、ピーター・サフラン、ロブ・コーワン / 製作総指揮:ゲイレン・ヴェイスマン、ウォルター・ハマダ / 撮影監督:ドン・バージェス / プロダクション・デザイナー:ビル・ブルゼスキー / 視覚効果監修:ニック・デイヴィス / 編集:カーク・モッリ / 衣装:リチャード・セイル / 音楽:ルパート・グレッグソン=ウィリアムズ / 音楽監修:ミシェル・シルヴァーマン / 出演:ジェイソン・モモア、パトリック・ウィルソン、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世、アンバー・ハード、ドルフ・ラングレン、ニコール・キッドマン、テムエラ・モリソン / アトミック・モンスター/ピーター・サフラン製作 / 配給:Warner Bros.
2023年アメリカ作品 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:アンゼたかし
2024年1月12日日本公開
公式サイト : http://aquaman.jp/
丸の内ピカデリーにて初見(2024/1/18)


[粗筋]
 海底に存在するアトランティス王国の王となったアーサー・カリー(ジェイソン・モモア)の毎日は多忙を極めていた。以前と同じように、船舶を襲撃する海賊を追い払うヒーロー《アクアマン》として活躍する一方、王国の退屈な会議に出席し、不慣れながら国政を切り盛りしている。更に、晴れて妻となった海底王国ベゼルの王女・メラ(アンバー・ハード)とのあいだに授かったアーサー・ジュニアの子育てにも日々奮闘し、気の休まる時間がない。あまりの多忙に、かつて、母アトランナ(ニコール・キッドマン)と生き別れになり、たったひとりでアーサーを育て上げた父トム(テムエラ・モリソン)への尊敬を新たにする毎日だった。
 その頃、かつてアーサーと死闘を繰り広げたブラックマンタ(ヤーヤ・アブドゥル・マティーン2世)は、スティーブン・シン博士(ランドール・パーク)を補佐役に、海底の調査を続けていた。アーサーによって壊されたブラックマンタのスーツを修復するにはアトランティス王国の技術が必要だが、もはや王国に立ち入る術のないこの男は、放棄された場所にその技術を捜し求めていた。
 ようやくそれらしき遺跡を発見したブラックマンタは、そこで2つに割られた黒い矛を発見する。それを繋ぎあわせた瞬間、ブラックマンタの頭の中に無数の知識が流れ込み、彼を支配した。
 それから5ヶ月が過ぎた頃、地球は脅威的な異常気象に見舞われていた。気温上昇はこれまでにないペースで進み、不安定となった大気は各地で干魃や洪水を引き起こしている。その影響は、海底の文明にも及んでいた。アーサーはこれを機にアトランティス王国の存在を地上の人びとに公表し、協力体制を築くべきだ、と主張するが、僅かな年月のあいだに海を穢した地上人に対して憎悪を抱く者の多い評議会の理解は得られなかった。
 この異常気象の背後にいたのは、ブラックマンタだった。遺跡でスーツを修復する技術とともに潜水艦を入手したブラックマンタは、艦を稼働させるため、大気に影響を及ぼす鉱物オリカルクムを使用している。かつてアトランティス王国が扱いに困ってオリカルクムを封印した施設に侵入して大量に掠奪すると、ブラックマンタは遂にアトランティス王国へと侵攻を開始する――


[感想]
 本篇の監督ジェームズ・ワンは、大きなフランチャイズへの初参加である『ワイルド・スピード SKY MISSION』で、最重要キャストのひとりを撮影と中で失う、という悲運に見舞われながらも完成させた過去がある。だが、ある意味ではスタッフ、キャストのモチベーションを激しく高めたあの悲劇に対して、本篇を見舞った出来事は逆に、モチベーションを下げるものだっただろう。
 前作でヒロインだったメラを演じたアンバー・ハードが私生活において、泥沼の裁判から批判を浴びる顛末に至り、当初仄めかされていた情報ではもっと重要な役割になってもおかしくなかったはずが、実際にはだいぶ影が薄くなっている。
 もっと深刻なことに、本篇の製作中に、DCコミックを原作とする映画世界《DCエクステンデッド・ユニヴァース》の再編が決定してしまった。繰り返される方向転換で満足な支持を得られていなかったことから、製作のピーター・サフランと『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』のジェームズ・ガン監督のふたりが中心となった新体制でシリーズが組み直されることになり、併せて従来の《DCEU》に属していたシリーズは実質、白紙に戻される格好となったのだ。《DCEU》では興収的に成功例であった《ワンダーウーマン》はまだ企画段階であった3作目について早々に白紙となったことが監督やキャストの証言から窺われ、前作で《DCEU》としての興収記録を更新した本篇も、既に製作が始まっていたがゆえに計画が止められることはなかったが、前述の件も踏まえ、大きく軌道修正を迫られたのは間違いない。
 ただ、その一方で、私にはこの成り行きは本篇にとっては決して悪いばかりではなかった、と思える。DCのライヴァルであるマーヴェルも同様だが、複数のヒーローの世界を統合していく試みは、作品同士のリンクを複雑にしていき、本数を重ねるごとに厳しい“縛り”になっていく傾向がある。たとえその縛りが幸運な盛り上がりを演出したとしても、「旧作を出来るだけ追わなければ話の流れを完全に把握出来ない」という重しを観客に強いる。一部では、量産されるスーパーヒーロー映画に疲れた、という話がしばしば囁かれているが、その原因は、ヒーロー映画の量産ばかりではなく、こうした作品世界の広がりをフォローするのに倦んだひとが多くなったことのほうが大きいのではなかろうか。事実、《DCEU》という“縛り”の強制力から解放された本篇は、せいぜい前作さえ観ていれば把握出来る程度の予備知識しか求めておらず、主人公やヴィランの行動理念がほぼ本篇中で描ききられているので、単品で観ても差し支えのない仕上がりになった。
 筋そのものはシンプルだ。アクアマンの出生の秘密やアトランティス王国内の対立に、長年の恩讐と血縁の因果が絡んで、その上に常識を超えるアクションが展開する。ただ、それらを丁寧に描いた前作と違い、本篇はそこで築かれた出来事を基礎に物語を積み上げているので、良くも悪くもシンプルになってしまった印象だ。或いは、前述の要因による内容の変更で、そのあたりの掘り下げが不充分になってしまったのかも知れない。ならばなおさら前作に提示した要素をベースに物語を築きあげるのは仕方ないところではあるのだが、それでも物足りなさは禁じ得ない。
 そうした混乱の影響もあってか、設定の面でもアクションの面でも、前作に見られた世界観の奥行き、アイディアの豊かさは欠いている。パンフレットを参照すると、長きにわたって描き継がれたシリーズの様々なモチーフを巧みに援用してはいるのだが、全般に上澄みだけになってしまっているし、壁をぶち抜く直線的な追跡劇や海洋生物ならではの戦い方、という動きの面での面白さも、追求は甘い。
 だがそれでも、押さえるべき要素はきっちり押さえ、最後まで楽しめるエンタテインメントに仕立て上げているのは見事だ。敵との因縁や家族の絆でドラマを構築する一方、多彩な舞台を用意して心高鳴らせる冒険を見せ、その随所に派手なアクションと、細かなユーモアも失わない。前作ほど突出したものはないとは言い条、アクションや危機の打開策にアイディアも盛り込まれていて、新鮮な驚きだって欠かしていない。
 不幸な成り行きにより、多くの足枷を嵌められた一方で、“DCEUの枠組”という重石は事実上取り除かれている。この歪な環境で、スタッフ、キャスト共に極めて健闘した仕上がりになっていると思う。たとえ満点ではないにせよ、観客を出来るだけ楽しませよう、というスタンスは終始感じるし、スタッフとキャスト全員……ではない気がするが、その多くが楽しんで製作していることが展開にも随所のお遊びにも窺えて快い。
 ……とはいえ、パトリック・ウィルソン演じるオームが絡んだユーモアは、少々やりすぎな気がする。説明は省くが、2箇所ほど、身構えておいたほうがいい、と申し上げておく……。


関連作品:
アクアマン』/『マン・オブ・スティール』/『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』/『スーサイド・スクワッド』/『ワンダーウーマン』/『ジャスティス・リーグ』/『シャザム!』/『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』/『ワンダーウーマン1984』/『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』/『ブラックアダム』/『シャザム!~神々の怒り~』(((2024/1/22現在アップされていません。)))/『ザ・フラッシュ』(((2024/1/22現在アップされていません。)))
SAW』/『狼の死刑宣告』/『デッド・サイレンス』/『インシディアス』/『死霊館』/『インシディアス 第2章』/『ワイルド・スピード SKY MISSION』/『死霊館 エンフィールド事件』/『マリグナント 狂暴な悪夢』/『エスター』/『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。
ミッドウェイ(2019)』/『マトリックス レザレクションズ』/『ラム・ダイアリー』/『エクスペンダブルズ3 ワールドミッション』/『イノセント・ガーデン』/『スター・ウォーズ episode III/シスの復讐
キングコング:髑髏島の巨神』/『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』/『MEG ザ・モンスターズ2』/『シン・ゴジラ

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