『シン・ゴジラ』

TOHOシネマズ新宿外壁にあしらわれた大看板と、それを見下ろすゴジラのモニュメント。 シン・ゴジラ Blu-ray特別版4K Ultra HD Blu-ray同梱4枚組

総監督、脚本、編集、音響設計、ゴジラコンセプトデザイン&画像設計:庵野秀明 / 監督&特技監督樋口真嗣 / 准監督&特技総括:尾上克郎 / 製作:市川南 / 撮影:山田康介 / 照明:川邊隆之 / 美術:林田裕至、佐久島依里 / 編集&VFXスーパーヴァイザー:佐藤敦紀 / VFXプロデューサー:大屋哲男 / 録音:中村淳 / 整音:山田陽 / 音響効果:野口透 / 音楽:鷺巣詩郎伊福部昭 / 出演:長谷川博己竹野内豊石原さとみ高良健吾大杉漣柄本明余貴美子市川実日子國村隼平泉成松尾諭、渡辺哲、中村育二矢島健一津田寛治塚本晋也高橋一生光石研古田新太松尾スズキ鶴見辰吾ピエール瀧片桐はいり小出恵介斎藤工前田敦子野村萬斎 / 製作プロダクション:東宝映画、シネバザール / 配給&映像ソフト発売元:東宝

2016年日本作品 / 上映時間:1時間59分

2016年7月29日日本公開

2017年3月22日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video2枚組:amazon|DVD Video2枚組早期購入特典あり:amazonBlu-ray2枚組:amazonBlu-ray2枚組早期購入特典あり:amazonBlu-ray3枚組:amazonBlu-ray3枚組早期購入特典あり:amazonBlu-ray 4K版同梱4枚組:amazonBlu-ray 4K版同梱4枚組早期購入特典あり:amazon]

公式サイト : http://www.shin-godzilla.jp/

TOHOシネマズ新宿にて初見(2016/08/01)



[粗筋]

 はじまりは東京湾の沖で発見された1隻のプレジャーボートであった。海上保安庁の職員が入り込むも、中に人影はない。だがその調査中、海中から水蒸気爆発が発生する。

 すぐさま招集された矢口蘭堂内閣官房副長官政務担当(長谷川博己)は首相官邸地下にある危機管理センターで情報収集に努めた。海底火山か、テロの可能性も否定できなかったが、アクアラインは分断、なおも水蒸気爆発が継続しているため、即座に東京湾の閉鎖が決定される。

 その頃既にネットには、原因が正体不明の巨大生物である、という未確認情報が動画と共に流布していた。矢口は閣僚による対策会議の場でその可能性を指摘するが、最初は一笑に付されてしまう。しかし程なく、海底から現れる巨大な尻尾が捉えられ、巨大生物の存在が裏付けられた。

 やがて巨大生物は呑川に侵入、係留された船舶を押し出しながら遡上した。尾頭ヒロミ環境省自然環境局野生生物課長補佐(市川実日子)は、生物が肺魚のような呼吸器を備えていれば上陸の可能性もあり得る、と指摘する。これも最初は一笑に付されたが、程なくしてその巨大生物は蒲田で上陸、建物を破壊しながら這い進んだ。

 ここに及んで政府は遂に緊急災害対策本部を設置するが、未曾有の巨大生物に対処するマニュアルは存在せず、被害が発生したこの段階に及んでもなお、捕獲か駆除か、の判断で紛糾する始末だった。

 その間にも進行を続ける謎の生物だったが、突如として転進すると、海中に戻っていった。

 しかし、脅威は去ったわけではなかった。のちに“ゴジラ”と名付けられる巨大生物の脅威を日本、ひいては世界が思い知るのは、それから数日のちのことだった――

[感想]

 ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ(2014)』の成功は、日本のファンに喜びと同時に、ちょっとした絶望ももたらした。もはや日本の映画界に、これだけの質で作品を完成させる能力はなく、ハリウッドでなければ実現は不可能なのかも知れない、と。成功を受けて、新たな国産“ゴジラ”制作が報じられても、悲観的な意見のほうが大勢を占めていた。

 既に公開から半年近く経たいま、もはやそれが杞憂に終わった、というのは多くの人にとって共通の理解となっているはずだ。そういう意味で本篇は極めて快い裏切りだった。

 恐らくこの成功を決定づけたのは、“ハリウッド版と同じことはしない”という、ごく当たり前だが冷静な判断だろう。資金力や視覚効果の技術面で、同じレベルまで持っていくことは事実上不可能なら、異なる意識、見せ方を考えなければならない。一種、超然たる正義のために行動しているかのようなゴジラ像を構築し、日本でヒーローに成長したゴジラへのオマージュを形にしたハリウッド版に対し、恐らく新たな日本版ゴジラのスタッフが志したのは更なる原点回帰――SFであり、一種の“自然災害”であったゴジラ像の、現代的なリメイクだった。

 東日本大震災を経たことで、日本人の自然の脅威に対する認識、災害対策の考え方はだいぶ変化し、また政府や組織がそうした事態にどのような姿勢で臨むか、という理解も進んだ。本篇はそうした前提のもとに、ゴジラという存在を“未曾有の自然災害”と捉え、如何にして対処していくか、という点をシミュレーション的に描き出しているのである。

 解釈が安易であればただの安っぽいドラマになりかねないが、本篇のスタッフは現実と真摯に向き合い、“自然災害”としてのゴジラにリアルな肉付けを施すことに成功している。確認された“災害”に対して繰り返し実施される会議と、危機が本格化するまで終始支配的である引け腰の対応。前代未聞の事態であればこそ意志決定のメカニズムは厳格となり、官僚は指針作りに振り回され、総理大臣は前代未聞の決断を迫られる。随所で想像や飛躍もあるとは思われるが、本篇はきちんと現実の組織や規則を考慮したうえで、リアリティのある筋を組み立てているのだ。

 いちおう長谷川博己演じる官僚を中心として物語は展開しているが、各所で様々な立場の人間にスポットが当たるため、群像劇の様相を示している。名前があっても出番はわずか、という人物が非常に多いが、その短い出番の中でやたらと印象を残す、個性の完成されたキャラクターが多いのも本篇の美点だ。日系3世のアメリカ人という立場で事態に関わってくる石原さとみや、長谷川博己演じる矢口と懇意な官僚を演じる松尾諭といった比較的中心にいるキャラクターはもちろん、前線でゴジラへの攻撃に携わる自衛官や、意見を求められて召集される“有識者”たちなどといった、ちょっとした顔出しだけの人物も妙に記憶に残る。それぞれに名の知れた俳優や、顔を知られた映画関係者などが彩りのように出演しているせいもあるだろうが、出演者の演技力や個性を活かして、ただの端役として扱うことなく、過去や背景を持った人物らしく見せる工夫を怠っていないからだ。

 そうして強調されるのは、誰かひとりのスーパーマン、突出した処理能力の持ち主が活躍するのではなく、それぞれが自らの持ち場で役割を果たすことで事態の解決に臨む姿だ。ゴジラという未曾有の災厄に一丸となって立ち向かうさまは、東日本大震災に限らず、観る側の人間がそれぞれに持っているはずの現実の災害、トラブルに対処する際の経験や記憶と呼応する。そうして積み重ねられた努力や成果が凝縮されるクライマックスだから、観ていて胸が熱くなる。

 劇中、伊福部昭が手懸けたオリジナル版『ゴジラ』の劇伴を引用するのに加え、本篇の監督自身が携わり社会現象にまでなった『エヴァンゲリオン』シリーズの劇伴を頻繁に用いているのも、往年のファンとしては感慨深い点だろう。この楽曲は、『エヴァ』に強い影響を受けた『踊る大捜査線』でも用いられているが、閣僚・官僚による会議が頻繁に行われる日本的な組織の対応をエンタテインメントとして描き出す上で有効に活用しており、本篇は庵野監督が実写で同じ様式を踏襲する際にあえてふたたび『エヴァ』の楽曲を応用することで、多く発生したフォロワーに報いたかのようにも映った。

 本篇は、先行する多くのゴジラ映画と同様に、物語の中で無数の被害、多数の犠牲者を出してしまう。しかし、最終的に困難を乗り越えていくさまを描き出した本篇には、フィクションを超えて勇気づけられるひとも少なくないはずである。そうした感情移入とは無縁のひとであっても、細部を緻密に構築し、作品の中で世界観とリアリティを確立し、クライマックスで見事に爆発させる組み立ての巧みさには唸らされるはずである。

 現れるたびに進化する生態、放射線流を放つ際の描写がグロテスクになっていることなど、従来のゴジラとは異なる点に戸惑い、或いは苛立つ向きもあるだろう。しかしこれも、元を正せば『ゴジラ』という作品がSF――というよりも“空想科学”という言葉を使ったほうがしっくり来るが――として構想されたことに誠実であればこそ、と言える。いまの時代に合わせた“ゴジラ像”、大怪獣という特異な“災害”をどのように見せていくか、に真摯に取り組んだからこそ、従来の“ゴジラ像”を踏襲しつつも今回のような変化を受け入れた、と考えられる。

 ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』と比較すると、特撮部分の少なさからも予算の乏しさは窺えるし、CGを用いたと思しい部分でその技術の拙さを露呈している箇所が散見されるのも悩ましい。しかし、そのことを受け入れたうえで、日本らしいドラマを追求し、庵野監督自身のキャリアをも含めたクリエイター達が築き上げてきたフィクションの様式美をも踏襲してきたからこそ本篇は、ハリウッドからの“挑発”に最善を尽くして応えた作品であり、日本人の胸を熱くさせるのも当然の傑作、と呼べる作品に昇華された。ヒットして当然であり、正しく評価されたことそれ自体がとても喜ばしい作品なのである。だから、基本、同じ作品を繰り返し劇場で観ることのない私が、MX4DTCXIMAXとそれぞれ上映方式は異なれど、計3回も足を運んでしまったのも仕方のないことなのです。

関連作品:

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