『マン・オブ・スティール(3D・字幕)』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、階段脇に掲示されたポスター。

原題:“Man of Steel” / キャラクター創造:ジェリー・シーゲルジョー・シャスター / 監督:ザック・スナイダー / 原案:デヴィッド・S・ゴイヤークリストファー・ノーラン / 脚本:デヴィッド・S・ゴイヤー / 製作:チャールズ・ローヴェン、クリストファー・ノーランエマ・トーマス、デボラ・スナイダー / 製作総指揮:トーマス・タル、ロイド・フィリップス、ジョン・ピーターズ / 撮影監督:アミール・モクリ / プロダクション・デザイナー:アレックス・マクダウェル / 視覚効果監修:ジョン・“DJ”・デジャルダン / 編集:デヴィッド・ブレナー,A.C.E. / 衣装:ジェームズ・アシェソン、マイケル・ウィルキンソン / 音楽:ハンス・ジマー / 出演:ヘンリー・カヴィルエイミー・アダムスマイケル・シャノンケヴィン・コスナーダイアン・レインローレンス・フィッシュバーンアンチュ・トラウェアイェレット・ゾラークリストファー・メローニラッセル・クロウ、ハリー・J・レニックス、リチャード・シフ、ディラン・スプレイベリー、クーパー・ティンバーライン、リチャード・セトロン、マッケンジー・グレイ、ジュリアン・リッチングス / シンコピー製作 / 配給:Warner Bros.

2013年アメリカ作品 / 上映時間:2時間23分 / 日本語字幕:佐藤恵

2013年8月30日日本公開

公式サイト : http://www.manofsteel.jp/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2013/08/30)



[粗筋]

 地球より遙か彼方にある惑星、クリプトンは滅亡のときを迎えていた。無計画な資源採掘のために星自体が崩壊間際にあり、科学者のジョー=エル(ラッセル・クロウ)は元老院に警告を発していたが、指導者たちは手遅れになるまで手をつかねていた。そのために、ジョーの旧友であり、義心に駆られたゾッド将軍(マイケル・シャノン)が、民族の生き残りのためにクーデターを謀る。だがジョーは、クリプトン星の選民思想に疑問を抱いており、妻のララ(アイェレット・ゾラー)と共に数百年振りの自然分娩で設けた我が子カル=エルに託そう、と考えていた。そして、ゾッド将軍の野望に必要な“コデックス”とともに、星からカルを送り出す。直後、ジョーはゾッド将軍によって殺されるが、ゾッド将軍も捕らえられ、ファントム・ゾーンに追放された。間もなくクリプトン星は崩壊、残されたララも星と運命を共にした。

 それから33年後の地球。カル=エルは農場を営むジョナサン・ケント(ケヴィン・コスナー)とマーサ(ダイアン・レイン)の夫婦に発見された。クラークの名を与えられ、ふたりの養子として育てられたカルは、自らの人間を超越した力に悩むが、ジョナサンの薫陶により、己の能力をひた隠しにして生きてきた。成長したクラーク(ヘンリー・カヴィル)世界が自らを受け入れてくれる日を待ちながら、なぜ本当の親が自分をこの星に送りこんだのかを知るために、各地を旅して歩く――時折、こっそりと人助けをしながら。

 やがてクラークは、その秘密に辿り着く。北極の氷のなかに閉じ込められた、謎の構造物について取材に訪れたデイリー・プラネットの記者ロイス・レイン(エイミー・アダムス)の助手としてスタッフに紛れ込んだクラークは、調査団が寝静まった頃合いを見計らって構造物の内部を探索した。それは遙かな昔、クリプトンのひとびとが植民計画のために送りこんだ探査船であった。クラーク自身が地球に送りこまれた小型艇に残されていた鍵を使用すると、そのなかに保管されていたジョー=エルの意識が再生されたのである。ジョーは我が子に、クリプトンの滅亡の経緯を語ると、カルことクラークに、地球とクリプトンの架け橋になることを望んでいる、と告げる。その超人的な力を活かし、ひとびとの救世主となるように呼びかけた。

 遂にクラークは己を知り、自らの能力の使い途を悟った。だが、この探査行の過程で、負傷したロイスを救ったこと、そして調査船を再起動させたことが、思わぬ事態を招くこととなる……

[感想]

 まず明言しておきたいのは、これが“ザック・スナイダー監督作品”である、という点だ。

 何を当然のことを、と思われるかも知れないが、けっこう重要なポイントである。本篇は早い時期から広告において、“ダークナイト・トリロジー”のクリストファー・ノーランが製作に携わり、原案を手懸けていることも周知している。そもそもノーランがシリーズを再起動させる、という時点からかなり大々的に報じられていたことを知っていたようなひとなら、なおさらにノーラン作品、というイメージを持ってしまっているのではなかろうか。

 とはいえ、本篇には“ダークナイト・トリロジー”の血筋を感じさせる部分はしっかりと存在する。ヒーロー誕生までを丹念に描き出す序盤、その過程で描かれる、常人とは異なる力を持っているが故の苦悩、いざ危機に際し、主人公が敵と疑われ、手錠をかけられ連行されるくだりの漂わせるシリアスな雰囲気は、確かに“ダークナイト・トリロジー”によって熟成されたものを受け継いでいる。

 ただ、そのつもりで鑑賞すると、もうひとつ奥行きに乏しいように感じるはずだ。善悪の相対的な側面を抉り、純粋な悪意を見せつけるとともに、世間に認められず、それすら受け入れる高潔な志を徹底して掘り下げていったあのトリロジーの英雄ほど、本篇のヒーローの苦悩は深くない。確かに誤解も受けているが、それよりも多くの理解者が現れ、苦しみながらも決してヒーローは迷っていない。多くの観客が待っているはずのスーツ姿と、常人離れしたアクション・シーンに辿り着くまでが長いわりに、時間軸を相前後させながらもエピソードが細切れに語られるため、散漫な印象を受けるかも知れない。

 だがその代わり、本篇はある意味とても正統派のヒーローの強さ、高潔さを真っ向勝負で描き出している。暗部に深く踏み込んだり、青春ドラマとしての側面を強調したタイプのヒーローものが幅を利かせるなかで、本篇の姿勢はむしろ新鮮で潔い――その態度が、このヒーローの人物像と共鳴しており、ドラマのもたらす重みもきちんと備えながら、快くさえある。

 この姿勢は、クリストファー・ノーラン監督の“ダークナイト・トリロジー”よりは、ザック・スナイダー監督が手懸けてきた作品群に通じている。スナイダー監督にはシリアス・ヒーローものの極地のひとつとも言える大傑作『ウォッチメン』があるが、スパルタの戦士たちの壮絶な生き様を描いた『300<スリー・ハンドレッド>』、知恵を得たフクロウたちの世界における英雄譚『ガフールの伝説』、心を病んだ少女たちの戦いをキッチュなヴィジュアルで描き出した『エンジェル ウォーズ』と並べて鑑賞していくと、本質的には使命に対して真っ向から挑んでいくタイプの英雄を採り上げ続けていることが解る。スナイダー監督自身は、ノーランから本篇のオファーがあった際、世界的にその名を知られたヒーローのアイコンであるが故にためらいがあった、と語っているが、身近であったり、リアリティを重視したヒーローものが増えてきたなかで、いい形でこの“王道のなかの王道”と言えるヒーローを再起動するのに相応しい人材だったのではなかろうか。

 だから、『ダークナイト』シリーズのような深みは足りないが、しかしヒーローの描き方は堂に入っている。誕生までの過程はやや冗漫だが、時間軸を相前後させ、視点を切り替え謎を演出しながら繋いでいく語り口は巧みで、決して観客を離さない。

 そして、従来の作品でスナイダー監督が見せたヴィジュアル感覚、アクション表現の巧さは、中盤以降、これでもか、とばかりに発揮されている。クラーク・ケントとクリプトンからの使者との人智を絶した格闘に、戦闘機が絡み、陸と空を縦横無尽に繰り広げられる激しすぎる格闘。持ち出された特殊な兵器を巡っての駆け引きに、蹂躙された街を舞台に展開する最終決戦まで、息をつく暇もない――と約束のように書きたくなるが、本篇が巧いのは、ここに細かく小休止を入れていることなのだ。あまりにクライマックスが長く途切れないままだと、観客が疲弊するし、よほど優れたヴィジュアルや趣向が複数組み込まれていない限りは確実に飽きてしまう。恐らくはそれを承知で、本篇はうまくテンポを作りだしている。

 掘り下げが乏しいとは言い条、ドラマの組み立てにも抜かりがない。クラークが中盤で陥る窮地に至る伏線がうまく組み立てられているし、そこからクライマックスの熱を生み出す状況も予め用意されている。とりわけ、本篇において重要なのは、ふたりの父親の描写だ。死後も記録のみでクラークことカル=エルを導く実父ジョーにオスカー俳優ラッセル・クロウが扮して重厚さを添えているが、個人的には育ての父ジョナサンこそ本篇最大のキーマンだ、と訴えたい。地球におけるクラークの行動原理を植え付け育てた彼の、いささか頑固だが、しかし芯の通った振るまいは印象に残る。彼がいたからこそ、クラーク・ケントがあれほど早く、ヒーローとしての覚悟を身につけることが出来たのだ、と思えるのだ。エピソードの組み込み方もむろん優れているのだが、近年は少々作品に恵まれなかった感のあるケヴィン・コスナーが、その年季に見合った貫禄を発揮して、深みを与えている。彼が“退場”するシーンは、アクション目白押しの本篇でも特に鮮烈なひと幕だった。

 いささかシンプルに映る結末も、しかし本篇が正統派のヒーロー・ドラマであればこそ、含蓄の深いものだ。ほかのヒーローよりも覚悟を固めるのが早かった彼でさえも、というよりも、だからこそあの終幕は決して軽いものではない。あの場面を踏まえたうえで、本格的にヒーローの道を歩みはじめたからこそ、ラストの潔さ、清々しさが際立つ。

 間違いなく本篇は、クリストファー・ノーランザック・スナイダーというふたつの才能が融合したことで生まれた作品だ。しかしその到達点は、これまでザック・スナイダー監督が手懸けてきた作品の延長上にある。恐らく当人がさほど意識していないにも拘わらず、そのスタイルが世界的スーパーヒーローのリブート、という現代の流れに一致したあたり、運命的な出来事と言える――その誕生の過程までがまるで、この偉大な英雄のサーガの一部のようだ。

関連作品:

スーパーマン・リターンズ

ドーン・オブ・ザ・デッド

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