『劇場版 からかい上手の高木さん』

TOHOシネマズ上野、9階の通路に掲示された『劇場版 からかい上手の高木さん』大型タペストリー(2022/5/14撮影)。
TOHOシネマズ上野、9階の通路に掲示された『劇場版 からかい上手の高木さん』大型タペストリー(2022/5/14撮影)。

原作&監修:山本崇一朗『からかい上手の高木さん』『あしたは土曜日』(小学館・刊) / 監督:赤城博昭 / 構成:福田裕子 / 脚本:福田裕子、加藤還一、伊丹あき / キャラクターデザイン:高野綾 / 作画監督:近藤奈都子、茂木琢次、岡昭彦、桝澤彼方、陳達理、小原佑太、松尾亜希子、中城悦雄 / 色彩設計:横井未加 / 美術監督:笠原由紀 / 美術設定:池田裕二 / CG監督:神林憲和 / 撮影監督:牧野真人 / 編集:中葉由実子 / 音楽:堤博明 / 主題歌&挿入歌:大原ゆい子 / エンディングテーマ:高木さん(高橋李依) / 声の出演:高橋李依、梶裕貴、小原好美、M・A・O、小倉唯、落合福嗣、岡本信彦、内山昂輝、悠木碧、内田雄馬、小岩井ことり、朝日奈丸佳、田所陽向、戸松遥、水瀬いのり、福島潤、宮本侑芽 / 制作:シンエイ動画 / 配給:東宝映像事業部
2022年日本作品 / 上映時間:1時間18分
2022年6月10日日本公開
公式サイト : https://takagi3.me/
TOHOシネマズ日比谷にて初見(2022/6/10)


[粗筋]
 中学生になって以来、隣の席の高木さん(高橋李依)にずっとからかわれ続けている西片くん(梶裕貴)。いつも意趣返しを目論見ながら、2枚も3枚も上手の高木さんにいいように翻弄されっぱなし。
 そんなふたりも、中学最後の夏休みを迎えた。片想いしている北条さん(悠木碧)がカナダのサマースクールに参加するため、夏休みにまったく合うことが出来ず落ち込む浜口くん(内山昂輝)から、最後の夏を大事にするよう、西片くんは諭される。
 1学期最後の日、西片くんと高木さんは、通学路の途中にある神社で、生まれたばかりの子猫を見つける。どうやら母猫とはぐれてしまったらしい。ふたりとも猫好きだが、それぞれの事情により家で飼うことが出来ないため、神社の軒下でしばらく面倒を見ながら里親を探すことにした。
 いつもと変わらない、けれど変わるときが近づこうとしている、大切な夏が始まった――


[感想]
 ひとによっては、冒頭数分間のプロローグで充分すぎるほどの満足感を得られる作品である。
 もともとテレビアニメとして3期まで制作され、この劇場版も同じスタッフが手懸けている。教室の1番後ろの席、並んで座っている西片くんと高木さんのやり取り、というアニメでも定番のシチュエーションだが、それゆえに劇場版ならではの、驚くべき丁寧さ、繊細さが実感できる。とりわけ衝撃的なのは、手描きと思われる絵にも拘わらず、リップシンクが行われているのだ。聴こえてくる言葉と口の動きにまったくズレがなく、それゆえに映像への没入感が著しい。二人の胸の鼓動まで伝わってきそうな表現がむず痒く、そして堪らないほど愛らしい。
 原作は昨今、大量に発表されている『~さん』というタイトルの先駆けと言われ、思春期のくすぐったいやり取り、甘酸っぱい恋心の描写が人気を博した山本崇一朗のコミックである。もともと、これほど長く続くとは考えていなかったのだろう、原作は時間がしばしば相前後して描かれていた。様々なエピソードを順不同に抽出していくこのスタイルも、原作における魅力のひとつだったが、アニメ版では季節を整理し、ある程度まで時系列に並べた。その結果、中学最初の日の出会いに起点を置く西片くんと高木さんの物語は、アニメ3期を終えた時点で中学3年生になっていた。3期を受けた本篇は、そうして彼らにとって中学最後の夏休みの物語になった。
 劇場版、というと、しばしばテレビの予算や枠では手に余るような大きな事件や、派手な映像的見せ場のあるエピソードを期待させるが、本篇はその点、決して大仰な話ではない。尺的には長い話を採り入れているが、大きな事件ではなく、身近な範囲に留まっている。
 だがこれは、原作もアニメも一貫して、西片くんと高木さんの日常の周囲からエピソードを拾っていったこのシリーズからしてみれば正しいスタンスだ。またその一方で、中学最後の夏休み、というものは、当事者にとってそれ自体に重みがある。サブキャラの一人、北条さんは将来を見据えてサマースクールに向かい、木村くん(落合福嗣)たちは卒業アルバムのための写真係に任命された。女子の仲良し3人組は、高校から本格的に陸上を始めようと考えるひとりが、舞台である小豆島から出る可能性に思い至り動揺する。
 他の同級生達ほど強く意識していないにしても、西片くんも高木さんも、これが中学最後の夏だ、ということは理解している。西片くんは相変わらず、絶えずからかってくる高木さんに一泡吹かせたい、と念じているが、それでも名残惜しさを感じている。高木さんに至っては言わずもがなだ。そんなふたりが気持ちを探りあい、夏休みに何度も会う理由が出来てからの弾けようは微笑ましく眩しい。
 そして、そんな中で出会った子猫との時間が、ふたりに時の流れと変化を強く意識させる。そしてそれが、終盤の出来事を契機に、ふたりに大きな転機を齎すのだ。心の動きを繊細かつ鮮やかに描き出した本篇は、事件そのものは身近なものであっても、劇場版としての見応えを十二分に備えている。
 個人的に本篇でオープニングとともに気に入っているのは、エピローグである。実はこれは、アニメ第1期の時点で私が密かに、「最終話にはこのくだりを使うのでは?」と予想していたエピソードと根っこを同じくしている。テレビシリーズ第3期まの途中で用いず、劇場版の締め括りに持ってきたのは――さすがにはじめから狙っていたこととは考えにくいが、結果として正しかった、と思う。
 前述の通り、原作はそもそも時系列で物語を綴っていない。同じ手法を用いれば、ここまでに語られなかった過程を埋めていく、というかたちでアニメシリーズもまだ続けていくことは可能だろう。しかし、テレビシリーズの手法を踏襲しながら大きく盛り上げ、くすぐったくも甘酸っぱく、胸に沁みるクライマックスまで持ち込んだ本篇は、集大成と呼ぶに相応しい。その一方で、原作、アニメシリーズの魅力をシンプルに凝縮したエピソードを序盤に置いているので、テレビシリーズを知らなくとも楽しめる、という点でも理想的な出来映えだと思う。


関連作品:
魔法つかいプリキュア! 奇跡の変身! キュアモフルン!』/『グッバイ、ドン・グリーズ!』/『映画大好きポンポさん』/『ポッピンQ』/『HUGっと!プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』/『泣きたい私は猫をかぶる』/『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 』/『ヒーリングっど プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!』/『のんのんびより ばけーしょん』/『ハピネスチャージプリキュア! 人形の国のバレリーナ』/『驚き! 海の生きもの超伝説 劇場版ダーウィンが来た!』/『ジョゼと虎と魚たち(2020)
サマーウォーズ』/『思い出のマーニー』/『サイダーのように言葉が湧き上がる』/『きんいろモザイク Thank you!!

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