『映画大好きポンポさん』

TOHOシネマズ上野、スクリーン7入口脇に掲示された『映画大好きポンポさん』コメンタリーつき上映案内のチラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン7入口脇に掲示された『映画大好きポンポさん』コメンタリーつき上映案内のチラシ。

英題:“Pompo the Cinephile” / 原作:杉谷庄吾【人間プラモ】(プロダクション・グッドブック) / 監督&脚本:平尾隆之 / キャラクターデザイン:足立慎吾 / 演出:居村健治 / 監督助手:三宅寛治 / 作画監督:加藤やすひさ、友岡新平、大杉尚広 / 美術監督:宮本実生 / 色彩設計:千葉絵美 / 撮影監督:星名工、魚山真志 / CG監督:高橋将人 / 編集:今井剛 / 音楽:松隈ケンタ / 制作プロデューサー:松尾亮一郎 / 声の出演:清水尋也、小原好美、大谷凜香、加隈亜衣、大塚明夫、木島隆一、小形満、坂巻学 / 制作:CLAP / 配給:角川ANIMATION
2021年日本作品 / 上映時間:1時間34分
2021年6月18日日本公開
公式サイト : https://pompo-the-cinephile.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2021/6/26)


[粗筋]
 映画の都ニャリウッドで一時代を築いた映画監督J・D・ペーターゼン(小形満)が引退、彼が創設したペーターゼン・スタジオは、その人材・人脈を引っくるめて、ペーターゼンの孫娘であるジョエル・ダヴィッドヴィッチ・ポンポネット、通称ポンポさん(小原好美)が継承した。
 祖父譲りの嗅覚とセンスを備えるポンポさんだが、何故かプロデュースする映画は解りやすいB級作品ばかり。アシスタントとして雇われたジーン・フィニ(清水尋也)は訝るが、そのカリスマ性とパワーに圧倒されっぱなしだった。
 ポンポさんがプロデュースする最新作は、巨大ダコと人気女優ミスティア(加隈亜衣)演じるビキニの美女が格闘する、やはりB級エンタテインメント。ポンポさんはこの作品の15秒スポットの編集を、ジーンに委ねた。15秒スポットは最も観られる機会の多い予告であり、実質、すべてのスタッフの人生がかかっている、という発破にプレッシャーを感じながらも、ジーンは本篇の監督コルベット(坂巻学)も納得させるスポットを作り上げた。
 ある日、ジーンはポンポさん自身が書いた脚本を読まされる。これまでのB級映画とは一線を画した、シンプルだが人間味豊かなドラマにジーンは魅了され、気づけば自然と作中の映像を思い浮かべていた。ポンポさんはジーンに新人女優のナタリー・ウッドワード(大谷凜香)をジーンに引き合わせ、彼女がこの脚本の主演女優であり、監督をジーンに委ねる、と宣言する。
 脚本のタイトルは『MEISTER』。大失態により地位も名誉も喪った指揮者が、スイスの大自然のなかで巡り逢った天真爛漫な少女との交流を経て音楽の世界に蘇る物語である。指揮者役としてポンポさんが招いたのは、6度のニャカデミー賞に輝きながらもこの10年間、まったく映画に出ていなかった伝説の名優マーティン・ブラドック(大塚明夫)。ポンポさんは自らの直感を信じ、人脈を駆使して急速にことを運び始めていた――


[感想]
 題名通り、“映画大好き”という想いが満ちあふれた作品だ。
 アカデミー賞授賞式の雰囲気を実にうまく押さえたニャカデミー賞のセレモニーから始まり、フィルムを模したイメージ映像のパッチワークから本篇に入っていくスタイリッシュな流れ、ペーターゼンとかナタリーとか、どこかで聞いたことのあるような名前を冠した登場人物が、妙にリアリティのある撮影現場を活き活きと飛び回る。社交性皆無で平素は覇気のないジーンの口から実在する映画のタイトルが出てくるかと思うと、映画好きなら思わずニヤリとするような演出、趣向が頻出して、終始楽しくて仕方ない。
 才能を見抜いて監督に抜擢したり、オーディション連戦連敗の無名女優を伝説級の名優の相手役に起用したり、とかなり攻めた発想や、あまりにもすべてが都合良くハマりすぎる、という印象もある展開だが、その実、こうしたエピソードは多かれ少なかれ、語り継がれるようになった作品には何かしら存在する。そういうところも、映画好きの琴線をいちいち擽ってくるので、気づくと物語に釘付けになってしまう。
 しかし、本篇は決して実写映画のモチーフに寄りかかることなく、アニメーションならではの表現を無数に駆使し、変化と躍動感に富んだ画面作りをしている。解りやすく漫画チックな驚きの表現、画面の縦横でフィルムが棚引き、それを刀でカットしていく編集中のジーンの躍動感、などなど、実写では不可能な方法での彩り方が豊かで、アニメーションとしても見応えがある。
 そして、そういう表現手法や遊びを抜きにしても、ストーリーが巧い。きちんと本物の映画業界の現実も織り込みつつ夢と希望、そして鬱屈までしっかりと織り込んだプロット。劇中さながらの編集のテクニックを用いて、意味深な表現がきっちりと昇華されるカタルシスまで演出する。最終的にひとりで作品と向き合う編集作業の葛藤、更には追加撮影のための予算捻出、なんて極めて現実的なシチュエーションまでが、昂揚感に満ち満ちた見せ場となっている。
 あえて腐すとすれば、物語のなかにあまりにも悪人がいない、という点だが、これはただの難癖だ。世の中に、はじめから悪意だけで行動している人間なんて稀だし、努力する者を応援したくなるのも、それが報われる瞬間を見たいのも当然のことだ。めったやたらに憎まれ役を出すよりは、認められるべきが認められる世界のほうが心地好いに決まっている。何より、どれほど本物の映画界の現実を想起させる描写を織り込もうが、本篇はフィクションなのだ。厭な思いをさせるよりは、痛快な気分で映画館をあとにしたい――そして、その精神はそのまんま、タイトルロールであるポンポさんの信念とも相通じている。だからこそ本篇のカタルシスは極上なのだ。
 しかし、本篇のなにが素晴らしいって、その本質を劇中、最後の台詞に集約してみせてしまったことだ――あんなに爽快なフレーズは、なかなか聞けるものではない。
 率直に言えば、そこまで期待はしていなかった作品だった。だが、こんなに心地好く、ワクワクしてハラハラドキドキして、最後にスカッとする作品は、そうそうあるものではない。文句なしの逸品だと思う。


関連作品:
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