『ナイブズ・アウト:グラスオニオン』

『ナイブズ・アウト:グラスオニオン』本篇映像より引用。
『ナイブズ・アウト:グラスオニオン』本篇映像より引用。

原題:“Glass Onion : A Knives Out Mystery” / 監督&脚本:ライアン・ジョンソン / 製作:ラム・バーグマン、ライアン・ジョンソン / 製作総指揮:トム・カーノウスキ / 撮影監督:スティーヴ・イェドリン / プロダクション・デザイナー:リック・ハインリクス / 編集:ボブ・ダクセイ / 衣装:ジェニー・イーガン / キャスティング:ブレット・ハウ、メアリー・ヴェルニュー / 音楽:ネイサン・ジョンソン / 出演:ダニエル・クレイグ、エドワード・ノートン、ジャネール・モネイ、キャスリン・ハーン、レスリー・オドム・Jr.、ケイト・ハドソン、デイヴ・バウティスタ、ジェシカ・ヘンウィック、マデリン・クライン、ノア・セガン、ジャッキー・ホフマン、ダラス・ロバーツ、イーサン・ホーク、ヒュー・グラント、スティーブン・ソンドハイム、ヨーヨー・マ、ジョセフ・ゴードン=レヴィット / T-ストリート製作 / 配給:Netflix
2022年アメリカ作品 / 上映時間:2時間19分 / 日本語字幕:風間綾平
2022年12月23日全世界同時配信
公式サイト : https://www.netflix.com/jp/title/81458416
Netflixにて初見(2022/12/27)


[粗筋]
 2020年、コロナ禍によるロックダウンで大勢が鬱屈を溜めこむなか、それぞれの分野で名を為した6人に、オモチャのような絡繰り細工の箱に収められた招待状が届いた。
 差出人の名はマイルズ・ブロン(エドワード・ノートン)。天才的な着想によって、自らの経営するアルファ・グループを急成長させ、この10年のうちに巨万の富を築きあげた人物である。彼はアドリア海に所有する孤島に、巨大なガラス製のタマネギ状をしたドームを中心とする風変わりな邸宅を建築し、毎年のように友人たちを招いてパーティを催している。しかも今年は、マイルズ自身をターゲットとする殺人ゲームが催されるという。
 だが、島へ向かう客船のもとには、招待客にとって意外な顔がふたつあった。ひとつは、ブノワ・ブラン(ダニエル・クレイグ)――多くの難事件を解決したことで、“世界一の名探偵”と称される人物。そしてもうひとつは、カサンドラ・ブランド(ジャネール・モネイ)――アルファ・グループをマイルズと共に創設したが、経営方針を巡って対立し、グループを追われた人物である。他の招待客にとっても旧知の間柄であり、怨骨髄に入る関係であるマイルズのパーティに参加することそのものが驚きだった。
 船は招待客を孤島に残し、去っていった。そうして始まったパーティで、約束されたかのように悲劇は起こった――


[感想]
 前作『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』は、ミステリ好きから映画道楽に目覚めた私にとって幸せな快作だった。小説や戯曲といった原作を持たない完全オリジナル、アガサ・クリスティへのオマージュをあからさまに感じさせる舞台や雰囲気の中で、現代的なガジェット、主題を盛り込み、企みに満ちた謎解きを堪能させてくれた。贅沢な役者陣が、笑われることも厭わずに愚かさやずる賢さを剥き出しに演じ、まさに映画ならではの妙味を満喫できた。
 高評価を得て当然のように続篇の制作が決定、満を持して発表されたのが本篇である。監督への信頼ゆえだろう、1作目からキャストは充実していたが、今回もまた豪華キャスト、なおかつ世間からの期待も高い。ハードルも高くなっていたが、本篇はそれを見事に乗り越えた。
 前作は広壮な屋敷で起きた、昔ながらの探偵小説のフォーマットを利用していたが、本篇もまた同様で、今回はアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』や本邦の綾辻行人『十角館の殺人』など、長年にわたって多用される孤島を舞台にした“クローズド・サークル”のフォーマットを応用している。しかし前作がそうだったように、お膳立てでミステリ愛好家を喜ばせながらも、決してお約束通りの展開をしない。パーティの主催者が意図しない招待客として加わる探偵役、困惑しながらも受け入れられるが、しかし探偵はメインとなる趣向をいきなり破壊する。多くの参加者にとって想定外の展開となる中、観客側としては予定調和の殺人が起きるが、そこからふたたび展開は定石を逸脱していく。
 だがそれでいて、本篇はしっかりと謎解きの結構を保っている。いったいどんな企みが進行しているのか、という疑問、予定が狂った状況で発生する殺人事件の意味。途中で思わぬひねりを加え、疑惑や謎に新たな光を投じてみせる。前作がそうだったように、この巧妙な変化によって観る者の関心を逸らさない。
 素晴らしい終盤のツイストはやはりあまり予備知識を仕入れずに堪能して欲しいので詳述は避けたい。ただ、前作に惹かれて(もしかしたら、わざわざNetflixと契約してまで)鑑賞した人の期待に、基本的には応える内容と仕上がりである、と保証したい――“基本的に”と添えねばならないのは、今回はいささか行き過ぎの部分もあって、人によっては不愉快になる可能性もあるからだ。私自身、爽快ではあったが、どうしようもない引っかかりを覚えている。行為自体もさることながら、クライマックスで衝撃をもたらしたガジェットは、別の形でも応用出来たはず、という不満が拭えないのだ。
 だが、その強引さがあればこそ本篇の、ただのミステリに留まらない映画的な派手さ、インパクトを得ていることも間違いない。その出来事自体が、本篇が諷刺する現代性への強烈なカウンターになっているからこそ、本篇は痛快なのであり、忘れがたい作品なのだ。
 何より本篇が快いのは、俳優たちが実に楽しそうに演じていることだろう。それぞれひと癖もふた癖もあるキャラたちが騒ぎ、驚き、腹を探りあうさまは実にコミカルだ。そして誰よりも、主人公たる名探偵ブノワ・ブランを演じているダニエル・クレイグが実に活き活きとしている。先日まで演じていたジェームズ・ボンドから一転、優雅で洒脱、頭も切れるが妙に愛嬌のあるこのキャラクターを、ダニエル・クレイグ自身気に入っているのだろう。現時点では第3作まで製作は確約しているようだが、監督のアイディアとダニエル・クレイグのモチベーションが維持できる限り続くことを願いたい。

 それにしても本篇は、役者の使い方が贅沢である。序盤、ケイト・ハドソン演じるバーディーが催すパーティの出席者が既に贅沢なのだが、イーサン・ホーク、ヒュー・グラント、ジョセフ・ゴードン=レヴィットあたりは、探さないと解らない。恐らく咄嗟に気づくのはヒュー・グラントくらい、ジョセフ・ゴードン=レヴィットに至っては、たぶん初見で発見できる人は皆無だろう。私自身、データベースで確認するまでまったく解らなかった。
 出演しているだけでなく、ジャレッド・レトやジェレミー・レナーのように、名前だけ出てくる著名人もいる。ことこのふたりはむしろおちょくられているような気もするのだが、恐らくはちゃんと承諾を得て使用している――と信じたい。
 いずれにせよ、その細かな遊び心もまた、本篇を鑑賞する楽しみのひとつと言える。既に決定している第3作ではどんな人物をチラ見せしてくれるのか、今から期待したくなる。


関連作品:
ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密
LOOPER/ルーパー
007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』/『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』/『LIFE!』/『オリエント急行殺人事件(2017)』/『スケルトン・キー』/『アーミー・オブ・ザ・デッド』/『マトリックス レザレクションズ』/『マザーレス・ブルックリン』/『プリデスティネーション』/『ジェントルメン(2019)』/『ウエスト・サイド・ストーリー(2021)』/『グリーン・デスティニー』/『シカゴ7裁判
落下の王国』/『大脱出』/『ライトハウス

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