『有吉の壁 カベデミー賞 THE MOVIE』

TOHOシネマズ上野、スクリーン7での上映後に投影された『有吉の壁 カベデミー賞 THE MOVIE』タイトルロゴ。ここから3分間だけ撮影可……で良かったんだよね……?
TOHOシネマズ上野、スクリーン7での上映後に投影された『有吉の壁 カベデミー賞 THE MOVIE』タイトルロゴ。ここから3分間だけ撮影可……で良かったんだよね……?

監督:橋本和明 / 『有吉の壁』カベデミー賞MC:有吉弘行 / ナレーション:桐谷蝶々 / エンディングテーマ:鼻炎 / 配給:ライブビューイング・ジャパン
2022年日本作品合作 / 上映時間:約2時間
2022年6月10日日本公開
2022年6月12日よりHuluにて期間限定有料配信
公式サイト : https://liveviewing.jp/ariyoshinokabe/
TOHOシネマズ上野にて初見(2022/6/11)


[粗筋]
 日本テレビ系列の人気バラエティ番組『有吉の壁』。毎回、様々なテーマに基づき、芸人達が仕込んだ、或いは即興のネタを披露していく。有吉の愛はあるが容赦のない判定も面白さのひとつだ。
 この番組の中でも最も過酷な企画が『カベデミー賞』である。実在の映画や俳優、有名人をもじったキャラクターに扮した芸人達が、ありもしない映画の内容や裏話を、有吉の無茶振りで語る、という趣向だ。芸人のセンスが問われ、その追い込まれる様までが笑いを誘うこの企画は、ギャラクシー賞月間賞にも選ばれた、この番組の代表作である。
 しかし、2022年4月6日放送の回で、思わぬサプライズがあった。このときの各賞受賞者の出演作を、ほんとうに映画化する、というのである。
 そしてそれから2ヶ月後、以下の4作品が、マジでスクリーンを彩った――
『ドライブ・アイ・サー』(カベデミー賞最優秀助演女優賞)
監督、脚本&出演:伊藤未満、田中以上(みちお(トム・ブラウン))/出演:布川ひろき(トム・ブラウン)、関太(タイムマシーン3号)、えいじ(インポッシブル)、長谷川雅紀(錦鯉)、吉住、大津広次&淡路幸誠(きつね)、石橋遼大(四千頭身)、ほしのディスコ(パーパー)、野田クリスタル(マヂカルラブリー)、長田庄平&松尾駿(チョコレートプラネット)、水卜麻美、水谷隼

 ショット直前にホラを吹いて対戦相手を惑わし、優勝に王手をかけたホラ吹く原愛(布川ひろき)。しかし決勝で立ちはだかったのは、絶対音感を持つ最強のライヴァル、伊藤未満、田中以上(みちお)だった――
『万引き裸族』(カベデミー賞最優秀助演男優賞)
監督、脚本&出演:リリー・素寒貧(鈴木もぐら(空気階段))/出演:水川かたまり(空気階段)、、ゴルゴ松本(TIM)、賀屋壮也(かが屋)、益子卓郎(U字工事)、じろう(シソンヌ)、相田周二&小宮浩信(三四郎)、長谷川忍(シソンヌ)、佐藤栞里

 街角の風景を撮影していた私は、全裸で万引きをして逃走する男と出逢う。私はその男、リリー・素寒貧(鈴木もぐら)に密着する。彼の一見、奇妙な行動には、彼なりの理由があった――
『秋定麗子物語~A pionner of all things~』(カベデミー賞最優秀主演女優賞)
監督、脚本&主演:辛島サトリ(友近)/出演:岩崎う大(かもめんたる)、とにかく明るい安村、あいなぷぅ(パーパー)、もう中学生、山崎銀之丞 / ナレーション:寺島しのぶ

 1950年代にデビューして以来、第一線で活躍した大スター、秋定麗子(友近)。ジャズを愛し、ダンスを愛し、映画を愛した彼女は、しかしあるとき忽然と表舞台を去った。シャンディガフを初めて日本に広めるなど、様々な場面で第一人者だった彼女の、秘められたドラマとは――
『まっぱ MAPPA』(カベデミー賞最優秀主演男優賞)
監督、脚本&主演:カールスゴーイー石井(尾形貴弘(パンサー))/出演:菅良太郎&向井慧(パンサー)、山本浩司(タイムマシーン3号)、後藤拓実(四千頭身)、太田博久&斉藤慎二(ジャングルポケット)、イワクラ&中野周平(蛙亭)、ひるちゃん(インポッシブル)

 いじめられた少年の前に現れる妖怪・まっぱ(尾形貴弘)。裸で寒いギャグを飛ばすことしか出来ないこの妖怪は、けれど確かに少年の心を癒してくれた――


『有吉の壁 カベデミー賞 THE MOVIE』本篇終了後のフォトセッションにて。上映日・上映回によって内容が違ってたっぽい
『有吉の壁 カベデミー賞 THE MOVIE』本篇終了後のフォトセッションにて。上映日・上映回によって内容が違ってたっぽい。


[感想]
 上記の通り、本篇のベースは嘘、というよりもはや“口から出任せ”である。それをほんとうに映画にする、という発想は、実にムチャだが、この『有吉の壁』という番組らしくもある。
 コロナ禍初期にレギュラー化する、という圧倒的な逆風にも拘わらず、コロナ禍だからこその企画を推しだして乗り切り、見事に定着してしまった。近年のテレビ番組では、芸人もトークスキルや咄嗟の反応の良さがなければ乗りきれない傾向にあったが、『有吉の壁』はネタにこそ強い芸人達が個性と強みを発揮出来るので、これまでゴールデンタイムのバラエティ番組では花開かなかったタイプの芸人が活躍し、一部のコーナーからはCMキャラクターが生まれるほどの人気を博している。
 そんな『有吉の壁』の企画でも、『カベデミー賞』の難易度は高い。映画のタイトルや俳優の名前のもじりは幾らでも出来るが、MC有吉によるインタビューがクセ者だ。彼ならではの鋭い切り込みで、芸人が想定していなかった細部にまで切りこんで追い込んでいく。物悲しい雰囲気になることもしばしばだが、その緊張感も含め、有吉とのガチンコのやり取りに見応えがある。
 とはいえ、ここでのやり取りは、扮装と最初に用意した設定を除けばほぼほぼアドリブだし、その場限りの“口から出任せ”だ。そこで語った内容を、そのまま映画化する――というのは、この番組らしい見事な無茶振りだが、仕上がったものが一般の鑑賞に耐えられる作品になる、とはちょっと考えにくい。それでも、番組の視聴者として、まあまあお笑いが好きな人間として、仕上がりには大いに関心があったので、限定で実施された劇場での上映に駆けつけたわけである。

 発表から全国公開までは2ヶ月ちょっと。大元となる『カベデミー賞』収録はもう少し遡るとしても、恐らく4ヶ月は超えない。それぞれ、尺としては短篇だが、てきとーに発言した内容に基づいて映画を完成させる、というのは、やはり簡単な話ではない。
 そう考えると、本篇の出来は大健闘どころの話ではなく、上出来と言っていい。
 正直、1作目から度胆を抜かれていた。『ドライブ・アイ・サー』は本来のネタもシュールで狂気じみたところのあるトム・ブラウンが中心になっているだけあって、なかなかにブッ飛んだ内容なのだが、ブッ飛んでいるなりに筋が通っている。授賞式パートでは、伊藤未満、田中以上ことみちおは助演女優賞という扱いだが、本篇ではちゃんと布川ひろきが主演となっているうえ、見せ場ではしっかりみちおが相方を食う存在感を示して、辻褄も合わせている。
 感心したのは、タイトル以外はなにも意識していないようでいて、きっちり『ドライブ・マイ・カー』のパロディまで仕込んでいる点だ。きちんと、芸人やそのスタッフが撮る映画として見事に昇華されているのである。
 これは続く『万引き裸族』にも言える。こちらは是枝裕和監督の『万引き家族』のもじりだが、これも徹底して突飛な笑いにこだわった作りをしているが、設定の面でオリジナルを意識している。語り口はフェイク・ドキュメンタリーの体裁だが、是枝作品の多くがドキュメンタリー的な撮り方をしているので、意図しているか否かは不明だが、その作りもまたパロディとして機能している。
 ただしこちらは、“助演男優賞”という設定だが、助演というにはあまりにもメインの鈴木もぐらに焦点が合いすぎている。ドキュメンタリーを撮影した一人称視点が主人公である、と好意的に捉えても無理は禁じ得ず、やや残念な印象だ。
 続く2作品も、短時間で内容を突き詰めていったにしては凝って見応えはある。ただ正直なところ、序盤の2作品と比較すると劣る。いずれも中心となる友近とパンサー尾形貴弘、ふたりのキャラクターや世界観を反映している、という点ではふたりのファンやお笑い好きには親しみやすいし、映画として体裁は整っているが、急拵えの印象と粗さは如実だ。
 恋人役に山崎銀之丞、そしてある名優をたいへん贅沢に配した『秋定麗子物語』は豪華さではほかの作品の比ではないが、授賞式で友近が吹いたホラを綺麗に組み込めていない。即興コントの技術に優れ、『有吉の壁』でも異質の存在感と安定感を発揮する彼女だが、そのテクニックが徒となって、良くも悪くも“いつも通り”というイメージを与える。
『まっぱ MAPPA』に至っては、基本、尾形の“滑り芸”とでも言うべき芸風に慣れていないと、ただ寒く、シンプルに馴染めないと思われる。ストーリーの根底にハートウォーミングな要素を加え、終盤に感動を演出しようとしているが、尾形のギャグを軸とする世界観に理解が及ばなければ、感動どころか白ける可能性の方が高い。
 ……思っていたより否定的な文言が並んでしまったが、番組についての予備知識なく、いきなり観ようとする無謀なひとを想定するとこんな書き方にせざるを得ない。しかし、『有吉の壁』という番組と、その面白さの性質を知っていて、かつ映画好きなら、満足感は得られるし、時間的な制約と、テレビやステージのコントでは出来ない自由度、その双方で懸命に遊び、真面目に映画に仕立てる姿そのものが楽しめるはずだ。MC有吉の無茶振りに、全力で応えきった作品である。アカデミー賞に相応しい……かはともかく、カベデミー賞の名を冠するには相応しい。


関連作品:
万引き家族
テッド』/『99.9 -刑事専門弁護士- the movie』/『シュガー・ラッシュ』/『秘密結社鷹の爪 THE MOVIE 3 ~http://鷹の爪.jpは永遠に~』/『キネマの神様
ピーナッツ』/『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE』/『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ』/『内村さまぁ~ず THE MOVIE エンジェル

コメント

タイトルとURLをコピーしました