『内村さまぁ〜ず THE MOVIE エンジェル』

TOHOシネマズ六本木ヒルズ、階段下に掲示されたポスター。

監督:工藤浩之 / 脚本:たかはC、森ハヤシ / 企画:成田はじめ / 製作:工藤浩之、水野道訓、田村正裕、西尾聖、大田圭二、坂本健、板東浩二、佐竹一美 / プロデューサー:上野裕平、杉山剛、志水大介、宇田川寧 / 撮影:青木芳行 / 照明:田部谷正俊 / 美術:森つねお / 装飾:西村徹 / 編集:相良直一朗 / 衣装:南啓太 / スタイリスト(さまぁ〜ず):高村純子 / 録音:岩丸恒 / 音楽:福廣秀一朗 / 主題歌:PUFFYこれが私の生きる道』 / 出演:三村マサカズさまぁ〜ず)、内村光良大竹一樹さまぁ〜ず)、藤原令子久保田悠来渡辺奈緒子、三谷翔太、笑福亭鶴瓶渡辺江里子高橋ジョージ柄本佑、ほかお笑い芸人多数 / 制作プロダクション:ダブ / 配給:東宝映像事業部

2014年日本作品 / 上映時間:1時間25分

2015年9月11日日本公開

公式サイト : http://uchisama-movie.com/

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2015/09/11) ※初日舞台挨拶つき上映



[粗筋]

 正統派の女優を目指しながら、なかなか芽の出ない夕子(藤原令子)は、事務所との契約を打ち切られ失意で彷徨っていたとき、“女優募集”の張り紙を見つけ、意気込んで応募する。

 だがその雇い主は、芸能事務所でも劇団でもなく、探偵社だった。エンジェル探偵社が行うのは普通の身上調査などでは依頼人の悩みを聞き、相応しいシチュエーションの脚本を準備、然るべき対象者の前で演じることで、気持ちの変化や行動を起こすきっかけを与える、というものだった。ここで女優に求められるのは、大観衆を前にした華やかな演技ではなく、ごく僅かな観客を動かすための芝居なのである。

 最初は成り行きで芝居に付き合わされた夕子だが、想像しなかった仕事内容に、2度と関わらないつもりだった。しかし、思わぬことで所長の三田村マサル(三村マサカズ)ら所員に借りを作ってしまい、在籍せざるを得なくなる。

 風変わりな依頼を幾つか経験し、夕子が職場に馴染んできたころ、マサルを妙な客が訪ねてくる。偶然マサルを見て追ってきてしまったその男、中川(笑福亭鶴瓶)はマサルに、彼の孫の父親を演じて欲しい、と頼んできた――

[感想]

 ご存知ない方のために説明しておくと、『内村さまぁ〜ず』はネットでの配信をベースに展開しているバラエティ番組である。毎回ゲストとして招かれた芸人がMCを担当し、色々な企画に挑むという趣向で、映像ソフトの本数がギネスブックに登録されるほど根強い人気を誇り、2015年で10年目に突入、未だに放送は継続している。

 がっちりと作り込んでいるわけではないが、プライヴェートでも仲のいい3人のゆるい空気感に浸るのが楽しい、良くも悪くもくだらなさこそ身上、という番組であり、番組を地上波放送で欠かさず観ている私でさえも、正直なところ“映画にしてどうすんの”と首を傾げた。それでもファンなので、舞台挨拶のチケットを確保して劇場に駆けつけたのだが、これが期待以上に楽しかった。

 導入はおよそ映画らしくない。番組ても用いられているフレームに囲まれた画面のなかで、撮影前後の内村さまぁ〜ずの、映画撮影という状況ゆえの緊張と照れを切り取るくだりは番組本来のノリだ。

 だが、このあとはしっかりと映画のトーンになる――映画というより芝居、それもメイン3人が得手とするコントの雰囲気になる。ただし、ここも恐らくは意識的にかっちりと芝居を組み立てていない。序盤から明らかにアドリブをそのまんま続けているらしきくだりがあるし、よりによって主演の三村が台詞を噛んでしまいぼんやりとなった箇所をそのまま使っている。演技であること、映画としての結構を重視するひとにはこれだけで否定的になりそうだが、このバラエティ的な緩さは、番組ファンにとっては受け入れやすく、しかも無理に芝居をやりきろうとしていないからこその、自然さも醸し出している。ストーリーは存在しているために映画らしさも感じるが、しかし番組のファンにとっても違和感を与えない作りだ。

 映画としての堅牢さを求めるひとにはまったく向かないが、日頃からバラエティに親しみ、気を抜いて楽しむ快さを知っているひとにとっては最高の1本と言える。きちんとストーリーは構成されているが、複雑な内容ではなく、物語やコント的なやり取りで笑いを誘いつつも、シンプルな感動にうまく繋いでいく。そこに教訓臭さもなく、観終わったら忘れてしまっても一向に構わない。バラエティ番組に求められる、ひとときの娯楽をきちんと提供してくれる仕上がりだ。

 かといって全てが適当に作られているわけではない。ストーリーを成立させるべく、物語の要所にはきちんと本職の俳優を配し、唯一映画やドラマでの演技経験が豊富な内村ひとりではフォローしきれない説明台詞や、ストーリーを支えるためのムード作りに寄与して貰っている。他方で、居酒屋や遊園地など、あちこちでお笑い芸人たちがピンポイントで出演しており、それぞれのキャラを活かした扱いもさることながら、まったく話に絡まず居るだけのゲストたちを見つける楽しさもある。基本的には客としてさらっと顔を出しているだけ、というパターンがほとんどだが、主筋に絡まないために後ろでちょろちょろしている大竹と絡んで変な存在感を示すことがあるのも楽しい。その気になれば、発見する楽しさを味わうために、2度、3度と観ることも可能だろう。あっさり楽しめるようでいて、観るひとには掘り下げるところがある、これもよく出来たバラエティ番組の魅力であり、本篇はその楽しさを、劇場でかけるに相応しく膨らませている。

 注意して欲しいのは、ひとくちにバラエティ番組好き、と言っても、恐らくどういう傾向のタレントや芸人が好きか、によって好みや知識の深さが変わってくる。本篇に登場する芸人の傾向は、大元である『内村さまぁ〜ず』の前身と言えるテレビ朝日系列の深夜番組『内村プロデュース』あたりから、それ以降に活躍してきた芸人たちや彼らが仕掛けてきたネタ、番組に関わるものが多い。まさにその辺りをずっと追ってきた私にはどストライクと言える内容だが、吉本興業の系列の芸人が中心となった番組が好きなひとだと腑に落ちない場面が多い可能性もある。それでもストーリーやコメディ部分で充分に楽しめるだろうが、心底好きになるか、は保証しづらい。

 断言できるのは、『内村さまぁ〜ず』という番組を愛するひとには不満のない出来映えだ、という1点に限る。しかし、本当に気軽に楽しめる作品に触れたい、というひとにとっても、ちょっとした福音になり得る作品かも知れない。

関連作品:

ピーナッツ』/『かずら』/『ボクたちの交換日記

バカリズム THE MOVIE』/『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE

コワイ女』/『ディア・ドクター

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