『99.9 -刑事専門弁護士- the movie』

TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『99.9 -刑事専門弁護士- the movie』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『99.9 -刑事専門弁護士- the movie』チラシ。

監督:木村ひさし / 脚本:三浦駿斗 / トリック監修:蒔田光治 / 企画:瀬戸口克陽 / プロデューサー:東仲恵吾、辻本珠子 / 撮影:坂本将俊 / 照明:横山修司 / 美術:中村綾香 / 編集:冨永孝 / 衣装:山谷志穂 / 録音:仲山一也 / 音楽:井筒昭雄 / 主題歌:嵐『Find My Answer』 / 出演:松本潤、香川照之、杉咲花、片桐仁、マギー、馬場園梓、馬場徹、映美くらら、池田貴史、岸井ゆきの、西島秀俊、道枝駿佑(なにわ男子)、蒔田彩珠、榮倉奈々、木村文乃、青木崇高、高橋克実、石橋蓮司、奥田瑛二、笑福亭鶴瓶、岸部一徳、R-指定(Creepy Nuts)、勝野洋、遠山景織子、平田敦子、片山萌美、オカダ・カズチカ、村田秀亮(とろサーモン)、ヨシタツ、後藤洋央紀、こがけん、セルジオ越後、吉田ウーロン太、鈴木もぐら(空気階段)、高橋克実、ベンガル、渋川清彦、畑芽育 / 制作プロダクション:TBSテレビ / 配給:松竹
2021年日本作品 / 上映時間:1時間58分
2021年12月30日日本公開
公式サイト : https://movies.shochiku.co.jp/999movie/
TOHOシネマズ上野にて初見(2022/1/8)


[粗筋]
 日本の司法では、刑事事件の有罪率は99.9%。だが、残り0.1%のなかに隠れている真実にあえて挑む弁護士がいた。
 斑目法律事務所法務部刑事事件専門ルームに所属する弁護士・深山大翔(松本潤)はひたすら事実にこだわり、警察が見落としていた真相を探り当てて依頼人を幾人も助けてきた。
 このところ、深山が立て続けに対立する相手がいた。下町で個人の法律事務所を営む南雲恭平(西島秀俊)という弁護士は、依頼人を救うためならどんな証拠でもでっち上げる、というスタンスを取っている。深山が殺人事件の被告となった加賀郁夫(R-指定)を弁護していた際にも、南雲の策略が思わぬかたちで影響を及ぼしてきた。
 しかし、南雲が突如として窮地に陥った。南雲のひとり娘エリ(蒔田彩珠)が、ピアノコンクールで優秀な成績を収めた矢先に、彼女が15年前に天華村で発生した殺人事件で死刑判決を受けた男性の娘だった、という事実が、週刊誌によって報じられたのである。途端、ネットにはエリに対する誹謗中傷が溢れかえった。
 そのときまで、自分が養女であることも知らなかったエリは、斑目法律事務所の所長・佐田篤弘(香川照之)に救いを求める。家にも連日のようにマスコミが詰めかける現状を気遣い、佐田はエリを自分の家に匿うと、15年前の事件の調査を深山たち刑事事件専門ルームと共に探りはじめる。
 南雲は実は、犯人とされた男性の弁護を請け負っていた。敗色が濃厚となった際に、男性からの望みで南雲はエリを引き取ったのだという。事件の記録を辿った深山たちは、獄中死したこの男性が無辜であった可能性を考え、再調査に臨む――


[感想]
 テレビにて第2期まで制作されたシリーズの、初となる劇場版である。
 その一点だけで、もともとのファンか、ある程度の予習をしたひとでなければ楽しめないようにも思うが、本篇の場合、観ておくべきだ、と言わねばならないのは劇場公開直前に放映されたドラマ版の特別編だけだ――比較的親切、と言えそうだが、しかしこの作品、緩やかに繋がっているどころか、特別編で提示された要素が細かにちりばめられているので、やはり厄介には違いない。これをアップしている時点で特別編の放送から1ヶ月半近く経っているので、いまから本当に本篇を出来る限り隅々まで楽しみたい、というのなら、どうにか配信されているところを見つけるか、幸いに録画データを残している友人に頼んで視聴するしかない。
 ただその一方で、どうしても特別編を観ておく必要があるのか、と問われると、疑問でもある。
 この2作品は、斑目法律事務所の新たなメンバーである河野穂乃果(杉咲花)に加え、南雲恭平という弁護士が登場する。この南雲という人物は、依頼人を救うためなら証拠の捏造も厭わない、というスタンスを取っている。真実こそが依頼人を救う、と考え手間を惜しまない深山とは対照的であり、先行する特別編ではそこが軸となっていた。
 この劇場版でも、序盤で描かれる序章ではその流れを踏襲した駆け引きが展開する。特別編込みで深山と南雲、両者のスタンスの違いを明瞭にしたのだから、てっきり劇場版ではその戦いにひとつのピリオドを打つまでを描くのかと思いきや、本筋はむしろ、深山たちが南雲の呪いを解こうとする流れであり、深山が南雲側に立つ格好だ。
 惜しいのは、この展開にしたことで、特別編で期待されるような深山と南雲との駆け引きが失われてしまったことだ。特別編で南雲を演じた西島秀俊の、好人物然とした振る舞いに隠れたどす黒い一面は異様な迫力があり、それゆえに深山という、陽気な言動に峻厳さを秘めた人物と好対照を為している。だからこそ、タイトルに“刑事裁判における有罪率”を掲げ、法廷ものとしての側面もあるこのシリーズの劇場版に相応しい対決を予想させる。しかし蓋を開けてみたらご覧の通りで、せっかく特別編で際立たせた西島=南雲の人物像があまり活きなくなってしまった。そもそも、本篇で描かれる南雲の過去にも関わる事件については、手懸かりはおろか概要すら特別編で綴られていないことを思うと、特別編は必見どころか、この劇場版の足を引っ張っている、という見方も出来よう。あちらを観なければ本篇が楽しめない、という足枷を小さくしたかったのかも知れないが、どっちつかずのモヤモヤとした印象ももたらしてしまう。
 一方で、題名のわりに法廷ものとしての妙味に乏しいのも残念だ。法廷上でのやり取りよりも、過去の事件の綾を解きほぐすことに注力しているため、どちらかと言えばシンプルなミステリの趣だ。もしオリジナルシリーズを未見で、法廷ものの側面に期待して鑑賞しようとすると、そうとう物足りなさを感じるに違いない。
 ただし、こうした欠点は実のところ、テレビシリーズのときから変わっていない。もともと、法律のからくりで依頼人を助けるとか、駆け引きの末に勝訴をもぎ取るとかいった趣向よりも、事件そのものの掘り下げられなかった謎を追求して真実を突き止め、依頼人の無実を証明する展開が主となるシリーズなのだ。そのことを理解していれば、決して本篇の展開は意外なものではない。
 そして何より、この作品の魅力は、個性の際立った登場人物たちの異様にテンポよくツボをくすぐる会話と、画面の随所に仕込まれた小ネタなど、満遍なくちりばめられた“笑い”にこそある。その語り口のなかで、不可能にも思える状況を検証と論理で解きほぐしていくのが面白いのだ。
 松本潤演じる深山は頭が切れるものの真意が判然とせず、集中して思案したいときは料理をはじめ、謎を解くと寒いダジャレを口にする、というだいぶ濃いキャラクターだが、そんな彼に振り回される周囲も、。出世欲に燃える一方で家族のなかで地位の低さに悩む佐田、法廷マンガに憧れてしばしば突拍子もない決め台詞を口走る穂乃果を筆頭になかなか濃い。それらが入り乱れるドタバタ感が本篇はとにかく楽しい。なんなら、謎解きの出来映えなど関係なしに、このやり取りだけ観ていても満腹になる。
 率直に言えば、ミステリ部分のクオリティはそこまで高くない。劇場版らしく、テレビシリーズよりも事件はだいぶ大掛かりになっているが、展開にしても検証にしても粗さが目立つ。本篇にしても、不明瞭な部分が多々あったのに無視されていた不思議もさることながら、既に15年も前の事件なのに手懸かりが残っていることも訝しい。果たして15年も放置されるほどに難解な謎だったか? と考えると、だいぶ怪しい内容だ。
 しかし、あまり細かく追求しなければ、コメディと巧みに融合した謎解きとして楽しい。検証の異様な手の込みようと、回想シーンにも仕込まれた小ネタに笑っているうちに、にわかに視界が開けていくような面白さ。“コメディ”という大前提があればこその謎解きが楽しめるその構造も間違いなく本篇の魅力だ。そして、本質的にコメディであればこそ、謎解きの不自然さにも寛容になれる――コメディタッチであっても謎解きに精密さを求めるひとには向かないだろうが。
 そもそも本篇の監督は、かつて絶大な人気を博した『TRICK』の演出メンバーのひとりであり、トリックの監修にも『TRICK』を手懸けた蒔田光治が名前を連ねている。それを考慮すれば方向性は明確なのだ。TVシリーズが好きなひとなら問題なく楽しめるだろうし、そちらが未見でも、『TRICK』が好きだったなら、本篇からいきなり観たとしてもハマれるに違いない。ここまでの一連の説明でしっくりこなかったひとは、素直に避けるか、TVシリーズ或いは『TRICK』を鑑賞し、相性を確かめてから臨むべきだろう。


関連作品:
任侠学園
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