『ソー:ラブ&サンダー(字幕・3D・Dolby CINEMA)』

丸の内ピカデリー、エレベーター脇に掲示された『ソー:ラブ&サンダー』ポスター。
丸の内ピカデリー、エレベーター脇に掲示された『ソー:ラブ&サンダー』ポスター。

原題:“Thor : Love and Thunder” / 監督&脚本:タイカ・ワイティティ / 原案:タイカ・ワイティティ&ジェニファー・ケイティン・ロビンソン / 製作:ケヴィン・ファイギ、ブラッド・ウィンダーバウム / 製作総指揮:ヴィクトリア・アロンソ、ブライアン・チャペック、ルイス・デスポジート、トッド・ハロウェル、クリス・ヘムズワース / 共同製作:デヴィッド・J・グラント / 撮影監督:バリー・バズ・イドワーヌ / プロダクション・デザイナー:ナイジェル・フェルプス / 編集:マシュー・シュミット、ピーター・エリオット、ティム・ロシュ、ジェニファー・ヴェッキアレロ / 衣装:メイズ・C・ルベオ / 視覚効果&アニメーション:インダストリアル・ライト&マジック / 視覚効果監修:ジェイク・モリソン / ビジュアル開発監修:アンディ・パーク / キャスティング:サラ・ハリー・フィン / 音楽:マイケル・ジアッチーノ、ナミ・メルマッド / 音楽監修:デイヴ・ジョーダン / 出演:クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン、クリスチャン・ベール、テッサ・トンプソン、タイカ・ワイティティ、ラッセル・クロウ、ジェイミー・アレクサンダー、クリス・プラット、デイヴ・バウティスタ、カレン・ギラン、ポム・クレメンティーフ、ショーン・ガン、ヴィン・ディーゼル、ブラッドリー・クーパー、カーリー・リース、ベン・ファルコーネ、イドリス・エルバ、ブレット・ゴールドスタイン、マット・デイモン、マーク・カシミール・ダイニーウィック・Jr.、ルーク・ヘムズワース、メリッサ・マッカーシー、サム・ニール / マーヴェル・スタジオ製作 / 配給:Walt Disney Japan
2022年アメリカ作品 / 上映時間:1時間59分 / 日本語字幕:林完治
2022年7月8日日本公開
公式サイト : http://marvel-japan.jp/ThorLT/
丸の内ピカデリーにて初見(2022/7/9)


[粗筋]
 郷里アスガルドを失い、地球の港町に築かれた《ニュー・アスガルド》の王座を戦士ヴァルキリー(テッサ・トンプソン)に託した雷神ソー(クリス・ヘムズワース)は、《ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー》の面々とともに正義のため宇宙を旅していた――というのは建前で、何千年の長きを生きるソーは、未だ“自分探し”のまっただ中にある。
 そんな彼らに、神のひとりシフ(ジェイミー・アレクサンダー)から助けを求めるメッセージが発せられた。神を殺害することの出来る武器《ネクロソード》の呪詛に染まった男・ゴア(クリスチャン・ベール)が、各地の神々を次々に手にかけているという。《ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー》と別れ、シフのもとに赴いたソーは、今際の際の彼女から、次の狙いが《ニュー・アスガルド》であることを知らされ、刎頸の友コーグ(タイカ・ワイティティ)とともに地球へと急ぐ。
 ゴアが召喚した影の化物によって襲撃された《ニュー・アスガルド》に駆けつけたソーは、そこで思わぬ人物と再会する。かつてのソーだけが扱えた武器であり、アスガルド崩壊のきっかけを作った事件で破壊された《ムジョルネア》を操り、影の化物を蹴散らしたのは、ソーのかつての恋人、ジェーン・フォスター(ナタリー・ポートマン)だった。《ムジョルネア》の力を得た彼女は、新たな《マイティ・ソー》として、ヴァルキリーと共に《ニュー・アスガルド》を守っていた。
 ソー、ジェーン、ヴァルキリーの共闘でゴアを退けることは出来たが、その力の源《ネクロソード》は破壊できなかった。なおも神を狙い続けると思われるゴアに対抗するためには、他の神々の助力が要る。ソーは現在の愛用の武器《ストームブレイカー》の力を利用した急ごしらえの宇宙船で、神々の会合が開かれる星を目指した――


丸の内ピカデリー、Dolby CinemaスクリーンのAVP(オーディオ・ヴィジュアル・パス)に表示された『ソー:ラブ&サンダー』特別映像のひとコマ。
丸の内ピカデリー、Dolby CinemaスクリーンのAVP(オーディオ・ヴィジュアル・パス)に表示された『ソー:ラブ&サンダー』特別映像のひとコマ。


[感想]
《マイティ・ソー》は《マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース》のなかでも特異な地位にあるキャラクターだ。なにせソーは“神”である。ヒーローとかどうとか言う前に、存在としての格が違う。生きている時間も人間より遥かに長く、それこそ神同士や、特異な力を持つものにしか倒せない。実際、ソーが単独のシリーズで対峙した敵役はほとんど神か、それに類する存在であったし、本篇も“神殺し”の力を持つ武器に取り憑かれた、特異な存在が敵となっている。
 複数のヒーローたちが共闘するこのプロジェクトのなかにあって、敵の差別化は容易である一方、物語としての構築が難しいシリーズだった、とも言える。事実、率直に言って最初の2作は、他のMCU作品と比べて、印象は強くなかった。
 ところが前作、『マイティ・ソー バトルロイヤル』でにわかに風向きが変わった。ヒーローたちが一堂に会する《アベンジャーズ》や、そこに繋がる作品の展開を踏まえ、ソーの活躍の舞台は宇宙に広がった。そして、神でありながら、自らの立ち位置を定められない、という人物像が、ソーのキャラクターに奥行きを齎した。
 そして何よりも、監督に新鋭タイカ・ワイティティを抜擢したことが大きかった。アドリブも多用したコメディ作品で注目されたワイティティ監督は、この大規模なプロジェクトでも自らのオリジナル作品を個性づけた手法を援用、随所にコミカルな描写を採り入れ、俳優のアドリブも積極的に採用する活気に満ちた演出で、シリーズの魅力を膨らませた。その後の『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』や『アベンジャーズ/エンドゲーム』にも繋がる、大胆で衝撃的な展開も盛り込んだ上で、強烈な個性と面白さを獲得したこの『バトルロイヤル』は、MCUのなかでも評価の高い1本となっている。MCUでは初となる、単独シリーズ4作目となる本篇に、タイカ・ワイティティ監督が続投したのは、必然的だった、と言える。
 ただし、いざリリースされた本篇が、『バトルロイヤル』で魅せられた観客すべての心を掴める、とは正直なところ思えなかった。
 前作で引き出したソーと彼の物語の魅力は踏襲している。冒頭から無双の活躍ぶりに、幼稚さを残した言動の奔放な魅力。ユーモアをふんだんに鏤めた語り口も、前作で築きあげたそのものだ。
 しかし惜しむらくは、ストーリー展開にまでその奔放さに侵蝕されてしまった点だろう。冒頭から率直に言って、色々と粗い。プロローグ、ゴアの背景を綴るくだりは不穏だが、ソーがゴアと対決するために行動するくだりに入ると、随所で強引さが目立ってくる。『バトルロイヤル』にもそうした強引さは目立っていたが、それでも流れがきちんと組み立てられていたのでさほど違和感は覚えなかったが、本篇は自然さが演出出来ていない。急に提供されるやかましいヤギとその活用法、助力を請いに向かった神々の星での出来事など、「それでいいの?」「そこで済ませちゃっていいの?」と疑問符を残したまんま突き進んでいくので、気持ちがざわついてしまう。
 ただこれは恐らく、タイカ・ワイティティ監督が前作で見出したソーというキャラクターの持ち味を活かし、より他のヒーローたちと差別化するために考慮した結果、と捉えられる。
 ソーは人間よりも遥かに長い時間を生きているにも拘わらず、依然として如実な幼稚さ、純粋さがある、という点が前作でクローズアップされていた。本篇での描写と全篇を貫く発想の方向性は、このキャラクターに沿うかのように自由奔放、子供っぽさを意識した、と映る。実際、監督は本篇について、「10歳児に意見を聞いて回って、全部を『了解』と言った映画」と説明している。確かにその通りの作りであり、そういう意味ではこれ以上ないほど狙い通りだ。
 典型のひとつは、元カノ・ジェーンを新たな《マイティ・ソー》にしてしまった点だ。ただし、これ自体は原作コミックで既に提示されていたアイディアではある。ジェーンが神の力を手にした背景も、どうやらマーヴェル・コミックで描かれているものをなぞっている。しかし、映画のなかで、これを実現するために仕掛けられた背景は、清々しいほどに幼稚でコミカルだ。
 しかし本篇は、それを“幼稚”と退けるより、同じ視点に立って浸るか、「そんなんありか?!」と心で激しくツッコんで楽しむのが正しい楽しみ方だろう。そういう視点であればこそ、いささかユーモアの先行する神々のキャラクターや、移動が自由自在で跳躍の激しい展開も興奮に変わる。とりわけ、クライマックスでの禁じ手としか思えない戦い方も、そういう目線であればこそ夢中になるはずだ。そこまで合わせられなかったひとは、たぶん不満だらけに終わるはずである。
 この世界観のなかにあって、唯一、物語を引き締めているのがゴアという敵役だ。冒頭から、彼だけがひたすらにシリアスだが、行動そのものには同調できずとも、動機には共感してしまうひとも多いはずだ。しかもこの人物は、残虐に見せかけて、終始、ある一線だけは守っている。やもするとヒーロー、そして神よりも自然な感覚を持ったこの男の存在が、ソーを軸とする陽性な展開を裏打ちし、神やヒーローのあり方を問う、本篇の根っこにある主題を強く意識させる。両者の目的、生き方が対決するクライマックスは、本篇の基本的なトーンである軽さを残しつつも、はっきりとした重量を感じさせる。
 ただし、あえてソーの天真爛漫さを全面的に打ち出した本篇が、結果として展開に幼稚な印象を強め、前作以上に好みの分かれる出来になったことは否めない。たとえ前作にハマったとしても、何処に惹かれたか、によっては不満を抱く可能性はある。しばしば身勝手で、制御不能に陥るソーというヒーローに似つかわしく、“取扱注意”の作品と言えそうだ――ともあれ、『バトルロイヤル』で抱いた期待にそのまんま応えてくれる、と思って臨むと痛い目に遭うかも知れない、という覚悟はしておいたほうがいい。


関連作品:
マイティ・ソー』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『マイティ・ソー バトルロイヤル
アイアンマン』/『インクレディブル・ハルク』/『アイアンマン2』/『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『アベンジャーズ』/『アイアンマン3』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』/『アントマン』/『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』/『ドクター・ストレンジ』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』/『スパイダーマン:ホームカミング』/『ブラックパンサー』/『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』/『アントマン&ワスプ』/『キャプテン・マーベル』/『アベンジャーズ/エンドゲーム』/『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』/『ブラック・ウィドウ』/『シャン・チー/テン・リングスの伝説』/『エターナルズ(2021)』/『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』/『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス
シェアハウス・ウィズ・ヴァンパイア』/『ジョジョ・ラビット
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インターステラー』/『黄昏(1981)』/『エリジウム

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