『エターナルズ(2021・字幕・TCX・Dolby ATMOS)』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン8入口脇に掲示された『エターナルズ(2021)』チラシ。
TOHOシネマズ日本橋、スクリーン8入口脇に掲示された『エターナルズ(2021)』チラシ。

原題:“Eternals” / 監督:クロエ・ジャオ / 原案:ライアン・フィルポ&マシュー・K・フィルポ / 脚本:クロエ・ジャオ、パトリック・バーリー / 製作:ケヴィン・ファイギ / 製作総指揮:ルイス・デスポジート、ケヴィン・デラノイ、ヴィクトリア・アロンソ、ネイト・ムーア / 共同製作:ミッチ・ベル / 撮影監督:ベン・デイヴィス / プロダクション・デザイナー:イヴ・スチュワート、クリント・ウォレース / 編集:ディラン・ティチェナー / 衣装:サミー・シェルドン・ディファー / 視覚効果&アニメーション:インダストリアル・ライト&マジック / 視覚効果監修:ステファン・セレッティ / 視覚開発主任:ライアン・メイナーディング / キャスティング:サラ・ハリー・フィン、アンナ・テニー / 音楽:ラミン・ジャワディ / 音楽監修:デイヴ・ジョーダン / 出演:ジェンマ・チャン、リチャード・マッデン、クメイル・ナンジアニ、リア・マクヒュー、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ローレン・リドロフ、バリー・コーガン、ドン・リー(マ・ドンソク)、ハーリッシュ・パテル、キット・ハリントン、サルマ・ハエック、アンジェリーナ・ジョリー、ビル・スカルスガルド / マーヴェル・スタジオ製作 / 配給:Walt Disney Japan
2021年イギリス、アメリカ合作 / 上映時間:2時間37分 / 日本語字幕:佐藤恵子
2021年11月5日日本公開
公式サイト : http://marvel-japan.jp/Eternals
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2021/11/9)


[粗筋]
 遡ること7000年前、宇宙の創造主たる種族・セレスティアルズの長エリシェムは、地球へと《エターナルズ》を送りこむ。
 多くの星々で、知的生命体が文明を築くよう導いてきたセレスティアルズだが、惑星には最強の捕食者として怪物《ディヴィアンズ》が現れる。《エターナルズ》の任務は、文明の発達を影から助けながら、《ディヴィアンズ》を絶滅させることにある。
 地球へと派遣されたのは、エイジャック(サルマ・ハエック)をリーダーとする10名。一同はそれぞれの特殊能力を駆使して、任務を忠実に果たし続けた。
 だが約500年前、一同の絆を分断する事件が起きる。人間たちが激しい戦争を繰り広げるそのさなか、神話の女神のモデルともなった戦士セナ(アンジェリーナ・ジョリー)が突如乱心、仲間たちに刃を向けたのだ。辛うじて抑えることには成功したが、《エターナルズ》特有のこの病を克服するためには、記憶を一切剥奪し、新たな人格にならなければならない。ギルガメッシュ(ドン・リー)はこの処分に反発し、自分が共に離脱することで収めようとした。
 折しも、《エターナルズ》の面々のあいだでも、人類との接し方で意見が割れつつあった。こと、人間の意思を自在に操ることの出来るドルイグ(バリー・コーガン)は、“ディヴィアンズが絡むこと以外で、人間の争いに関与してはならない”という鉄則に強い疑問を抱き、文明の発達に応じて新たな技術を提供してきたファストス(ブライアン・タイリー・ヘンリー)は人類に失望すらしていた。
 観測されたすべての《ディヴィアンズ》を駆逐したあとであることを考慮し、エイジャックは《エターナルズ》たちに解散を命じる。母星オリンピアへの帰還の命令が下るまで、全員は別々の場所で、ひとびとに紛れて暮らしていくよう、エイジャックは指示する。
 ――そして現在。《エターナルズ》の一員であるセルシ(ジェンマ・チャン)は、イギリスの小学校で教師として勤務していた。デイン(キット・ハリントン)という人間の恋人もいて、穏やかな暮らしを送っていた。
 しかしそこへ忽然と、絶滅させたはずの《ディヴィアンズ》が現れる。行動を共にしていた仲間のスプライト(リア・マクヒュー)とともに応戦するが、以前とは異なる治癒能力を身に付けた敵に手を焼く。遅れて駆けつけたイカリス(リチャード・マッデン)の手も借りて辛うじて撃退するが、倒したわけではない。
 滅ぼしたはずの《ディヴィアンズ》が何故、突如として現れたのか? セルシたち3人は、意見を求めるため、アメリカの田舎町で隠遁生活を送るエイジャックのもとを訪ねるが、そこで待っていたのは、衝撃的な光景だった――


[感想]
 個人的な見解だが、昨今のハリウッドにおける“多様性”の採り入れ方にはあまり賛同できずにいる。
 多くの人種や性向があることを前提に、マイノリティと呼ばれるひとびと、従来は脇役にばかり位置づけられてきたひとびとにスポットライトが当たる、活躍の場が認められることは当然であり、実現されるべき価値観だ、と信じている。ただそれは、作品の構想や世界観にそぐわないかたちで用いられるべきではない。現代を舞台にした物語で、そこにいても不自然でないひとびとが排除されることはもってのほかだが、いることが時代背景や、作品の構想的にそぐわないところに、無理矢理ねじ込むことは、むしろ表現というものの多様性を押し殺してしまう。
《マーヴェル・シネマティック・ユニヴァース》内の作品で言えば、『ブラックパンサー』や『シャン・チー』のように、特定の人種や文化に焦点を当て、リスペクトを捧げた作品が作られ、そのなかで適切なキャラクター、人種が配置されるのは真っ当だし、多彩なヒーローが登場するマーヴェルには相応しいと思う。だが、無理矢理に多様性を採り入れたようなキャラクター構成は、むしろ“多様性”という思想が持つ可能性を阻害するものだ、とさえ思う。
 そういう考え方から言うと、本篇は決してあまりいい例とは考えられないのである。
 10名にもなる本篇のチーム《エターナルズ》の人員構成はまさに“多様”だ。白人黒人はむろん、中国系や韓国系、インド系もあり、南米からの血筋も加わっている。アメリカ文化の流れに沿って育てられたアメコミのヒーローたちはどうしても白人に偏りがちだったことを思えば、この“発展”そのものは確かに喜ばしい。
 しかし、この《エターナルズ》は、地球の人類が現代のような文明を形成する遙か以前から人類の歴史の影にあって、《ディヴィアンズ》の脅威から守りながら、しばしば文明に介入して適切なレベルの技術を提供していた、という設定だ。だとするなら、その実、これほど多様な人種の容姿を選択する必要はない。むしろ、その時代や場所に適切な外見に変えられるほうがよほどしっくり来る。彼らが地球に派遣された当初からわざわざ分けるのは、それぞれの時代で許容されることを考慮すると不自然だ。その点で、どうにも本篇の“多様性”には、“対応しました”というポーズにしか、私には感じられないのだ。
 ただ、登場人物のひとりを聾者にしたのはなかなか興味深い発想だと思う。別のアメコミ・レーベルにも《フラッシュ》という、高速で動けるヒーローは存在するが、音速で動こうとすると聴力に影響を及ぼすため、必然的に聴力はないほうがいい、という発想は確かに理に適っている――明らかに文明のレベルが段違いなので、テレパシーのような意思伝達も可能なのでは? と更に追求したい気もするが、ハンディキャップが別の特殊能力に繋がる、という考え方は評価出来る。
 それ以上に感心したのは、ファストスを同性愛者に設定した点だ。この設定は、《エターナルズ》がいちどバラバラになるに至った事情と、その後の心理的変遷とも繋がりあう。一時は人類に心底失望していた彼が、仲間たちと離れたあとでどんな時間を過ごしていたのか、そしてどんな想いで家族を作ったのかを想像させて、ドラマとしての奥行きを齎している。安易に同性愛を採り入れるのではなく、そこに至る心境までも想起させるこの設定は、本篇の中でも出色だと思う。
 多様性の扱い、という面ではだいぶ批判的な感想を抱いた私だが、しかし作品そのものの、時代も空間も広範に及ぶ壮大な構想と展開は非常に魅力的と感じた。フィクションでは、歴史の影に地球とは異なる知的生命体ヤ強大な存在の介入が存在した、という発想はありがちだが、本篇のようにわずか2時間半――劇場映画としてはやや長尺だが――に詰めこまれているのはそうそうない。ファストスが、その時代にはまだ早すぎる蒸気機関を教えることを提案して即座に却下されるくだりなど、この設定ならではのお遊びも楽しい。
 そしてその壮大さが、《エターナルズ》の面々がやがて抱えるようになるジレンマと、クライマックスで起きる事件の背景とも連繋した構成は見事だ。なにせ構想が壮大すぎるため、MCUでも『アベンジャーズ/エンドゲーム』に次ぐレベルの尺でもいささか窮屈さを覚えるほどだが、それだけ充実感もある。本篇製作中にアカデミー賞を獲得したクロエ・ジャオ監督らしい、雄壮で美しいヴィジュアルもまた作品世界を絶妙に引き立てている。
 ただ、やはりそれでも終盤においては、“詰めこみすぎ”があからさまな欠点として露見しているのがもったいない。とりわけ、終盤で起きるヒーローたちの心境の変化ばかりか、最大の変化をもたらす出来事の契機でさえ、すぐに呑みこみづらいのはいただけない。目まぐるしく事態が展開する、といえば聞こえはいいが、どうしても恣意的に映るし、何より、せっかくスケールの大きなクライマックスにも拘わらず、いまひとつ爽快感に欠ける。
 MCUも、ここまでの諸作で映画史に残る快挙を幾つも果たし、初期よりも遥かに大きな期待とともに、映画業界に対する責務を背負うようになったことは理解できる。『ブラックパンサー』や『シャン・チー』で試みた多様性へのアプローチを更に広げる必要も確かにあっただろう。ただ、本篇はそうした、全体の構想における試行錯誤を無闇に詰めこんでしまったせいで、歪になってしまったように思えてならない。
 本篇がよく出来ている、と評することは、残念ながら出来ない。ただ、その意欲や使命感、そこに果敢に挑んだ挑戦心自体は高く評価したい――けれど個人的には、ヒーロー映画はそんな背景など深く考えなくとも楽しめるものにして欲しい、と思うのだけど。観客が認識する葛藤は、ヒーローが直面する危機のなかだけにあればいい。


関連作品:
アイアンマン』/『インクレディブル・ハルク』/『アイアンマン2』/『マイティ・ソー』/『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『アベンジャーズ』/『アイアンマン3』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』/『アントマン』/『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』/『ドクター・ストレンジ』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』/『スパイダーマン:ホームカミング』/『マイティ・ソー バトルロイヤル』/『ブラックパンサー』/『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』/『アントマン&ワスプ』/『キャプテン・マーベル』/『アベンジャーズ/エンドゲーム』/『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』/『ブラック・ウィドウ』/『シャン・チー/テン・リングスの伝説
ノマドランド
嗤う分身』/『1917 命をかけた伝令』/『ゴジラvsコング』/『ワンダーストラック(2017)』/『ダンケルク』/『ポンペイ』/『野蛮なやつら/SAVAGES』/『ツーリスト』/『デッドプール2
ブレイド(1998)』/『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』/『タイタンの戦い』/『インモータルズ-神々の戦い-

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