『ノア 約束の舟(字幕・TCX・ATMOS)』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2入口脇に掲示されたポスター。

原題:“Noah” / 監督:ダーレン・アロノフスキー / 脚本:ダーレン・アロノフスキー、アリ・ハンデル / 製作:スコット・フランクリン、ダーレン・アロノフスキー、メアリー・ペアレントアーノン・ミルチャン / 製作総指揮:アリ・ハンデル、クリス・ブリガム / 撮影監督:マシュー・リバティーク / プロダクション・デザイナー:マーク・フリードバーグ / 編集:アンドリュー・ワイスブラム / 衣装:マイケル・ウィルキンソン / キャスティング:リンゼイ・グレアム、メアリー・ヴェルニュー / 音楽:クリント・マンセル / 出演:ラッセル・クロウジェニファー・コネリーレイ・ウィンストンエマ・ワトソンアンソニー・ホプキンスローガン・ラーマン、ダグラス・ブース、ケヴィン・デュランドマートン・ソーカス、マディソン・ダヴェンポート、ダコタ・ゴヨ / 声の出演:ニック・ノルティ、マーク・マーゴリス / プロトゾア・ピクチャーズ製作 / 配給:Paramount Japan

2014年アメリカ作品 / 上映時間:2時間18分 / 日本語字幕:?

2014年6月13日日本公開

公式サイト : http://www.noah-movie.jp/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2014/06/13)



[粗筋]

 アダムとイヴが楽園を逐われ、その子孫が様々な運命を辿ったのち、ノアはレメク(マートン・ソーカス)の子として生まれた。

 やがて成長し、妻ナーム(ジェニファー・コネリー)とのあいだにセムとハム、そしてヤペテという3人の子に恵まれたノア(ラッセル・クロウ)は、ある日夢を見た。世界が雨と噴き出す地下水に覆われ、大地が水に没する、という夢だった。その夢の中で、祖父のメトシェラ(アンソニー・ホプキンス)が潜んでいるはずの山を目撃したノアは、自らの使命を果たすための手懸かりが祖父の元にある、と考え、家族とともに危険な旅に赴く。

 途中、セトの子孫たちの襲撃を受け皆殺しになった集落で、ただひとり生き残った少女イラを保護し、ようやく山の間近まで来たところで、天地創造のときに地上に降臨した堕天使たちに囚われてしまった。だが、ノアの言葉を信じたマゴク(マーク・マーゴリス)の手引によって、どうにか山に到着する。

 メトシェラのもとで夢の続きを見たノアは、エデンの種子を託されて山を下りる。メトシェラから与えられた種子は湧き水を呼び、その周囲に豊かな森を形作った。その光景に、当初はノアの言葉を信じなかった堕天使シェムハザ(ニック・ノルティ)も、彼が神より使命を託された存在であることを悟り、他の堕天使たちと共にノアの手助けをすると決める。

 ノアに与えられた神託は、来たる審判の日に備え、方舟を建造することだった。多くの小部屋にあらゆる動物のつがいを迎え入れ、洪水が引くまでのあいだに保護して、新たな大地に生きる命とする。エデンの種子から生まれた湧き水が川となって陸を横断し、様々な生き物を導いてくるのだった。

 だが、突如として森の1点を目指して飛ぶ鳥の群れは、当然のように人目を引く。人類最初の殺人を犯したカインの血筋であり、多くの人間の王として君臨、暴虐をほしいままにするトバル・カイン(レイ・ウィンストン)がそれを目撃し、ノアたちが洪水に備えて方舟を建造していることを知ってしまう――

[感想]

 申し上げておくと、私は聖書にはかなり疎い。“ノアの方舟”についても、夢の神託により洪水を知ったノアが、新しい大地に生命を繋ぐために建造した、といったごく大まかなアウトラインしか知らないまま鑑賞している。なので、本篇がどの程度聖書の記述に沿っているのか、正しく論じることは出来ない。

 本稿を書く前にごくざっと調べなおした限りでは、やはりある程度は記述を踏まえているものの、随所に大胆な解釈や、意識的な書き換えを行っているようだ。たとえば堕天使については、確かにノアを手伝った、という部分も見てとれるが、本篇のように岩で覆われた化け物のようには表現されていないようだし、ノアの家族構成やトバル・カインの設定なども、旧約聖書の記述と比較するとだいぶ派手に変更が加えられている。恐らく、原理主義的な思考をするひとや、こうした題材を可能な限り原典に沿って描くべきだ、と考えるようなひとには受け入れがたいものであるに違いない。

 だが、単純な冒険スペクタクルとして鑑賞すると、“神託”であったり、“神の采配”としか言いようのない出来事の数々に少々辟易とするかも知れない。ノア当人が自らの目撃したことを根拠に、自らの頭ですべてを考えて行動に移しているのではなく、ひとによっては胡乱としか感じられない“夢の神託”で動き、それがまさに神の所業に助けられ、実現されていくのが御都合主義に思えるのではなかろうか。そして、それに対する洪水以降の出来事が、序盤と矛盾していて、なおさら恣意的に感じられる可能性がある。

 恐らく、宗教的な要素について詳しいのと同時に寛容に捉えられるひとであるか、宗教的に知識が乏しく拘りもなく、それでいて超現実的な設定から主題を汲み取り解釈出来るひとでないと、許容することも丹念に読み解くことも難しいように思う――だいぶん高いハードルに思えるが、そもそも“宗教”というモチーフは扱いが厄介なもので、本篇のように宗教上の出来事を独自の視点で、描こうとすると、宗教のなかでの物語や価値観と衝突したり矛盾を来してしまいがちになる。本篇がそういう失策を犯していない、とは私には断言しがたいが、しかしバランスは決して悪くない、という印象を受ける。本篇は、種子を植えるや否や瞬く間に森へと増殖する樹木や、自然と方舟に赴く動物たち、といった超現実的モチーフを躊躇なく描く一方で、天地創造のヴィジュアルに、天文学における宇宙の誕生を彷彿とさせるものを採り入れていたり、ノアや家族、ほかのひとびとの営みに現実的な視点を取り込み、観ているあいだに強い違和感を抱かせない程度には巧みにバランスを取っている――繰り返すが、聖書について知悉しているひとにとってもそうなのかは保証しかねるが。

 また、個人的には本篇の真価は、洪水が起きたあと、方舟の中にノアの家族だけが残された状況で繰り広げられる出来事のほうにこそあると考える。

 洪水のあとは、溢れた水の上で時を過ごし、やがて水位が低くなったあと、ふたたび姿を現した陸地(アララト山)に方舟は漂着、そこでノアの血筋のものが栄え、のちの人類の祖となるものとして綴られている。

 だが本篇は、簡単にそこまで辿り着かない。興を削がないために詳述は避けるが、ここではいわゆる宗教的イベントとは性質の異なる、ごく人間的な確執、葛藤が起こり、ノアと家族を翻弄する。見ようによっては、洪水発生までで8割方完結してしまうドラマに更なる起伏を加えるための姑息な手口、と意地悪い評価をすることも出来ようが、しかし現代的な目線からすれば、ノアのああした葛藤は納得がいくはずである。彼に与えられた使命からすれば、こういう事態に直面した場合、あり得る言動なのである。そして、ノアのそうした反応を引き起こす“事件”にしても、決して突飛なものではなく、それまでの物語の推移からすれば自然なものだ。

 物語の決着部分については、我々が聞き馴染んでいるものと大差はない。だが、そこに到達するまでの紆余曲折を、聖書の記述をベースに、決してその精神を損なわぬよう配慮したうえで膨らましているのは間違いないだろう。志があり、そのうえで娯楽映画としても充分なクオリティを備えているのだから、高く評価されていいように思う。

 とはいえ、それでも本篇の扱いは難しい。観る側の、宗教に対する立ち位置が大きく関わってくるし、当人はフラットなつもりでも、観ているうちに自覚していなかった価値観の根底を抉られ、激しい抵抗を感じる可能性はある。だから、もし鑑賞するつもりになったとしても、そういう揺さぶりをかけられることぐらいは覚悟して臨むべきかも知れない――翻って、ほんとーにそうした宗教的・思想的な拘りがないひとには、何ら響かない代物である可能性もなきにしもあらず、だが。最近のダーレン・アロノフスキー監督作品よりも遥かにCGを多用、ファンタジー世界に近い空間を構築し、『ツリー・オブ・ライフ』に近い主題と精神性を持ちながらもあちらより気軽に接することが出来るので、とりあえず固く考えずに観るのが正解かも知れない。

関連作品:

ファウンテン 永遠につづく愛』/『レクイエム・フォー・ドリーム』/『レスラー』/『ブラック・スワン

マン・オブ・スティール』/『レ・ミゼラブル』/『地球が静止する日』/『スノーホワイト』/『ウォールフラワー』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船』/『リアル・スティール』/『リンカーン/秘密の書』/『PARKER/パーカー

ベン・ハー』/『薔薇の名前』/『2012』/『ツリー・オブ・ライフ』/『クラウド アトラス』/『ザ・マスター

コメント

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  2. […] 関連作品: 『マン・オン・ワイヤー』 『キングスマン』/『フィルス』/『カルテット!人生のオペラハウス』/『カサノバ』/『ネバーランド』/ […]

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