『殺人狂時代(1967)』

『殺人狂時代(1967)』本篇映像より引用。
『殺人狂時代(1967)』本篇映像より引用。

原作:都筑道夫『飢えた遺産』(『なめくじに聞いてみろ』) / 監督:岡本喜八 / 脚本:小川英、山崎忠昭、岡本喜八 / 製作:田中友幸、角田健一郎 / 撮影:西垣六郎 / 照明:西川鶴三 / 美術:阿久根巌 / 編集:黒岩義民 / 録音:渡会伸 / 整音:下永尚 / 音楽:佐藤勝 / 監督助手:渡辺邦彦 / 擬斗:久世竜 / 出演:仲代達矢、団令子、砂塚秀夫、天本英世、滝恵一、冨永美沙子、久野征四郎、小川安三、沢村いき雄、江原達治、川口敦子、大前亘、伊吹新、長谷川弘、二瓶正也、大木正司、樋浦勉、草川直也、南弘子、深井聡子、丘照美、森今日子、中山豊、土屋詩朗、浦山珠実、出雲八恵子、宇野晃司、西条康彦、阿知波信介、木村豊幸、関田裕、権藤幸彦、水沢有美、清水良二、緒方燐作、ブルーノ・ルスケ / 初公開時配給&映像ソフト発売元:東宝
1967年日本作品 / 上映時間:1時間39分
1967年2月4日日本公開
2014年11月19日映像ソフト最新盤発売 [DVD VideoAmazon Prime Video]
Amazon Prime Videoにて初見(2021/4/29)


[粗筋]
 溝呂木省吾(天本英世)が経営する精神病院には秘密があった。素質のある者を鍛え、社会にとって役に立たない人間たちを始末し日本の人口を管理する、という思想のもと殺害していく《大日本人口調節審議会》なる組織を結成していたのだ。
 その溝呂木のもとを、かつてナチスの一員であった名優ブルッケンマイヤー(ブルーノ・ルスケ)が訪ねてきた。溝呂木の組織の存在を嗅ぎつけていたブルッケンマイヤーは、現在自身が所属する組織の重大な任務を溝呂木に依頼するつもりだが、ついてはその能力をテストしたい、という。
 狙われたのは、無作為に選ばれた3人。制限時間を大幅に残して、2人まであっさりと仕留めたあと、溝呂木の資格は3人目に接近する。
 犯罪心理学の講師として大学に勤める桔梗信治(仲代達矢)が帰宅すると、そこには間渕(小川安三)と名乗る男が潜入していた。間渕は《大日本人口調節審議会》の一員であると言い、桔梗を殺そうとするが、何の偶然か、転落してきた胸像が間渕の頭を割り、彼は絶命した。
 桔梗は馬鹿正直に、「人を殺してしまった」と交番に告げに行くが、部屋に戻ると、間渕の屍体は忽然と消え失せていた。警官は去ってしまったが、たまたま居合わせた週刊誌記者の鶴巻啓子(団令子)はこの怪しげな出来事に食いついた。ひょんなことから知り合った車泥棒の大友ビル(砂塚秀夫)も加わった3人は。桔梗を狙った組織の正体を探るべく動き始める。
 一方その頃、テストに失敗したにも拘わらず、敢えて猶予を与えようとするブルッケンマイヤーに溝呂木は疑問を抱いていた――


[感想]
 のっけから苦言になってしまうが、Amazon Prime Videoで配信されている本篇は、あまりいい状態ではないようだ。
 特にプロローグ部分、溝呂木とブルッケンマイヤーがドイツ語で会話するくだり、日本語の字幕が白い映像のせいでほとんど読み取れない。恐らくこの作品の字幕は映像に埋め込まれたものであるため、権利元である東宝が所有するオリジナルがこの観づらい状態である、と推測されるが、様々な環境で鑑賞されることを考慮して、調整を施して欲しかった。このひと幕を理解するために、余計な集中力を使わせるのは、作品にとってメリットとは言いがたい。
 他にも、映像の上下がカットされているのでは? と感じる不自然な構図も散見されるが、これについては、撮影当時のデータが解らないので、保留にしておく――しかし実際に、スタンダードサイズの上下をカットしてビスタサイズ、シネマスコープサイズに変更する例が他の作品でままあるため、ややモヤモヤした気分で鑑賞したことは触れておきたい。

 だが、内容そのものは面白い。非常に荒唐無稽だが、娯楽作としての割り切りっぷりが爽快なほどだ。
 精神病院における患者の描写、現代では放送禁止用語にあたる単語を連発し(そのため最近放送された際では無音処理が大量に施されていたらしい)、彼らのうち素質のあるものを暗殺者として教育し、社会にいる無用の人材を排除する――アブノーマルで、往年のヒーロー映画に登場する悪役そのものの思想は現実離れしているが、それゆえにフィクションならではの愉しさが横溢する。
 狙いが無作為の殺人なので、すぐさま立て続けに暗殺のシーンが描写される。最初の犠牲者ふたり、そのあと主人公・桔梗のもとに送られる刺客のユニークなキャラクターと殺害方法の数々が面白い。しかもそれを、常人とズレた感性を示す桔梗が、巧まずして返り討ちにする様が、スリリングでありながらいちいち笑える。
 そのうえ、本篇はそのドタバタで終わることなく、変化を重ねる。思わぬところから殺人者が現れ対決に陥るが、桔梗もぼんやりとした言動でただ待ってはいない。粋な装いに変えて刺客を欺き、しまいに自ら相手を誘い出しての対決を目論む。一貫して飄々としているのだが、気づけばどこから狙ってやっているのか解らなくなる。桔梗の掴み所のなさが、本篇を予測不能で見応えのあるものにしている。
 主人公である桔梗に扮するのは仲代達矢。序盤は冴えない言動で、いつ殺されてもおかしくない頼りなさに見えるのに、いつしかその凛々しさ、強かさが露わになっていく。本篇は、この振り幅の大きさに説得力を持たせてしまう仲代の巧さに終始翻弄されるのが何よりの楽しさと言っていい。殺人に狂った美学を掲げる天本英世の怪演ぶりも強烈だが、本篇が仲代達矢なくして成り立たなかったことは確かだろう。
 古い作品で、セットやカメラワークの制約が多かったのもあるのだろうが、特徴的な殺害方法の詳細がいまいち解りにくく、桔梗がどうやって切り抜けたのか、が少々ピンとこない表現になっているのは残念だ。特に地下鉄ホームに登場した刺客や、眼帯の女のギミックなど、あとで説明はされるが、出来ればヴィジュアル的に解りやすいものにして欲しかった。
 しかし、しまいにはそんな欠点など気にかけさせない牽引力が本篇にはある。どちらに転ぶか解らないスリル、大真面目な駆け引きがしばしば笑いに落ちていくスラップスティックな味わい。ロマンスの要素に大人の洒落っ気まで加えており、後年のリアリティや泥臭さを全面に押し出した作品には出せない“粋”を演出している。
 怪作、だがなかなかどうして侮りがたい快作でもある。公開後かなり経ってからカルト的人気を博したのも頷ける、不思議な魅力を備えている。


関連作品:
日本のいちばん長い日<4Kデジタルリマスター版>(1967)』/『大誘拐 RAINBOW KIDS』/『助太刀屋助六
天国と地獄』/『赤ひげ』/『用心棒』/『八甲田山<4Kデジタルリマスター版>
散歩する霊柩車』/『陸軍中野学校』/『スナッチ(2000)』/『コラテラル』/『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい

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