『機動警察パトレイバー the Movie 4DX2D』

ユナイテッド・シネマ豊洲のロビーに展示された『機動警察パトレイバー 4DX2D』のポスターと大型ポップ。
ユナイテッド・シネマ豊洲のロビーに展示された『機動警察パトレイバー 4DX2D』のポスターと大型ポップ。

英題:“Mobile Police Patrabor the Movie” / 企画&原作:ヘッドギア / 監督:押井守 / 脚本:伊藤和典 / 原案:ゆうきまさみ / キャラクターデザイン:高田明美 / メカニックデザイン:出渕裕 / 作画監督:黄瀬和哉 / 撮影:吉田光伸 / 美術監督:小倉宏昌 / 特殊効果:村上正博、村上寿美江 / 編集:森田清次 / コンピューターグラフィックス:IKIF / 音響演出:斯波重治 / 音楽:川井憲次 / 声の出演:古川登志夫、冨永みーな、大林隆介、榊原良子、井上瑤、池水通洋、二又一成、郷里大輔、千葉繁、阪脩、辻村真人、西村知道、小島敏彦、小川真司、辻谷耕史、林原めぐみ、子安武人、立木文彦、高乃麗 / 制作:スタジオディーン / 初公開時配給:松竹 / 4DX2D版配給:ユナイテッド・シネマ
1989年日本作品 / 上映時間:1時間40分
1989年7月15日オリジナル版日本公開
2020年7月19日4DX2D版日本公開
2009年10月27日オリジナル版映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
『機動警察パトレイバー』シリーズ公式サイト : https://patlabor.tokyo/
Twitter公式アカウント : https://twitter.com/patlabor0810
オリジナル版初見時期不明(たぶん地上波放映時)
ユナイテッド・シネマ豊洲にてADX2D版初見(2020/08/04)


[粗筋]
 1999年夏。東京湾岸地区の開発を軸とするバビロン・プロジェクトは、数年前に始まった作業用ロボット“レイバー”の導入と、春先にリリースされた、篠原重工による最先端オペレーション・システム“HOS”の採用によって作業効率が向上、当初の計画よりも順調に進みつつあった。
 その一方で、レイバーを利用した犯罪に対応する警視庁特車二課の出動回数も増加傾向にあった。しかもこの1ヶ月、レイバーが勝手に暴走した、と証言する者が多いことに、特車二課第二小隊所属の篠原遊馬(古川登志夫)は不審を抱いていた。
 独自に最近の暴走事件の共通項を調査した遊馬は、暴走を起こしたレイバーがすべて“HOS”を搭載していたことに着目する。作業が劇的に効率化する、と言われる“HOS”は政府でも推進、既に7割を超えるレイバーが導入しているとは言え、すべて、というのは無視できなかった。
 遊馬は直属の上司・後藤喜一隊長(大林隆介)を介し、“HOS”に重大なバグがある可能性を進言するが、既にその高性能ぶりと安全性を公に保障してしまったいま、具体的な証拠なしにオペレーション・システムの上書きを指示することは難しい。海法部長(小島敏彦)は提言のみに留めるよう諭すが、しかし実のところ、後藤隊長もまた“HOS”に裏がある可能性を考え、旧知の松井刑事(西村知道)に“HOS”についての調査を託していた。
“HOS”は帆場映一という天才エンジニアが、実質ただひとりで開発したという。アメリカの大学を卒業した直後に篠原重工に就職、その頭脳によって“HOS”の開発を主導したが、つい先日、東京湾に設けられた篠原重工の開発拠点、通称“方舟”から海に身を投げてしまった。篠原重工内のデータベースを筆頭に、帆場についての個人情報は不正アクセスによって抹消された痕跡があり、松井刑事は唯一残された、転居の履歴を辿っていく。
 一方、遊馬は特車二課整備班の榊清太郎(阪脩)とともに篠原重工のラボへと赴いた。榊が旧知の現場主任に内実を探るあいだに、遊馬は篠原重工のデータベースを調べる。そこで遊馬は“HOS”のマザーデータを発見、素性を探るために、パスワードで保護された領域を調べようとするが、途端にラボ内部のコンピューターが一斉に異常を来した。
 間違いなく、“HOS”には何かが隠されている。だが、いったい何が起きようとしているのか? 遊馬たちが奔走するあいだにも、事態は着々と、最悪の事態へ向けて進行していた――


[感想]
『機動警察パトレイバー』は1988年の当時としては珍しい、複数メディアの同時進行で制作されたシリーズである。媒体の都合により、ゆうきまさみによる漫画版の連載が最初となったが、キャラクターや大元の世界観は同じくしつつもオスーリーの大枠や人物のディテールが異なるOVA版が漫画と同時に制作された。このOVA版の好評を受けて、のちに劇場版、そしてTVシリーズへと繋がっていくのだが、本篇はその劇場版最初の作品に4DXの効果を加えたものである。OVA自体は、当時の私には(比較的かなり安価に設定されていたとは言い条)高価だったため接する機会が得られなかったものの、漫画版の読者だったことから、恐らく地上波で放送されたときに本篇をいちど鑑賞している。
 1980年代後半といえばそろそろ様々な形でコンピューターの導入が各所で進み始めた時代だが、それでもフィクション、しかもアニメーションという表現媒体で扱ったのはかなり画期的だったはずだ。実際、初めて観た当時の私は、“サイバーテロ”という概念を充分に理解できず、それを仕掛けた犯人像の薄気味悪さがやたらと強く印象に残っている。
 ただ先進的なだけなら、“サイバーテロ”という表現がニュースでも普通に聞かれるようになったいま鑑賞すると陳腐に感じられる可能性もあったが、本篇はいま観てもリアル、というより、コンピューター技術についての知見が一般に膾炙していったいまだからこそ余計に説得力を帯びている。大規模な土木作業に用いられるレイバーが搭乗者の意志とは関わりなく、しかも一斉に暴走したら――という恐怖は、現代に観るとよりリアルだ。
 他方で印象深いのは、帆場映一という、劇中ではほぼ姿を見せることのない犯人像のインパクトだ。プロローグで海に身を投げると、そのあとは画面には現れず、僅かな痕跡だけで政治経済、そして捜査関係者をも翻弄する。データベースから自身の個人情報を抹消する一方で、敢えて転居の履歴や、“HOS”へのアクセスで痕跡を残し、真実を探ろうとする者を意識的に何かへ導こうとしているのが謎めいていて、観客の関心を惹きつけずにおかない。
 しかし、その帆場に振り回される側、或いは彼の真意を探ろうとする側の反応や動きが極めて重層的であることも、本篇の面白さに繋がっている。本篇でいちばん観客に近い立場で謎を追うのは遊馬だが、上司の後藤も手をこまねいているわけではない。明らかに遊馬より先んじて思考し、遊馬を巧みに動かす一方で、別ルートから帆場という男の背景を探ろうとする。また、結果的には帆場に踊らされる、本篇には姿を見せない政治家や実業家達も、忖度や駆け引きを窺わせながらも、事態の推移に伴い対応を目まぐるしく切り替えていく。この辺り、思考実験にも似た趣があり、知的興奮が止まらない。
 現実でも似たようなケースを想起させる打算や配慮が随所で顔を覗かせるが、本篇の秀でたところは、そうして社会的な制約で雁字搦めになりながらも、自分たちの立場だからこそ出来る“正義”を貫こうとするひとびとの冒険を描いていることだ。
 どれほど真相に迫ろうとも遊馬たちは公務員に過ぎず、“お上”の意向に刃向かえる立場ではない。大衆の税金で働いている身なので、構造物にせよ有機物にせよ、損害をもたらせば大いに批判されるリスクもあるため、作戦行動には慎重を求められる。しかし、そうした制約を織りこんだうえで、落とし所を見つけて活路へと繋げていくあたりは、ユーモラスでありながら爽快ですらある。特に本篇の場合、クライマックスは現実の警察なら完全にやっちゃいけないことなのだが、混乱に乗じつつ、覚悟を持って行動に及ぶくだりは、感動すらもたらす。最終的に、中心となる特車二課第二小隊の面々それぞれの性格や信念がドラマとなり結実していくクライマックスは、相変わらず明確なボスが存在しない、アニメでは型破りな趣向にも拘わらず見事な見せ場になっている。
 全体に、一風変わった警察ドラマの趣のある本篇は、率直に言えば途中まで、あまり4DXの効果は楽しめない。風が吹く場面、遊馬とパトレイバーの操縦者である泉野明(冨永みーな)がバイクに2人乗りするシーン、また帆場の意図を探るくだりで大きく視線を巡らせるところで座席を大きく傾けるなど、心理描写でも活かしていたりするが、それほど意味があるとは感じない。
 しかし、ことクライマックスだけは、4DXで観る価値があるのは確かだ。操縦者の感覚を疑似体験させる振動もさることながら、なにせこの見せ場は全篇台風到来のなかで展開する。強い風が吹き、雨粒が肌を打つなかで暴走するレイバーと死闘を繰り広げる第二小隊に混ぜられたかのような特殊効果の演出は、まさにアトラクションさながらだ。4DXやMX4Dは、鑑賞時に体調が悪いひとは遠慮するよう注意喚起しているが、本篇のクライマックスなど、そもそも乗物に弱いひとなら酔ってしまいかねない。
 決着が少々あっさりしている感があるが、変にエピローグを添え、後始末や尾を引く影響を語ることなく、任務の完遂をもって決着としているので、本質的に重量のあるテーマにも拘わらず余韻は爽やかだ。台風一過の青空が、実によく嵌まっている。
 レイバーという要素を抜きにすれば、実写でもいけそうなくらいに重厚でリアルなドラマを構築しながら、アニメーションだからこそ出来る“レイバー”というモチーフの魅力も存分に引き出している。企画の発表が始まって30年以上経ったいまもファンの多いシリーズだが、この劇場版は100分という手頃な尺で、その本領を見事に発揮することに成功した、シリーズを代表する傑作と言えよう。


関連作品:
イノセンス
劇場版ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』/『風の谷のナウシカ』/『AKIRA アキラ(1988)』/『ピューと吹く!ジャガー~いま、吹きにゆきます~』/『パシフィック・リム』/『WALL・E/ウォーリー』/『パプリカ』/『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝-永遠と自動手記人形-
マトリックス』/『ダイ・ハード4.0』/『トロイ
PERFECT BLUE

コメント

タイトルとURLをコピーしました