『マークスマン(2021)』

TOHOシネマズ西新井、スクリーン4入口前に掲示された『マークスマン』チラシ。
TOHOシネマズ西新井、スクリーン4入口前に掲示された『マークスマン』チラシ。

原題:“The Marksman” / 監督:ロバート・ロレンツ / 脚本:クリス・チャールズ、ダニー・クラヴィッツ、ロバート・ロレンツ / 製作:タイ・ダンカン、エリック・ゴールド、ウォーレン・ゴス、ロバート・ロレンツ、マーク・ウィリアムズ / 製作総指揮:ニコラ・シャルティエ、ジョナサン・デクター、マーク・D・カッチャー、ジェームズ・マシェッロトム・オルテンバーグ、マシュー・シダリ、マイケル・ウェクスラー / 撮影監督:マーク・パッテン / プロダクション・デザイナー:シャリーズ・カーデナス / 編集:ルイス・カルバリャール / 衣装:ペギー・スタンパー / キャスティング:チェルシー・エリス・ブロック、リリアン・パイルス、マリソル・ロンコール / 音楽:ショーン・キャラリー / 出演:リーアム・ニーソン、キャサリン・ウィニック、フアン・パブロ・ラバ、テレサ・ルイス、ジェイコブ・ペレス / 配給:kino films
2021年アメリカ作品 / 上映時間:1時間48分 / 日本語字幕:高山舞子
2022年1月7日日本公開
公式サイト : https://marksman-movie.jp/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2022/1/13)


[粗筋]
 アリゾナ州、メキシコとの国境近くで牧場を営むジム・ハリソン(リーアム・ニーソン)は、しかし牧場を手放す瀬戸際に追い込まれていた。1年前に亡くなった妻の治療で重ねた借金の返済が滞り、3ヶ月以内に支払が出来ないと牧場が競売にかけられてしまう。慌てて金策に走るが、どこも景気は悪く、もはや打つ手はなかった。
 そんな矢先、ジムは国境付近で、メキシコから密入国した親子を見つける。母親のローサ(テレサ・ルイス)は、自分たちが麻薬カルテルに追われており、強制送還されれば自分も息子のミゲル(ジェイコブ・ペレス)も命がない、と訴える。それでも道義から国境警備隊に無線で連絡を取るが、そこへメキシコ側から、マウリシオ(フアン・パブロ・ラバ)ら麻薬カルテルの追っ手が現れた。にわかに銃撃戦に発展し、ジムは応戦しながらも、辛うじてローサとミゲルをトラックに乗せてその場を脱した。
 しかし、銃撃戦のなかで被弾していたローサは絶命してしまう。今際のきわにローサはジムに住所の書かれたメモを渡すと、ミゲルを送り届けて欲しい、と懇願する。その代わりに、自分が持ち込んだものをすべて譲る、とローサは言った。
 それでもいちどは国境警備隊にミゲルを預けたジムだったが、国境のゲートをくぐってきた乗用車のなかにマウリシオがいたのを目撃すると、国境警備隊の事務所へと戻り、ミゲルを連れ出す。ジムのトラックには、ローサが持ち込んだ大金を納めた鞄が残されていた。それさえあれば、牧場を守ることが出来る――だからこそ、ジムはミゲルを見捨てることが出来なかった。
 ローサから託されたメモに記された目的地はイリノイ州シカゴ。1400マイルの危険な逃避行が始まった――


[感想]
 監督のロバート・ロレンツは数年間、クリント・イーストウッド監督の作品に製作や演出助手というかたちで関わってきた人物で、初めての監督作もクリント・イーストウッドを主演にした作品だった。監督デビュー作『人生の特等席』を最後に、イーストウッド作品ではクレジットされなくなっていたあたり、恐らくその頃に自らのプロジェクトに力を傾けるようになっていった、と推察される。そういう見方からすれば、本篇はいわば、師匠のもとを離れた弟子の独立第1作、と言える。
 しかし、仮に予備知識なく本篇を鑑賞したとしても、イーストウッド関連作品を観ているひとならピンと来るのではなかろうか。それほどに本篇にはイーストウッド作品の影響が色濃い。
 まずリーアム・ニーソンの演じる主人公ジム・ハリソンにイーストウッドの匂いがある。老境に至って孤独に暮らす男。生活に困っているが、自らの苦境にあっても漢気は残っている。密入国を試みながらも死んだ母親からの懇願を無視することが出来ず、わざわざ国境警察に舞い戻って息子を連れだし、親族の元への旅を手助けする。その動機には、母親が遺した金があれば、牧場を守ることが出来る、という打算も含まれているが、主人公ジムの挙措に滲むプロフェッショナルとしての冷静さと、静かに感情を揺さぶられミゲルへの態度を変えていくさまの人間味が、イーストウッド映画、それも1980年代くらいまでに多かった趣を感じる。
 情緒を丹念に描く一方、物語の骨格そのものはシンプルなのも、一時期のイーストウッド作品めいている。ミゲルと共に一路シカゴを目指すジムと、彼らを追うマウリシオたち。率直に言えば、せっかくの逃走劇なのだから、追う側との駆け引きによるサスペンスや、ニアミスした際の緊張感が欲しかったようにも思う。こと主演のリーアム・ニーソンは50代に入ってからアクションに積極的に挑むようになり、2022年時点にも新作公開の予定がある――生憎、評判はいまいちのようだが。そんな渋みの肉体派を起用しているわりに、アクション面でも物足りなさは禁じ得ない。宣伝では狙撃手としての腕前を大きく採り上げていて、事実、その的確な射撃ぶりは確かに名手の域なのだが、劇中であまり際立たせていないのも物足りなさの一因だろう。
 ただ、現代を舞台にした西部劇、という捉え方をすると、興味深い作りになっている。車を入れ換えながら逃亡を続け、牧場での対決から結末に至る流れは、まさに西部劇なのだ。具体的に名前を出すことは伏せるが、終盤の成り行きはどこか、あの西部劇の名作を彷彿とさせる趣向でもある。
 そういう構想に、アクション俳優としても年輪を重ねたリーアム・ニーソンが説得力をもたらしているのも確かだ。雰囲気の出せる俳優はたくさんいるかも知れないが、役者としてのキャリア込みで、主人公のキャラクターに深みを与えている。自身は演出に携わることのないリーアム・ニーソンだが、俳優としてのスタンスはまさしく1980年代のイーストウッドに近しい印象があり、それもあっての起用だったのか、或いは作品そのものをそんなリーアム・ニーソンの雰囲気に合わせていったのかも知れない。
 いずれにせよ、弟子らしさは強く感じるので、クリント・イーストウッド監督作品を多数鑑賞し親しんでいるひとには快い仕上がりである一方、アクション俳優リーアム・ニーソンが好き、という目線で眺めるとだいぶ物足りない。西部劇的なテイストで綴られた、シンプルだが滋味のある作品、と言う認識であれば、充分に堪能出来るはずである。


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