『センチメンタル・アドベンチャー』

センチメンタル・アドベンチャー [DVD]

原題:“Honkytonk Man” / 原作&脚本:クランシー・カーライル / 監督&製作:クリント・イーストウッド / 製作総指揮:フリッツ・メインズ / 撮影監督:ブルース・サーティース / プロダクション・デザイナー:エドワード・カーファグノ / 編集:フェリス・ウェブスター、マイケル・ケリージョエル・コックス / 音楽:スティーヴ・ドーフ、スナッフ・ギャレット / 出演:クリント・イーストウッドカイル・イーストウッドジョン・マッキンタイア、アレクサ・ケニン、ヴァーナ・ブルーム、マット・クラーク、バリー・コービン、ジェリー・ハーディン、ティム・トマソン、メイコン・マッカルマン、ジョー・リーガルバトー / マルパソ・カンパニー製作 / 配給:Warner Bros.

1982年アメリカ作品 / 上映時間:2時間3分 / 日本語字幕:岡枝慎二

1983年4月26日日本公開

2009年11月18日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2012/02/28)



[粗筋]

 ホイット(カイル・イーストウッド)たちストーヴァル家の人々が綿栽培の準備を整えていた最中に、砂嵐が訪れた。畑は吹き飛ばされ、一家は今年の収入の道を失ってしまう。

 砂嵐と時を同じくして、ふらりと舞い戻ってきたホイットの叔父レッド(クリント・イーストウッド)は、自分が行くべきところに行けば金は用意できる、と豪語し、代わりに彼がオーブリーで行われるフェスティヴァルのオーディションに向かうための旅費を貸して欲しい、と申し出た。家族たちは半信半疑だったが、他に手立てもなく、一家の祖父(ジョン・マッキンタイア)がこれを機にカンザスへ帰りたがっていることもあって、けっきょくレッドを送り出すことにした。すっかり酒に溺れているうえ、肺を病んでいる彼のお目付役として、ホイットも同道する。

 途中の酒場で演奏したりしながら、まずレッドは、ある人物のところへ向かった。かつて貸しを作った人物から、旅費を工面するためである。その過程で、ずっと家業の手伝いをして育ってきたホイットは、様々な人生経験をするのであった……

[感想]

ダーティファイター』『ダーティファイター/燃えよ鉄拳』『ブロンコ・ビリー』に列する、1980年代前後のイーストウッドが連続して製作していた人情路線の、とりあえずは締め括りとなる作品である。

 だが本篇は、前述した3作にあったようなコメディ要素はほとんどなく、労働者や日の目を見ないシンガーの悲哀に焦点を絞った内容となっており、既に哀感を帯びつつあった『ブロンコ・ビリー』よりも更に渋い。しかも、ご覧になれば解るが、結末はこれまでのイーストウッド作品からするとかなり意外なものだ。『ダーティファイター』2作品では意図的なマンネリ路線に進むかと思われたが、こうしてみると彼なりに人情もののパターンを自分なりに再検証してみたかったのかも知れない。

 流しのカントリー歌手に、農家で育った少年、酒場に娼館、賭場といった裏街道を巡り、病身のまま夢を目指して街へ……という、確かに要素を抽出すると非常に感傷的な手触りのあるストーリーだが、惜しむらくはムードが先行しすぎて、伏線の妙といった構成美も、掘り下げた描写が齎す深みにも乏しい。この要素からすればごくごく自然な成り行きと言える結末も、あまり強い印象を残さない。全体にサラッとした仕上がりで、率直に言えば物足りない。

 ただ、掘り下げが浅いとはいえ、すっかり貫禄を備えた演出が生み出す味わいそのものは深い。かつての“名無し”のイメージを敷衍した孤独な無頼漢像を突き詰めたレッドの一挙手一投足が独特の華を感じさせるし、その彼を見つめる甥・ホイットの佇まいも絶妙だ――この甥っ子を演じているのがイーストウッドの実子であり、のちに俳優ではなくジャズ・ベーシストの道に進み父の仕事を手伝うようになった、ということを知っているとまた別種の趣があるのだが、それはさすがに少々穿ちすぎた楽しみ方だろう。

 何より、これまではさらっとちらつかせるだけだった、クリント・イーストウッドのミュージシャンとしての才能が最も如実に発揮されている、という点こそ、本篇の最も注目すべき点かも知れない。キャリアのかなり早い時期にレコードを作っており、のち自らの監督作で頻繁に音楽も担当するようになるイーストウッドだが、実は映画のなかで自らマイクに向かうことはさほど多くない。『グラン・トリノ』ではすっかり嗄れた声でメイン・テーマを歌っていたが、本篇は全篇に亘って、まだまだ艶のある美しい歌声を聴かせている。役柄を思うと、ここまで聴かせるのはちょっとおかしくないか、という気もするのだが、さすがにそういう見方は野暮というものだ。

 イーストウッドのキャリア全体を眺めると、決して上出来とは言い難い部類に属するが、それでも味わいはあり、監督として腰が据わってきたことを感じさせる1本である。……でも邦題はもうちょっと考えて欲しかった気がする。こんなタイトルにするなら、まだ原題をそのままカタカナにしたほうが、実態に添っていたように思うのだけど。

関連作品:

荒野のストレンジャー

白い肌の異常な夜

グラン・トリノ

ダーティファイター

ダーティファイター/燃えよ鉄拳

ブロンコ・ビリー

インビクタス/負けざる者たち

J・エドガー

クレイジー・ハート

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