『フラグタイム』

ユナイテッド・シネマ豊洲のロビーに展示された、出演者サイン入りポスター。

原作:さと(秋田書店・刊) / 監督&脚本:佐藤卓哉 / キャラクターデザイン:須藤智子 / プロップデザイン:西本成司 / 色彩設計:岩井田洋 / 美術監督:本田敬 / 美術設定:本田敬、佐藤正浩きむらひでふみ / 撮影監督:口羽毅 / 編集:後藤正浩 / 音楽:rionos / 主題歌:森谷美鈴&村上遥『fragile』 / 声の出演:伊藤美来宮本侑芽安済知佳島袋美由利、拜師みほ、梅原裕一郎田所あずさ高橋未奈美佐倉綾音 / アニメーション制作:ティアスタジオ / 配給:Pony Canyon

2019年日本作品 / 上映時間:1時間

2019年11月8日日本公開

公式サイト : https://frag-time.com/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2019/12/10)



[粗筋]

 森谷美鈴(伊藤美来)には、3分間だけ時間を止める力がある。

 他人との交流が苦手な森谷は、困った場面になると時間を止めてその場を逃げ出してしまう。そのときも、最近妙に頻繁に話しかけてくる小林由香利(安済知佳)から逃げ出したい一心で、時間を止めたところだった。同級生の村上遥(宮本侑芽)が中庭のベンチで読書をしているのを見つけた森谷は、出来心で、村上のスカートをめくって覗こうとした。

 でも、村上は動くことが出来た。

 理由は解らない。ただ、不届きな行動を見咎められてしまった森谷は村上に逆らうことが出来なくなった。

 村上は森谷と異なり、社交性に富み誰からも慕われている。だが、停止した世界で見せる表情は、森谷の知っていたものとも違っていた――



[感想]

 生臭い話で申し訳ないが、私としては感想を書く上で触れないわけにはいかない。本篇を制作したティアスタジオの親会社は本篇の劇場公開が始まって間もなくアニメーターへの報酬不払いが発覚、私が鑑賞した当時は製作委員会がスタジオの責任者と連絡が取れない、という事態に陥っている。その後、製作委員会が独自に不払いへの対応を開始し表面的には収束したようだが、私が鑑賞した時点では“不払い”という事実が先に立っている状態だった。

 鑑賞時にはなるべく意識から締め出すつもりでいても、かけてしまった色眼鏡はなかなか外せるものではない。その先入観ゆえに、最初に受けた印象は、「確かに、予算が少ない」だった。

 素人眼にも解るほど、動画の数が絞られている。イメージカットを多用し、モノローグを主体として物語を進めていくことで、可能な限り作画の労力を省いていることが窺える。特殊効果を用いて彩りは添えているが、昨今の劇場作品には珍しく、人物の塗りにあまり陰影を付けていない点も、安っぽい印象を強めてしまっている。随所に安定しない絵が見られるのも気になった。

 ただ、綴られる物語は悪くない。3分間だけ時間を止めることが出来る少女・森谷が、その能力に束縛されない少女・村上と出会う。人付き合いが苦手だった森谷にとって逃避の世界であったはずの静止した時間が、それまで親しくなかった村上によって支配されていく。村上の提案や言動に振り回されながらも、こういう関係になるまでは知らなかった村上の素顔に触れることで、森谷はこの“ふたりだけの時間”を楽しみはじめると同時に、動いている世界との接し方も変わっていく。

 自分たち以外の時間を止められる、なんて能力を与えられたら、たぶん誰でも悪戯することを思い浮かべるし、うまく活用すれば犯罪行為にも応用出来る。だが森谷も村上も、そこまではしない。短い時間の自由に無邪気な悪戯をする程度に留め、その秘密の3分間を楽しんでいる。

 だが、ある意味で他の何ものよりも濃密な関係性は、動いている世界でのふたりの立ち位置や見えるものも少しずつ変えていく。“時間が止められる”という能力こそ特殊だが、森谷の悩み、次第に明らかになっていく村上の鬱屈はこの年代ならば経験しうる感覚に基づいたもので、それが不思議な力に影響されながら動揺し、変化していくさまは、正統派青春ドラマの趣きがある。

 彼女たちのしていることは本当に些細な、時間が動き出しても驚かれるくらいで問題にはならない程度の悪戯だが、そこには確実な“共犯意識”が生まれる。共有する秘密と微かな罪の意識、たぶん時間が止まっているあいだはお互いの気配しか感じられない濃密な静止時間が熟成していく関係は、次第に同性愛的な様相をも帯びていく。

 だが物語としての着地は決してシンプルに、女の子同士の恋愛として落ち着くわけではない――そんな風に理解することも可能だが、本篇の着地には余韻を持たせている。ふたりの少女たちだけが知る世界での経験が変えた、ふたりの新しい物語が続くことを予感させながら、ふたりの関係がそれまでとはまた違ったかたちで繋がっていることを仄めかしている。決して非現実的でない、しかし繊細な後味を残す締め括りが絶妙だ。

 上映開始時期に広まったネガティヴな話題を差し引いても、工夫としてあからさますぎるモノローグの多用や、見せ場でも充分なクオリティを担保できなかった絵の質など、どうやっても褒められない点はある。ただ、許された規模、尺の中で端整な物語を紡ぎあげようとした意欲は感じられるし、鑑賞したあとの余韻も清々しい。傑作とは呼びがたいにしても、好感の持てる佳作に仕上がっている。



関連作品:

フランケンウィニー』/『リズと青い鳥』/『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝-永遠と自動手記人形-』/『のんのんびより ばけーしょん

バースデー・ワンダーランド』/『天気の子』/『HELLO WORLD』/『空の青さを知る人よ

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