『ドラゴン危機一発』


原題:“唐山大兄” / 英題:“The Big Boss” / 監督&脚本:ロー・ウェイ / 製作:レイモンド・チョウ / 撮影監督:チャン・チンクイ / 美術:チェン・シン / 編集:ソン・メン / メイク:チュン・クォックホン / 武術指導:ハン・インチェ / 音楽:ワン・フーリン、ジョセフ・クー / 出演:ブルース・リー、マリア・イー、ジェームズ・ティエン、ノラ・ミャオ、リー・クワン、ハン・インチェ、トニー・リュウ、カム・サン、マラリン・ボナック、チャン・チュー、ラム・チェンイン、ドゥー・ジャージェン、チャン・ロン / ゴールデン・ハーヴェスト製作 / 初公開時配給:東和 / 映像ソフト発売元:TWIN
1971年香港作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:?
1974年4月13日日本公開
2016年8月30日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon|傑作カンフー映画 ブルーレイコレクション版:amazon]
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/title/70001133
傑作カンフー映画 ブルーレイコレクションにて初見(2016/10/18)


[粗筋]
 洪水の被害に遭い、作物を失った香港の青年チェン(ブルース・リー)は親戚を頼り、はるばるタイへと移る。
 チェンは従兄弟シュウ(ジェームズ・ティエン)の紹介で地元の製氷工場に仕事を得た。だがその直後、ふたりの従業員が忽然と行方をくらます。工場ではそれ以前にも、突然消息を断つ者がいた。労働者達のリーダー的存在であったシュウは、不審を感じはじめる。
 実は工場は裏で麻薬の取引に関わっていた。一部の労働者にも協力を呼びかけていたが、従わない者は、秘密を守るために始末されていたのである。
 繰り返す失踪事件に会社が絡んでいる、と悟ったシュウは仲間と共にマイ社長(ハン・インチェ)を問い詰めに赴く。しかし、逆に脅された挙句、友人ともども命を奪われてしまった。
 リーダーまでも失った労働者達は不満を爆発させるが、工場側の男たちの反撃に消耗していく。もともと無鉄砲で喧嘩っ早かったチェンは、香港を発つ前に母から喧嘩をしないよう強く戒められていたが、その誓いの印であるペンダントを壊され激昂、遂に手を出してしまう。
 チェンの強さと労働者達からの信頼を目の当たりにした工場長(チャン・チュー)はチェンを現場監督に登用して籠絡を試みた。歓待を受けたチェンは有頂天になるが、そのせいで親族や労働者仲間からの信頼を損ねてしまう。
 会社と労働者たちとの板挟みになって悩むチェンだったが、会社が麻薬取引に関わっていることを知ってしまう。やがて襲いかかる刺客に対し、チェンの鉄拳が唸る――


『ドラゴン危機一発』本篇映像より引用。
『ドラゴン危機一発』本篇映像より引用。


[感想]
 アメリカでドラマ版の『グリーン・ホーネット』にアジア人の武術家カトーの役で出演、一気にその名を知らしめたブルース・リーは香港に凱旋、そうして初めて得た主演映画が本篇だった。
 とはいえ、情報を参照する限り、製作環境は理想から程遠かったらしい。監督はのちに『ドラゴン 怒りの鉄拳』でも組むロー・ウェイだが、先行作の完成が遅れ、クランクインまで撮影が行われているタイに入れなかった。そのため製作総指揮のレナード・ホーが代理を務め、その後も現場のスタッフで代わる代わる仕切っており、スタッフ同士の充分な意思疎通が出来なかったらしい。
 もともと香港映画は内容を剽窃されることを怖れ脚本がない状態で撮影することも多かったというが、こうした現場の混乱もあってなのだろう、話の組み立てがあまりにも緩い。
 こう言っては何だが、悪事をもくろむ側も、それに対抗せねばならない主人公も度が過ぎるほど愚かなのだ。
 氷の中に麻薬を隠して密輸する、という手段はいいとしても、それをすべての氷に詰めるのはあまりに発覚の危険が高い。しかも、その事業を拡大したいから、と言って闇雲に新しい部下を募ろうとして、従わなければ容赦なく命を奪う、というのもあまりにリスクを冒しすぎている。警察と通じていて隠蔽が可能、とはいえ、労働者を闇雲に始末していけば人員を失い統率だって乱れる。やり口があまりに無神経だ。
 対する労働者も、工場側の悪事に対抗するのにろくすっぽ策を用意せず、無計画に臨んでいるから、観ていて苛立ちが募る。仲間の突然の失踪で工場側に不信を抱いているなら、安易にトップに訴えるのではなくもっと慎重に計画を練るべきだろう。またそういう愚かさを許容するにしても、ここのやり方の違いでの軋轢や衝突はあって然るべきなのに、そのあたりの試行錯誤がないので、観ていて“騙されても仕方がない”という結論になってしまう。
 ヒーローであるブルース・リー演じるチェンにしても同様で、仲間たちの失踪が相次いでいることに警戒するどころか何らかの施策を巡らせる様子もない。まして、工場側が従業員の失踪について不審な行動をし、追求する彼らを暴力でねじ伏せようとしたのに、チェンがそれを鮮やかに一蹴すると途端に懐柔しようとする不自然さを一向に気にかけないのもあまりに間が抜けている。そういう軽率な人物像が最初から明示されていればいいのだが、劇中でチェンについてはっきりと描かれているのは、香港時代は乱暴者でしばしば問題を起こしており、それを母にたしなめられ喧嘩をしない誓いを立てた、というぐらいで、人柄や気性についての描写は薄い。そういう、展開に説得力をもたらすための工夫がないことが、作品の“緩さ”に繋がっている。
 だから本篇の価値はほぼほぼ、ブルース・リーのリアル志向のアクションを映画界にはじめて示した、というその一点に尽きる、と言っていいと思う。
 当人には申し訳ないが、序盤ではブルースよりも立ち回りの多いジェームズ・ティエンのアクションと比較すると極めて明瞭だ。ダメとは言わないが、ティエンのアクションにはまだ“振付”の印象が強い。こう動いたら次はこう、という段取りが透き見えてしまう。
 それに対し、ブルース・リーの格闘には真実味がある。撮影なので本当に打ち抜きはしていないだろうし、彼らにも段取りや振付はもちろんあったはずだが、それを感じさせない。細かな所作に意味が感じられ、アクションそのものに充分な見応えがある。のちにブルース・リーの代名詞となる“怪鳥音”は本篇ではまだ使われていないが、そのアクションの理念、基本形は初主演作である本篇で既に確立していることが窺える。
 1対多数でその圧倒的な力を見せつける工場での戦いも見所だが、やはりクライマックスが特に出色だ。この状況でスナック菓子をつまみながら三下を軽々とあしらうと、最強の敵である社長と長尺の戦いを繰り広げる。ドラマの構成としては、そもそもの社長の強さが充分に描かれていないので、強敵として立ちはだかっていることに唐突の感があるのが難なのだが、もともとブルース・リーの戦いぶりで魅せるための作品なのだ、と割り切ってしまえば大した問題ではない。
 香港映画、そしてロー・ウェイ監督作品の欠点が如実に剥き出しになっている作品だが、それでもブルース・リーという不世出のアクション・スターの魅力を全面的に押しだした最初の作品として意義は大きい。本篇の第一歩がのちの『燃えよドラゴン』での国際的ブレイクの引き金となり、ブルース・リーと一線を画すことで唯一無二の存在になったジャッキー・チェンや香港の娯楽映画の可能性を拡張していったサモ・ハン・キンポーらの台頭を促していったことを思えば、映画としての稚拙さはもはや愛嬌と捉えるべきかも知れない。

 ……しかしこの作品、個人的にいちばん何が気になったかって、クライマックス手前の工場における立ち回りで、チェンの攻撃を受けた敵がその衝撃で壁に開けてしまった穴が、人間のかたちに刳り抜かれてたことだ。コメディ映画ならともかく、展開がシリアスな映画でこういうことをやっちゃダメだと思う。このあたりも当時の香港映画の緩さ、本篇の現場の混乱ぶりを象徴していそうだし、ある意味面白いところでもある。


関連作品:
ドラゴン 怒りの鉄拳』/『レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳』/『少林寺木人拳』/『ファイナル・ドラゴン』/『成龍拳』/『飛龍神拳』/『拳精』/『龍拳
燃えよドラゴン』/『ジャッキー・チェンの秘龍拳/少林門』/『ファースト・ミッション
マッハ!!!!!!!!』/『ドラゴン×マッハ!

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