『ドラゴン 怒りの鉄拳』

ドラゴン怒りの鉄拳 [Blu-ray]

原題:“精武門” / 英題:“Fist of Fury” / 監督、脚本&プロダクション・デザイナー:ロー・ウェイ / 製作:レイモンド・チョウ / 撮影監督:チェン・チン・チェー / 編集:チャン・ヤオチュン / 衣装:チュー・シェンシー / 音楽:ジョセフ・クー / 出演:ブルース・リー、ノラ・ミヤオ、ロバート・ベイカー、ジェームズ・ティエン、橋本力、ユン・ワー、ジャッキー・チェンコーリー・ユン / 配給:東和 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan

1971年香港作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:清水俊二

1974年7月20日日本公開

2011年4月8日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

地上波放送にて初見(2011/01/28)

Blu-ray Discにて再鑑賞(2011/05/07)



[粗筋]

 20世紀初頭、日本人が幅を利かせる中国・上海の租界に、幼馴染みの恋人イー・エー(ノラ・ミヤオ)と結婚するために戻ってきたチャン(ブルース・リー)は、訪れた道場・精武館で、師匠・霍元甲の死を知り、打ちのめされた。

 病死という診断だったが、チャンはどうしても納得できない。そして、弔いの場に踏み込んできた日本人柔道場の関係者たちの侮蔑的な態度にチャンは激昂、その場では師範たちの顔を立てて抑えたが、のちほど柔道場に踏み込んで、制裁を加えた。

 だが、そのことで精武館はいよいよ日本人柔道場から睨まれることとなる。日本人たちの襲撃を受けた精武館は、チャンに逃げるよう勧告し、チャンもやむなくそれを受け入れた。

 その晩、師匠の祭壇の前でひとり過ごしていたチャンは、物音に気づいて厨房のほうへと赴く。そこで彼は、衝撃的な事実を知った。チャンの師匠の死はやはり病死ではなく、潜入していた日本人のスパイが菓子に毒を持ったことが原因だったのだ。

 スパイと、橋渡しをしていた男とを殺害すると、チャンは精武館を飛び出す。今度こそ、復讐を果たすために――

[感想]

 上の作品情報にも記した通り、きちんと意識的に鑑賞したのは今年はじめ、地上波で深夜に放送されたときのことだが、最近になってイベントでジャッキー・チェンの初期出演作を鑑賞する機会が増え、関係作品として本篇の感想もきちんとまとめておいたほうがいいだろう、と感じ、ブルーレイ版を借りて再度きちんと鑑賞した次第である。

 地上波で観たあと、同じロー・ウェイ監督のもと、ジャッキー・チェンが主演したアクション映画を3本立て続けに鑑賞したが、率直に言ってこの監督の指導力はそれほど高くない、と感じた。文化の解釈が雑なのはまだ許せる方で、アクションやドラマのある一部分を見せたいあまり全体の整合性を軽視している傾向にあるため話は支離滅裂、『レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳』でジャッキー・チェンが垣間見せた彼の良さをまったく汲み取ろうとしていないあたりなど、時代の古さを考慮に容れても眉をひそめたくなる。

 だが、本篇に限って言えば、比較的違和感を抱くことなく鑑賞できる。但しそれは、前述した欠点が抑えられているのではなく、欠点を凌駕するほどにブルース・リーの存在感が圧倒的であり、本篇のシナリオが彼の良さを引き出すことに成功しているからである。

 決して多彩な表情を見せるわけではないが、本篇の主人公チャンが示す怒りや憎悪の感情を、ブルース・リーは迫力充分に演じている。彼の鍛え上げ磨き上げられた肉体もまた、その憤りの凄まじさを反映しているかのようだ。

 何よりも、アクションの切れ味、インパクトは出色だ。序盤、日本人の道場へ殴り込みに赴いた際の立ち回りではまだ相手を殺す意志を示していないが、事態が切迫してくると狂暴さを増し、容赦がなくなってくる。刀を持ちだしてきた相手に繰り出すヌンチャク捌きは荒々しくも美しく、クライマックスの戦いなど、本当に死者が出ているのでは、と訝りたくなるほどだ。戦闘場面でたびたび響かせる、いわゆる怪鳥音とも相俟って、アクション・シーンはいずれも忘れがたい印象を残す。

 一方で、彼としては珍しいノラ・ミヤオとのラヴ・シーンや、あちこちのドラマ部分で繊細な表情を覗かせるのも、乱暴な内容を強く意識させないことに役立っている。それが引いては、衝撃的なラストシーンを裏打ちし、細部の粗雑さや他文化のいい加減な認識以上に、ブルース・リー演じるチャンの激しい感情とその矜持とを強烈に印象づけているのだ。

 純粋に映画として、物語として眺めるとあまりに傷だらけだが、僅かな作品を遺して夭逝してしまったブルース・リーという不世出のスターの魅力を最大限引き出した作品のひとつとして、今後も記憶されることは間違いないだろう――それ故に、後継者となることを強いられたジャッキー・チェンや、二番煎じ作品に引っ張り出された多くの俳優たちに不幸をもたらした原因とも考えられるのだが、さすがにそこまで責めるのは酷か。

関連作品:

レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳

少林寺木人拳

燃えよドラゴン

コメント

  1. […]  ところでこの映画にヒロイン格で出演しているノラ・ミャオ、彼女は『ドラゴン 怒りの鉄拳』や […]

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