『ジャッキー・チェンの秘龍拳/少林門』

ジャッキー・チェンの秘龍拳/少林門 デジタル・リマスター版 [DVD]

原題:“少林門” / 英題:“The Hand of Death” / 監督&脚本:ジョン・ウー / 製作:レイモンド・チョウ / 撮影監督:リャン・ユンチー / 照明:プー・チャンハオ / 編集:チャン・ヤオチュン、ユアン・タンチュン / 音楽:ジョセフ・クー / 武術指導:サモ・ハン・キンポー / 出演:レオン・タン、ジェームズ・ティエン、ジャッキー・チェン、チュー・チン、ユン・ピョウ、サモ・ハン・キンポージョン・ウー / 映像ソフト発売元:TWIN

1975年香港作品 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:?

日本劇場未公開

2010年12月17日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

DVD Videoにて初見(2012/01/26)



[粗筋]

 中国に武術の発展をもたらした少林寺。だが、清朝満州族のみの栄華を望み、武林の掃討を目論む。結果、若い弟子たちのなかに裏切り者が現れ寺は荒廃、少林寺の僧は各地に散って生き残りを図るが、その後も悪徳は蔓延り、とりわけシー・シャオフェン(ジェームズ・ティエン)はトウ・チン(サモ・ハン・キンポー)や八虎将と呼ばれる凄腕の側近を率いて多くの少林門下を討伐、少林寺は壊滅的な痛手を負う。

 散り散りになって捲土重来の機を窺っていた少林寺は、遂に最強の遣い手ユン・フェイ(レオン・タン)を育て上げ、シー打倒の刺客として送りこむことを決めた。清朝打倒のために密かに活動するチャン・イー(ジョン・ウー)の保護、というもうひとつの使命も与えられ、フェイは下山する。

 まずフェイは、協力者となるはずのチウ・グオという人物を訪ねて、白石鎮に赴く。だがチウ・グオは既にトウ・チンによって捕えられ、村人の前で処刑されようとしていた。フェイの策によってチウ・グオは命からがら逃げおおせ、チウのあとを追って家捜しをしていたトウ・チンは、「昼寝を邪魔された」と言って部下たちを倒したフェイに少林門下とは知らず好感を抱き、彼を勧誘する。

 フェイはチウと共謀して、チウを囮にシーの屋敷へと潜入した。だが、多くの少林門人を倒してきたシーと八虎将の実力はフェイを遥かに凌駕しており、チウは殺され、フェイも囚われの身となってしまう。

 そんなフェイを救ったのは、白石鎮を訪れる直前に偶然知り合った、タン(ジャッキー・チェン)という男であった。シーに反旗を翻した結果、無惨に殺された兄の敵を討つべく、好機を窺っていたというタンとともに、フェイは新たなる仲間を求め、自らを鍛えて、ふたたびシーに挑む決意をする……

[感想]

 とにかくスタッフをご覧いただきたい。ジョン・ウーが監督、脚本、出演を兼ね、武術指導と出演にはサモ・ハン・キンポー、そして主要キャストには、ロー・ウェイによって見出される以前のジャッキー・チェンがおり、初期のジャッキー映画で常連だったジェームズ・ティエンが悪役として登場している。解りにくいが確かにユン・ピョウもちょこっと顔を出しているし、確信は持てないが『スネーキーモンキー 蛇拳』でホクロから毛の生えた兄弟子をコミカルに演じたディーン・セキらしき顔も見える(気がしただけなので確証はない)。香港映画をある程度観てきた者にとっては、涎の出るような面子が揃った作品なのだ。

 ただ、内容的には有り体の歴史カンフーもので、決して新味はない。当時としてもさほど珍しくなかったばかりでなく、ブルース・リーの死によりカンフー映画が一気に下火になっていたあおりを受け、お蔵入りになっていたらしい――何とも勿体ない、と感じるのはあくまでも今だからで、当時はやむを得ないところだろう。実際、予備知識なしで鑑賞すれば、そこまで強い感銘を受けることもなく、さらっと見過ごしてしまう程度の出来だ。

 それでも、香港映画を色々と観てきた者にはピンと来るところが随所にあって、非常に愉しい。ジョン・ウー監督といえば血飛沫の舞うガン・アクションにスローモーション、白い鳩といったトレードマークが思い浮かぶが、そういう芸風のまだ確立されていない――とれ以前にそれらの要素の似合わない本篇にはそうしたアクは一切窺えない。が、アクション・シーンでのスローモーション表現にはニヤリとさせられるし、後のジャッキー作品と比べてテンポは遅いものの、アクションの見せ方をよく弁えており、展開が把握しやすいのはさすがだ。そして、伏線の妙こそないもののストーリーに破綻がなく、強い違和感を抱かせないことも、のちのロー・ウェイ監督下でのジャッキー作品を筆頭とした、いい加減すぎる香港映画に馴染んでいると、既に一線を画したものを感じずにいられない。

 若干説得力には乏しいが、アクションの組み立て、インパクトに、武術指導を担当したサモ・ハン・キンポーがのちに完成させるスタイルの片鱗を窺わせるのも見所である。特に終盤、サモ・ハン自らが主役を演じたレオン・タンを相手に見せる散り際は、のちの『福星』シリーズを彷彿とさせて、ニヤリとする人もいるはずだ。

 とりわけ注目すべきは、やはりジャッキー・チェンである。邦題に反して彼は主役ではないが、主人公を支える仲間のひとりとして見事に存在感を示している。後年のようなカンフー技の切れ味や危険なスタントこそないものの、間違いなく出演者のなかで最もアクションでの見せ場を生み出している。また出番の最後のほうでは、最盛期のジャッキーが決して見せなかった表情も披露しているので、その意味でも本篇は珍重すべきだろう。

 とはいえ、出演者に愛着がなく、香港映画にも親しみのない人には、まとまっているだけで決して大きな見所はない。アクションシーンもジャッキーやサモ・ハンがのちに生み出す作品のインパクトはないし、そもそもこう言っては何だが主人公のレオン・タンに華がなく、アクションの切れ味もいまいちというのが重大な欠陥だ。しかしそれでも、後年の香港映画の魅力に繋がるエッセンスを感じることが出来る、一部の好事家にとっては興味深い映画である。必見、とまでは言わないが、スタッフやキャストに興味を惹かれた人なら観ておくべきだと言い切りたい。

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