『コップ・アウト 刑事(デカ)した奴ら』


『コップ・アウト』Blu-ray版(Amazon.co.jp 商品ページにリンク)。

原題:“Cop Out” / 監督&編集:ケヴィン・スミス / 脚本:ロブ・カレン、マーク・カレン / 製作:ポリー・ヤンセン、マーク・プラット、マイケル・タドロス / 製作総指揮:ロブ・カレン、マーク・カレン、アダム・シーゲル / 撮影監督:デヴィッド・クライン / プロダクション・デザイナー:マイケル・ショウ / 衣装:ジュリエット・ポルシャ / キャスティング:ジェニファー・ユーストン / 音楽:ハロルド・フォルターメイヤー / 出演:ブルース・ウィリス、トレイシー・モーガン、ショーン・ウィリアム・スコット、アダム・ブロディ、ケヴィン・ポラック、ジェイソン・リー、ミシェル・トラクテンバーグ、ラシダ・ジョーンズ、ギレルモ・ディアス、コリー・フェルナンデス、アナ・デ・ラ・レゲラ、フアン・カルロス・エルナンデス / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.
2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:小寺陽子
2010年9月4日日本公開
2011年7月20日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
公式サイト : http://wwws.warnerbros.co.jp/copout/
Blu-ray Discにて初見(2020/11/26)


[粗筋]
 ニューヨーク市警察で変わり者として知られるコンビ、ジミー・モンロー(ブルース・ウィリス)とポール・ホッジス(トレイシー・モーガン)は、深刻なミスを犯した。メキシコ系の新興ギャングが仕切る麻薬取引の背景を探り、1ヶ月を費やしてようやく捕らえた仲介者を、裏切りに気づいた組織によって、目前で殺害されてしまったのだ。必死の追跡も虚しく、取引相手の男にも逃げられ、警察は手懸かりをすべて失ってしまう。
 追跡中に起こした騒動のぶんも含め、ふたりは1ヶ月、無給での停職処分を受けた。折悪しく、ジミーは愛娘エヴァ(ミシェル・トラクテンバーグ)の結婚式を控えていた。これまでろくに養育費も払えず、元妻に軽蔑されているジミーは、せめて今回の結婚式の費用だけは工面するつもりでいた。そんな矢先に収入を失ったジミーは、やむなく虎の子のお宝である、プレミアのついた野球カードを売却する決意をする。
 だが、悪いことは続くもので、まさにジミーが店に入った直後、強盗に襲撃される。ジミーはスタンガンで身動き出来ず、同行していた相棒は電話に夢中で、ジミーは店の売り上げと一緒に、津のみの綱だった野球カードを奪われていた。
 通報で駆けつけた同僚たちに馬鹿にされながらも、ジミーはまだ野球カードを諦められない。妻のデビー(ラシダ・ジョーンズ)に浮気の疑惑を抱いて終始注意力散漫なポールに手を焼きながら、ジミーは強盗犯の行方を追う。
 どうにか探し出した、パルクール使いの泥棒デイヴ(ショーン・ウィリアム・スコット)を締め上げたところ、この男が野球カードを売却したのが、他でもない、警察が最近追っていた新興ギャングのボス、ポー・ボーイ(ギレルモ・ディアス)だったのだ――


『コップ・アウト 刑事した奴ら』予告篇映像より引用。
『コップ・アウト 刑事した奴ら』予告篇映像より引用。


[感想]
 潔いほど頭が悪い映画である。
 全員、決して馬鹿ではないのだ。冒頭の、刑事らしい善玉・悪玉の掛け合いによる取り調べのテクニックもそうだし、犯人を追うくだりの発想、翻って悪党側の方法論や手段も、決して何も考えてない人間のやり口ではない。しかし、全員ことごとくネジの外れた印象で、実際にやることも最終的な結果もブッ飛んでいる。
 終始強烈な印象を残すのは、ブルース・ウィリス演じるジミーの相棒・ポールに扮したトレイシー・モーガンだ。冒頭の取り調べでは脈絡もなく名作映画の名台詞を駆使して容疑者を追い込もうとするし、そのあとの追跡劇では成り行きとは言え携帯電話の着ぐるみを身につけたまま街を駆けずり回る。結果、ふたりして停職、しかもジミーは愛娘のために売り払おうとした野球カードを強奪され、更には組織と危険な駆け引きを強いられる羽目に陥っているのに、ポールは基本的に妻の浮気を心配してばかりいる。
 問題ばかり起こすこのコンビを揶揄する同僚にしても、年長のハンサカーはともかく、若いマンゴールドは終始ピントのずれた物云いをしてぬる~い笑いを提供する。ジミーとポールだけでも相当な問題児だが、このハンサカーとマンゴールドのコンビもなかなか珍妙で、こんな奴ばかり抱え込んでるニューヨーク市警が心配になる。
 更に面白いのは、ジミーから野球カードを盗んだ男のひとり・デイヴのキャラクター像と、彼を巡るエピソードの展開ぶりだ。現代的な若者、という常套句ではフォローできないくらい言動がブッ飛んでいて、ジミー達を苛立たせたかと思えば、後半で思わぬ重要な役割を果たしたりする――いや、あれは“果たした”と言っていいのかどうか。
 実のところ、笑うにはあまりにもやってることが残酷すぎる映画である。メインの刑事ふたりはもともと問題児であるとは言え、暴力や拷問に躊躇がなく、銃撃戦では悪党のみとは言えけっこう人命も奪っている。ただ、フィクションであればこそ、のそんな振り切れぶりを、きちんとユーモアで彩っているので、その凄惨さがあまり気にならない。流血などの直接的描写を最小限に留めているのも奏功しているのだろう。
 やたらとルールを逸脱するので、展開が読みにくく、終始退屈することがない。その一方で、一般人や無辜の人物は守るというルールを守っているので、主人公たちの活躍ぶりが痛快だ――まあ、序盤に犯人を追跡するくだりで、自転車を借りるためにポールが持ち主を突き飛ばすくだりがあるが、焦りに加えて持ち主の挑発的な態度もあったので、辛うじて許容範囲だと思う。
 その行動にテーマ性や教訓など微塵もなく、観終わって何も残らないが、観ているあいだは虚心で楽しんでいられる――主人公たちの蛮行が許容できるなら、という但し書きはつくが、いっときの気晴らしには最適の娯楽映画だ。

 私は本篇をレンタルのBlu-ray Discで鑑賞したのだが、特典映像として、本篇に監督らが解説を施したヴァージョンが収録されている。
 よくある、副音声によるものではない。本篇を止めたり、映像に紛れ込んだりしながら、演出意図や制作背景を、やたらとユーモアを交えて説明していく、という趣向である。それゆえに、本篇が100分ちょっとなのに、170分くらいの尺がある。
 ……さすがに私は付き合いきれない、と思って、観るのはやめにした。が、本篇をとことん気に入った方は、こちらで鑑賞してみるのも一興だろう。説明過剰すぎて食傷気味になるかも知れないけど。


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