『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』

『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』

原題:“Hotfuzz” / 監督:エドガー・ライト / 脚本:エドガー・ライトサイモン・ペッグ / 製作:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、ニラ・パーク / 製作総指揮:ナターシャ・ワートン / ライン・プロデューサー:ロナルド・バスコンセラス / 撮影監督:ジェス・ホール / 美術:マーカス・ローランド / 編集:クリス・ディケンス / 衣装:アニー・ハーディング / 音楽:デヴィッド・アーノルド / 音楽スーパーヴァイザー:ニック・エンジェル / 出演:サイモン・ペッグニック・フロストジム・ブロードベントティモシー・ダルトンパディ・コンシダイン、レイフ・スポール、マーティン・フリーマンスティーヴ・クーガンビル・ナイ / ワーキングタイトル製作 / 配給:GAGA Communications

2007年イギリス合作 / 上映時間:2時間 / 日本語字幕:伊東武司 / 字幕監修:町山智浩

2008年07月05日日本公開

公式サイト : http://hotfuzz.gyao.jp/

シネ・アミューズ イースト/ウエストにて初見(2008/09/02)



[粗筋]

 華々しい学歴に、1年で9回の表彰、他を圧する検挙率と傑出した成績を誇るエリート警察官ニコラス・エンジェル(サイモン・ペッグ)を、青天の霹靂が襲った。あまりに突出した成績を同僚や上司に疎まれ、ロンドン首都警察から左遷させられたのである。

 新たな任地は、何度も電車を乗り継いだ先の田舎町サンドフォード――犯罪の発生率が異様に低く、ヴィレッジ・オブ・ジ・イヤーに何度も輝いているという、田舎町のなかの田舎町、という土地であった。およそ、有能な警察官など必要としないような。

 ホテルに仮の住居を定めた直後、付近のパブに赴いたニコラスは、飲酒する未成年に、酒酔いで車を運転しようとした男を早速捕まえるが彼らを引っ張っていった警察署の人間にはやる気の欠片も見えない。翌朝、改めて出勤したニコラスは、若者たちが既に署におらず、更にはあの飲酒運転の男ダニー(ニック・フロスト)が警官であり、フランク・バターマン警察署長(ジム・ブロードベント)の息子でもあることを知り驚愕する。それでも罰は与えられなければ、と主張するニコラスに、署長は署員のおやつ1ヶ月分を供給することで不問に付す、と言い放った。

 仕事が白鳥探しやスピード違反の取締程度なのはまだ致し方ないとしても、同僚たちのやる気のなさがニコラスには耐え難い。成り行きで組まされることとなったダニーは大のアクション映画好きで、映画を地でいくような経歴の持ち主であるニコラスに憧れの目を向けるが、ニコラスとしては「そんな派手な仕事はない」と言うほかない。一方で、有志たちが運営する近隣監視協会の会合に参加させられたり、弁護士の金にものを言わせた田舎芝居に付き合わされたりと、ニコラスの苛々は募っていく。

 そんな矢先、突如として血腥い事件が発生した。例の田舎芝居で主演していた弁護士が、共演していた愛人共々、首をもがれた状態で発見されたのである。現場は道路脇の看板傍、一見したところ事故で看板に突っこんだようでもあるが、ブレーキ痕がなくニコラスの目に偽装は明々白々だった。だが、署の刑事ふたりはニコラスの考えすぎだとまったく取り合おうとしない。

 事件はこれだけでは終わらなかった。後日、ニコラスとダニーが家まで送り届けた名士が、翌る朝に遺体となって発見される。酔っぱらったまま調理をしようとして、火の不始末で爆発事故を起こした、と見られるが、ニコラスの目にはやはり怪しく映る。更には地元新聞紙の記者までが“事故”で惨い死を遂げる――

 ニコラスは一連の死に繋がりがあると睨むが、相変わらず署員たちは信用せず、それどころか犯罪ゼロのこの町にトラブルを持ち込むかのような言動をするニコラスをからかいはじめる始末だった。唯一、彼に胸襟を開き、次第にニコラス自身も打ち解けていたダニーだけは彼の話に耳を傾けるのだが……

[感想]

 テレビのコメディ・ドラマで活躍したのち、ゾンビ映画への深い造詣と愛情とを注いだ初の長篇『ショーン・オブ・ザ・デッド』で一躍世界的にその名を知らしめたエドガー・ライト監督と主演・共同脚本のサイモン・ペッグが、満を持して発表した第2作である。前作が世界的に受け入れられながら、日本では劇場公開なしにDVD化され、本篇もその憂き目を見る寸前だったが、海外で本篇を観た人物やその高い評判を聞いた人々を中心に署名運動が行われ、とうとう配給会社を動かしてしまった、という痛快な経緯をご存知の方も多いだろう。かくいう私もそういう展開を知っていたからこそ期待していて、行動圏内での上映がどうやら今週いっぱいのようだ、と察して慌てて劇場に赴いたのである。

 実物はその膨らんだ期待をまったく裏切らない代物であった。とにかく冒頭からヴォリューム感に満ち、恐ろしくテンポがいい。小刻みなカット割りと早口のナレーションで主人公ニコラス・エンジェルの華々しい経歴を語ると、息をつく暇もなく左遷され、当人にとっては地獄のように長い赴任地までの道程を、スピーディな編集で描いていく。その合間に、次々と上の階級が現れる左遷のくだりや、何故か抱えている鉢植えなどで細かいくすぐりを入れていく。冒頭だけでいったいどれほど実が詰まっていたことか。

 随所に名作刑事ドラマなどを彷彿とさせるシチュエーション、台詞が盛り込まれているが、しかし本篇の優秀なところは、無理矢理填め込んだ印象がないところだ。ちゃんと全体のストーリー、展開を考慮した上でパロディやオマージュを取り込んでいるのであり、しかもどちらが主役と主張させることもなく、絶妙のバランスで融合している。

 アイディアそのものは有り体ながら、大きな仕掛けに向かって丁寧な伏線を張り巡らせていく謎解きの趣向も堂に入ったものだが、笑いの要素についても、その場の勢いでウケを取るようなものよりも、緻密な伏線で支えられているものが多いの唸らされる。しかも、ひとつの台詞が謎解きと笑いとに同時に奉仕しているのも素晴らしい。笑いながら納得させられる、という経験をさせてくれる映画など、そうそう世の中にあるものではない。

 だが本篇の出色であるところは、そうして積み上げたものが、およそそれまでの描き方と合致しないようなど派手なクライマックスにきちんと結実していくあたりである。ダニーが盛んにニコラスに訴えていたことや、周囲の住民達のさり気ない台詞が、ああした形で改めて提示されると、笑い、納得し、更には拍手までしたい気分にさせられる。確かに「みんな持っている」と言っていた、だがそんなところに持っていてそんな使い方をすると誰が想像するだろう。監督らの狙いはまさにこのイギリス映画らしからぬクライマックスにあったようだが、そのためにあれほど細かな伏線をちりばめていき、荒唐無稽なのに妙な説得力があるところにまで持って行ってしまったことにただただ恐れ入る。

 無数にネタをちりばめ、クライマックスも決着し、「もう、ごちそうさま」と手を合わせようとするともう1発、いや2発繰り出してくる、贅沢なまでの盛り沢山ぶりがまた嬉しくも頼もしい。

 コメディ、パロディ映画にありがちないやな後味が微塵もなく最後まで爽快な気分を味わわせてくれ、何度でも楽しみたくなる、高度に完成された真の娯楽映画である。むしろ、その旺盛すぎるサービス精神自体が諸刃の剣となり、欲張りすぎという印象すらもたらしているほどだ。いずれにせよ、ストーリー展開のダイナミズムもさることながら、終盤のインパクトある映像群を本気で堪能するためにはスクリーンで観るのが最善である。もし、興味があるのに諸般事情で劇場に足を運べない、ためらっているという方がこれをお読みなら、万難繰り合わせてでも鑑賞に赴くことをお薦めする。出来が極めていいのでDVDをいきなり買ってもそれ自体は後悔しないレベルだが、劇場で観なかった自分自身に悔しい想いをするはずだ。

 ……しかしこの舞台となった村、事件の最中でも充分に暮らしにくそうだが、終わったあともあれはあれでなかなか気苦労が絶えないように思う。色々といい具合に育っていそうで。

コメント

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