『夜の大捜査線』

夜の大捜査線 [DVD]

原題:“In The Heat of the Night” / 原作:ジョン・ボール / 監督:ノーマン・ジュイソン / 脚本:スターリング・シリファント / 製作:ウォルター・ミリッシュ / 撮影監督:ハスケル・ウェクスラー / 美術監督:ポール・グロッシ / 編集:ハル・アシュビー / キャスティング:リン・スターマスター / 作詞:アラン・バーグマン、マリリン・バーグマン / 音楽:クインシー・ジョーンズ / 主題歌:レイ・チャールズ / 出演:ロッド・スタイガーシドニー・ポワチエウォーレン・オーツ、リー・グラント、スコット・ウィルソン、ジェームズ・パターソン、クエンティン・ディーン、ラリー・ゲイツ、ウィリアム・シャラート、ビア・リチャーズ、マット・クラーク、ピーター・ホイットニー、カーミットマードック、ラリー・D・マン、アーサー・マレット、ティモシー・スコット、ウィリアム・ワトソン、エルドン・クイック、アンソニー・ジェームズ、フレッド・スチュワート / 配給:日本ユナイテッド・アーティスツ / 映像ソフト発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント

1967年アメリカ作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:佐藤一公

1967年10月14日日本公開

2011年6月22日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

第2回午前十時の映画祭(2011/02/05〜2012/01/20開催)《Series2 青の50本》上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/09/14)



[粗筋]

 アメリカ南部にあるミシシッピ州スパルタで、信也の巡回中だった警官サム・ウッド(ウォーレン・オーツ)が、路地に倒れている死者を発見した。

 死者は最近、近隣に新しい工場を誘致していたコルバートという実業家だった。後頭部を殴打されて殺害されており、持ち物がなくなっている形跡もあることから、現地の警察署長ギレスピー(ロッド・スタイガー)はサムに、ビリヤード場や駅を探ってくるように命じる。

 サムはすぐにひとりの黒人を署まで同行してきた。深夜の駅でひとり待っていたその男は、黒人としてはいい身なりをしている上、財布にはかなりの紙幣を詰めていた。

 これで事件は解決、と思ったのも束の間、男が提示した身分証明書は、彼が警官であることを示していた。ペンシルベニア州フィラデルフィアの警察官であるその男、ヴァージル・ティッブス(シドニー・ポワチエ)の専門は、殺人事件。身元照会のためにギレスピー署長が連絡を取ったヴァージルの上司は、殺人事件の専門家がいないスパルタ署のために協力するよう、ヴァージルに命じる。

 事実、現地警察の関係者とヴァージル刑事との能力差は歴然としていた。遺体を確認したヴァージルは、医師が提示した死亡推定時刻よりも1時間は早く殺害されていた可能性を指摘、より詳細な調査を行い、犯人に繋がる手懸かりを幾つか導き出す。

 そのあいだに、他の警官達は新たな容疑者を確保していた。地元のゴロツキであるハーヴェイ(スコット・ウィルソン)が、コルバートの札入れを持っていたのである。山狩りの末に、州境を超える前にどうにかハーヴェイを取り押さえたサムたちは意気揚々としていたが、ヴァージル刑事はハーヴェイと接するなり、すぐに彼が無実であることを確信する。

 感情的に犯人を追い求めるスパルタ警察の人々には、間違いなくヴァージル刑事のような専門家が必要だった。しかし、現地に根強く蔓延る、黒人に対する差別意識が、真相究明に挑むヴァージル刑事の前に立ちはだかる……

[感想]

 本篇を観ながら、私は終始、懐かしい感覚に囚われていたが、観終わってからその正体に気づいた。この作品には、由緒正しいミステリの血筋が感じられる。

 ポイントは、中心人物であるヴァージル・ティッブス刑事の立ち位置だ。当初はよそ者であるが故に容疑者として扱われるが、間もなく警官、それも殺人事件の専門家であることが判明する。懐疑の眼差しに晒されながらも専門家としての能力を発揮し、じわじわと真相に迫っていく――その振る舞いは、探偵小説の王道を行くが如きだ。

 無論、本篇の勘所はそうした探偵小説的な語り口や、謎解きとしての端整さよりも、南部に根強く残る差別意識との戦いを、短期間に圧縮して描いているところにあるのは間違いない。だから、少しずつ証拠や新事実が判明していく過程や、緻密な推理を行う場面などは少なく、ヴァージル刑事に対する周囲の態度、行く先々で遭遇する差別意識や迫害、といったことのほうに尺が割かれている。

 恐らく、本来の職場であるフィラデルフィア警察で赴く現場では、こうした差別意識にじかに晒されることは決して多くないのだろう、困惑し、次第に意地になっていくヴァージル刑事の姿と、彼の能力を認めながらも、意識に深く根ざした黒人に対する偏見故に微妙な態度を取らざるを得ないギレスピー署長のコントラストは非常に印象的だ。事件捜査そのものよりも、方々で遭遇するトラブルや、そのたびに見せる表情を追っているからこそ、終盤のやり取りに味があり、結末には不思議と快い感動が残る。

 ただ、それでも本篇は、ミステリとして鑑賞しても決して不出来ではない。いわゆる“本格ミステリ”と呼ばれる作品のように、緻密な謎解きがあるわけでも、入り組んだ伏線が用意されているわけでもないが、クライマックスに至って迎える新しい展開で、観るものが思わず「あ」と漏らしてしまうような、細やかな伏線が設けられているのである。そして最後の最後で、緊張感を齎したガジェットを巧く組み合わせて繰り広げられるドラマは実に鮮やかだ。理詰めでは解き明かせないにせよ、だからこそ過程はサスペンスに満ちているし、謎が解き明かされる瞬間の衝撃を巧みに演出しているのだから、ミステリ映画として鑑賞しても充分な満足感が得られるはずである。

 何より、本篇におけるヴァージル刑事の立ち位置、佇まいは、まるっきり古式ゆかしいミステリの名探偵なのだ。過程こそ謎解きよりもドラマに焦点が向けられているものの、現地の人々の無理解に晒されながらも執念で謎を追い、すべてを解決したあとで去っていくその表情には、市川崑監督描く金田一耕助にも似た味わいがある。

 21世紀を迎えた今でも地方には未だ差別意識が根強いというアメリカであるだけに、未だ説得力のあるドラマとして鑑賞するのがいちばん正しい見方であろう。だが、そうと解った上で、事件捜査を巡るドラマとして、そしてミステリの様式美を踏襲したドラマとして愉しむのも、また一興ではなかろうか。

 何にせよ、現代においてもまだまだ通用する、骨太の作品であることは間違いない。

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