『ARIA the BENEDIZIONE』

TOHOシネマズ上野、スクリーン2入口脇に掲示された『ARIA the BENEDIZIONE』チラシと舞台挨拶ライブビューイングについての諸注意。
TOHOシネマズ上野、スクリーン2入口脇に掲示された『ARIA the BENEDIZIONE』チラシと舞台挨拶ライブビューイングについての諸注意。

原作:天野こずえ(マッグガーデン・刊) / 総監督、脚本&音響監督:佐藤順一 / 監督、絵コンテ&演出:名取孝浩 / プロデューサー:飯塚寿雄 / キャラクターデザイン、プロップデザイン&総作画監督:伊東葉子 / 撮影監督:間中秀典(J.C.STAFF撮影部) / 美術監督:氣賀澤佐知子(スタジオユニ) / 編集:瀧沢三智 / 音楽:Choro Club feat. Senoo / テーマ曲:牧野由依 / 声の出演:斎藤千和、皆川純子、中原麻衣、水橋かおり、葉月絵理乃、大原さやか、西村ちなみ、広橋涼、佐藤利奈、茅野愛衣、渡辺明乃、野島裕史、平松晶子、島本須美 / アニメーション制作:J.C.STAFF / 配給:松竹ODS事業室
2021年日本作品 / 上映時間:1時間
2021年12月03日日本公開
公式サイト : https://ariacompany.net/
TOHOシネマズ上野にて初見(2021/12/3) ※公開記念舞台挨拶ライブビューイングつき上映


[粗筋]
 火星に築かれたネオ・ヴェネツィアは、地球(マンホーム)に存在したヴェネツィアを模して、縦横に水路を張り巡らせた美しい景観を持つ観光都市である。ゴンドラの漕ぎ手として観光客を遇する水先案内人(ウンディーネ)は、この地を彩る存在となっていた。
 ウンディーネの組織としては最古参の姫屋で半人前(シングル)のウンディーネとして修行中のあずさ(中原麻衣)は、アリアカンパニーのシングルであるアイ(水橋かおり)、オレンジぷらねっとのアーニャ(茅野愛衣)と共に合同練習をしていたとき、姫屋の先輩である晃(皆川純子)を見つける。トップのウンディーネである晃は常に予約が詰まっているため、会うことも稀だが、そんな彼女が私服姿で、何やら思案の面持ちで街を歩いているのを奇異に思ったあずさは、アイたちと共にあとをつける――が、あっさりと見つかってしまった。
 晃はあずさたちを伴い、水先案内人ミュージアムへと向かう。水先案内人の歴史や、記念品を展示するこの施設の館長を務めるのは、姫屋の歴史に名を残す元ウンディーネの明日香(平松晶子)。晃と明日香があずさたちに語ったのは、晃が藍華の師となった経緯だった。
 姫屋の総支配人(クイーン)・愛麗(平松晶子)は娘である藍華に当初、後継者となることを押しつける意志はなかった。しかし藍華は自ら名乗りを上げ、《ウンディーネ》となることを志す。しかし、ミドルスクール2年生になった藍華は、かなりひねくれた少女となっていた。晃はあえて距離を保ったまま藍華を見守り続けたが、やがて藍華は逆上し、夜の街へと飛び出していった――


[感想]
 約6年前の復活もちょっと劇的ではあった。原作をほぼ完璧な形で結末まで取り込むことに成功したテレビシリーズ自体もかなり奇跡的なのに、テレビシリーズ完結から7年を経てリリースされるブルーレイ版セットのために製作された新規エピソード『ARIA the AVVENIRE』が劇場公開、限定的ながら高いアベレージでヒットとなった。それから5年後の2021年、最初の劇場版を補完するための新作が立て続けに公開される。『新世紀エヴァンゲリオン』のような社会的ヒットではないが、スタッフ・キャストからも観客からも、ここまで根強く愛される作品はなかなか貴重だ。
『~The AVVENIRE』ではテレビシリーズの主人公・水無灯里が勤めるアリアカンパニーの次世代を中心に描き、2021年3月公開の『ARIA The CREPUSCOLO』では灯里の練習仲間であるアリスが所属するオレンジぷらねっとの3世代の関係性とエピソードを描いた。『~The AVVENIRE』から続く《蒼のカーテンコール》完結篇、という位置づけで発表された本篇では、灯里のもうひとりの仲間・藍華が所属する姫屋を中心に据えている。
 テレビシリーズ、ひいては原作からこの作品を追っている者からすると、本篇の着眼は絶妙だ。これほど長く続くシリーズで、あっても不思議はなかったのに飛ばされていた“空白”を採り上げている。
 着想したのが原作者なのか、テレビシリーズから一貫して牽引する佐藤順一総監督なのかは解らないが、このエピソードの選択と描き方はファンならば唸らずにいられないはずだ。欲しかったエピソード、というのもあるが、状況にしても行動にしても、藍華と晃という師弟コンビの“らしさ”が横溢している。
 見るもの触れるものすべてに幸せを見いだせる“達人”灯里とアリシア、師弟ともに特定の技術に優れた“天才”アリスとアテナと違い、本篇で中心に据えられる藍華と晃は、どちらも自ら以て任じる“凡人”だ。しかしそれゆえに、どこか超然とした他の師弟のやり取りと比較すると、視聴者の目線に近い。だから彼女たちの漏らす言葉、そして現実との戦いぶりは、観ている側にもストレートに響きやすい。テレビシリーズ序盤ではやたらと押しが強かった藍華が、自らの凡庸ぶりに傷つきひねくれていたロースクール時代の心境と、それに寄り添う晃のスタンス、そしてそれらを包括するような一人前(プリマ)昇進試験の趣向と、地に足を着け筋を通した描写が、昂揚感と共感、先行する2作にも勝る感動を生んでいる。
 そして何より、画面の美しさだ。私たちの知るヴェネツィアをモデルに構築された舞台を緻密に描き出した背景は勿論だが、人物描写も一貫してクオリティが高い。前作『~The CREPUSCOLO』からほぼダイレクトで本篇の製作に入ったことが功を奏したのだろう。前作同様、すべての場面が美しい。そのうえ、本篇は藍華のプリマ昇進試験の内容が広がりと躍動感に富んでいるので、アニメーションとしての見応えも増している。本質的に、シリーズのファンのみを対象にした作りではあるが、本篇に限れば、予備知識が乏しくともアニメとしての醍醐味と感動を味わえるはずだ。
 約16年に及んだシリーズの結末としては、しっとりとはしているがあっさりとしたエピローグではある。しかし、本篇の主題は変化をも受け入れ、未来へと繋げることだ。作品自体が、テレビシリーズとして完結してなおこの世界が連綿と続いていく感覚をもたらすからこそ長く愛され、時を経てふたたび新作が生み出されたことを思えば、なおも続く日常へと回帰していくことは正しい――だからこそ、テレビシリーズや原作での空白を埋める《カーテンコール》が終わってもなお、まだ期待を抱かせてしまう罪作りな余韻を残してしまっているのだけど。実際、公開時のコメントでは、スタッフもキャストもこれで終わる、とは感じていないらしい。まだ物語は続いていく、という予感も含めて、本篇はこのシリーズの美点を余すことなく織り込んだ秀作と言える。


関連作品:
ARIA the AVVENIRE』/『ARIA The CREPUSCOLO』/『泣きたい私は猫をかぶる』/『魔女見習いをさがして
劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〔新編〕 叛逆の物語』/『劇場版SHIROBAKO』/『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 』/『アイの歌声を聴かせて』/『HUGっと!プリキュア・ふたりはプリキュア オールスターズメモリーズ』/『トロピカル~ジュ!プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪!』/『聲の形』/『竜とそばかすの姫
旅情(1955)』/『太陽がいっぱい』/『ベニスに死す』/『ミニミニ大作戦』/『カサノバ』/『007/カジノ・ロワイヤル』/『ツーリスト』/『ワン チャンス』/『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム

コメント

  1. […]  今年初の映画館詣では、昨年のラストを飾ったユナイテッド・シネマ豊洲です……近場でも観られるんですが、正月休みということもあってか、どこもスタートが早くて。一番適当なのが、距離的に近いとは言えない豊洲だったのです。移動距離含めてもここがいちばん時間がいいって、みんなどんだけ早起き想定なのだ。 […]

  2. […] 『ARIA the BENEDIZIONE』の半券キャンペーン、当選しました。 […]

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