『アンフレンデッド:ダークウェブ』

原題:“Unfriended : Dark Web” / 監督&脚本:スティーブン・サスコ / 製作:ティムール・ベクマンベトフ、ジェイソン・ブラム / 製作総指揮:ネルソン・グリーヴス、クーパー・サミュエルソン、アダム・シッドマン / 撮影監督:ケヴィン・スチュワート / プロダクション・デザイナー:クリス・デイヴィス / 編集:アンドリュー・ウェズマン / 衣装:カサンドラ・ヤンセン / キャスティング:ジョン・マクアラリー / 出演:コリン・ウッデル、ベティ・ガブリエル、レベッカ・リッテンハウス、アンドリュー・リース、コナー・デル・リオ、ステファニー・ノゲーラス、サヴィラ・ウィンドヤーニ、チェルシー・オールデン、アレクサ・マンスール / バザレフス・カンパニー/ブラムハウス製作 / 配給:MIDSHIP / 映像ソフト発売元:TC ENTERTAINMENT
2018年アメリカ&ロシア作品 / 上映時間:1時間32分 / 日本語字幕:?
2019年3月1日日本公開
2019年6月2日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon|:Amazon Prime Video(字幕版)]
公式サイト : http://dark-web.jp/
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/80039717
Amazon Prime Videoにて初見(2020/05/26)


[粗筋]
 調達したばかりの新しいPCで友人たちとSkypeを介してゲームを始める前に、マタイアス(コリン・ウッデル)は恋人アマヤ(ステファニー・ノゲーラス)に連絡を取った。聾者である彼女との意思疎通のために、口にした言葉をすぐに手話へと変換するアプリを披露したが、彼女は喜んでくれなかった。
 国境を越えた友人たちとの通話を始めたが、マタイアスの新しいPCは奇妙な挙動を繰り返していた。ロンドンに済むハッカーのデイモン(アンドリュー・リース)の助言を受けながらPCの状態を探ると、ハードディスクに大量の隠しファイルが残されていた。暗号を解き内容を確認すると、様々なカメラで撮影された動画ファイルがある。
 やがて、PCに残されていた“カロンIV”というアカウント宛てに複数のメッセージが届きはじめる。友人たちとビデオ通話をしながら、その一方でPCの素性を探りはじめたマタイアスは、どうやら元々の持ち主が頻繁に、闇取引を行うインターネットのアンダーグラウンド=ダークウェブにアクセスしていたことに気づく。
 いったい“カロンIV”は何者なのか。はじめは、元の持ち主に宛てたメッセージを無視していたマタイアスだったが、好奇心に屈して返事をしてしまう。だが、そうしてやり取りを始めたことが、恐怖の始まりとなってしまった――


『アンフレンデッド:ダークウェブ』本篇映像より引用。
『アンフレンデッド:ダークウェブ』本篇映像より引用。


[感想]
 全篇をPCの画面のみで構成、主人公であるユーザーがアプリを起動したり、ネットを閲覧したり、別の場所にいるユーザーとビデオ通話やメッセージでやり取りしたりする様をそのまま見せ、そこに物語を展開する実験的なホラー『アンフレンデッド』の続篇である――が、内容に繋がりはない。前作を観ていなくとも、本篇を楽しむのに差し障りはない。
 ただ、それ以前に、そもそも映画として読み解くのが少々面倒な作品ではある。
 スクリーン全面がひとつのモニターを捉えており、最初こそログイン画面しかないが、起動が済むと画面上に次々と、様々な情報が展開していく。アプリの起動も文字入力も、やたらとスピーディなので、把握するのが厄介だ。そもそも、他人が己のペースで作業をしているモニターを脇から覗きこんでも全容は把握しきれないものだが、本篇は主人公であるユーザーがある程度こなれているせいでなおさら厳しい。日本で鑑賞している場合、肝心の情報は字幕というかたちでクローズアップしてくれるので、その都度必要な情報は把握出来るが、恐らく字幕なしで鑑賞すると、ネイティヴでもPCに不慣れなひとは話に追いつけない可能性もある。
 実は、この問題点については、ホラーではないが同じPC画面上で展開する情報のみで描く手法を使った『search/サーチ(2018)』が解決策を提示している。そちらの作品では、あえてPC画面のスケールに縛られることをやめ、たとえばメッセージの入力時には入力窓を、大きな変化があったときはその注目すべき箇所を一時的にクローズアップしている。ずっとPC画面を眺めている、という感覚はやや損なわれるものの、ルールの許すギリギリで“演出”を増やしたことで、格段に話が伝わりやすくなっていた。
 成功例を挟んでいるだけに、本篇でもそちらを採り入れていくのだろう、と予測していたのだが、どうやら今回は避けたらしい。前作も『サーチ』も本篇も、製作にティムール・ベクマンベトフが加わっていることを考慮すると、それは恐らく監督自身が意識的に選択したことだと思われるが、個人的には、少しだけ譲歩して、解りやすさを加味して欲しかった。
 そしてもうひとつ引っかかるのは、真実に対するスタンスの曖昧さだ。
 序盤こそ、主人公自身がどういう立場でPCを扱っているのか解らない、というそもそもの事実もまた利用して、現実的に話は転がっていく。しかし、彼らがタイトルにもある“ダークウェブ”を発見する辺りから、出てくる事実や現象がにわかにオカルトじみてくる。いつの間にか主人公の恋人の家が特定され、カメラに映る侵入者の姿がノイズで乱れている、なんて描写は超常現象を思わせる。
 しかし、そこから先がどうもあまり明確ではない。いちおう本篇終盤で意図が明かされ、そこに収束はしていっているのだが、過程での不可解な現象については説明がついていない。あえて不明瞭なまま残している、という可能性もなきにしもあらずだが、本篇の場合、それが恐怖よりも収まりの悪さを残してしまっている。説明すべきところはきちんと解き明かし、そのうえで一部に謎や秘密を残すのもいいのだが、そのバランスを誤ってしまった、という印象を受けた。
 とはいえ細部の、恐怖をもたらすための趣向、描写は極めて質が高い。まさにこの、PC画面上で展開する物語、という大枠を最大限に駆使している。ビデオ通話だと通信精度によっては口許が読み取りづらい、というネックを克服するために、音声をすぐさまテキスト化したり、予め撮影した手話に翻訳するソフトを制作するアイディア。ビデオ通話の傍らでテキストメッセージのやり取りや、他のSNSアカウントへのメッセージ着信を知らせるアイコンが現れたりする重層的な表現、グループ通話に見知らぬ人物が出現する、というシチュエーションなど、細かな技を用いて違和感、恐怖を醸成していく。クライマックスでは主人公やビデオ通話に参加するメンバーに直接災いが襲いかかるが、カメラの制約を利用して間接的に見せるのも面白い。
 ホラーであること、を大前提にしつつ、あえて前作に縛られない内容で攻める姿勢は意欲的でいいと思うのだが、そこで少々、物語としての焦点が狂ってしまった感がある。表現手法に対する理解と実験精神は健在であり、表現に絞れば、観る側に情報が伝わりにくい点以外はレベルが高いだけに、シナリオの詰めが甘いのが惜しまれた。


関連作品:
アンフレンデッド』/『THE JUON―呪怨―』/『呪怨 パンデミック
search/サーチ(2018)
野性の呼び声(2020)』/『アップグレード』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』/『アナベル 死霊博物館
ソーシャル・ネットワーク』/『白ゆき姫殺人事件』/『ロスト・バケーション』/『シュガー・ラッシュ:オンライン』/『デス・サイト』/『放送禁止 劇場版 ~密着68日 復讐執行人』/『デス・レース』/『レベル・サーティーン』/『カイジ 人生逆転ゲーム』/『ジグソウ:ソウ・レガシー』/『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ

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