『デス・レース』

『デス・レース』

原題:“Death Race” / ロバート・ソム、チャールズ・グリフィス脚本の映画『デス・レース2000年』に基づく / 監督・脚本・製作:ポール・W・S・アンダーソン / オリジナル原案:イヴ・メリキオー / 製作:ポーラ・ワグナー、ジェレミー・ボルト / 製作総指揮:ロジャー・コーマン、デニス・E・ジョーンズ、ドン・グレンジャー、ライアン・カヴァノー / 撮影監督:スコット・キーヴァン / プロダクション・デザイナー:ポール・デンハム・オースタベリー / 編集:ニーヴン・ホウィー / 衣装:グレゴリー・マー / 音楽:ポール・ハスリンガー / 出演:ジェイソン・ステイサムナタリー・マルティネス、タイリース・ギブソンジョアン・アレンイアン・マクシェーン、マックス・ライアン、ジェイソン・クラーク、フレッド・コーラー、ジェイコブ・ヴァルガス、ジャスティン・マダー、ロバート・ラサード、ロビン・シュー / 声の出演:デイヴィッド・キャラダイン / インパクト・ピクチャーズC/W製作 / 配給:東宝東和

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間45分 / 日本語字幕:林完治 / PG-12

2008年11月29日日本公開

公式サイト : http://www.deathrace.jp/

TOHOシネマズ西新井にて初見(2008/11/29)



[粗筋]

 2012年、アメリカ経済は崩壊し、失業者率は史上最悪を記録、犯罪者も激増して、刑務所は飽和状態に陥っていた。そのために刑務所は民間企業によって運営され、うちのひとつ“ターミナル・アイランド”では、囚人たちによるレースを放送して、刺激を求める視聴者に提供していた。だが、民衆の欲望には際限がなく、いつしかレースは命を賭した、過激なものへと発展していく……。

 元カーレーサーであったジェンセン・エイムズ(ジェイソン・ステイサム)は、あることがきっかけでライセンスを失い、いまは製鉄所で働いている。だが、愛する妻スージーと小さな愛の結晶とともに、倹しいながらも幸せに暮らしていた――はずだった。しかしある日、勤務する製鉄所が突然閉鎖され、それでも健気に帰宅したエイムズを何者かが襲い、目醒めたとき傍らには妻の屍体が転がり、彼の手にはナイフが握らされていた……

 それから6ヶ月後。無実を証明することが出来ず服役することになったエイムズは、“ターミナル・アイランド”に移送される。女所長ヘネシー(ジョアン・アレン)の狙いは、刑務所で開催されるレースにおいて4度連続優勝を果たし、5回優勝の特典である釈放まであと一歩というところまで達しながら大事故により休養している名ドライバー、フランケンシュタインの身代わりとして、エイムズを出場させることにあった。フランケンシュタインは既に死亡しているが、ファンが多く復活を望む声が高い。

 顔が崩れていたフランケンシュタインは常にマスクをしており、入れ替わるのは決して難しくなかった。問題はレーシング・テクニックであるが、その点エイムズは申し分ない。最初は拒んだが、フランケンシュタインになりすますことで彼の4回優勝分を引き継ぎ、1週間後に開催されるレースで優勝すれば釈放する、と囁かれ、最終的に承諾した。

 条件付きながら武器の使用も可能、チェッカーフラッグを振られることよりも、生き残ることこそが勝利の鍵、という過酷なルールのもとに開催される、3日間3ステージからなる死のレース。果たしてエイムズは生きて、塀の外に出られるのだろうか……?

[感想]

 ポール・W・S・アンダーソン監督は、近年潔いほど娯楽性に重点を置いた作品を撮り続けている。1作目を監督し、2作目以降も製作・脚本で携わった『バイオハザード』にしても、人気ホラー映画の名物キャラクター対決『エイリアンVS.プレデター』にしても、いちど観ていただいたならその辺は理解できるだろう。辻褄以上に、爽快感を重視した組み立てはある意味ハリウッドらしいが、しかしその中にクエンティン・タランティーノにも近く、だが少し馴染みやすいマニアックさも含んでおり、そのお陰もあってか作品はしばしばボックスオフィスを賑わせている。

 本篇もそんな彼の定着した作風からぶれることなく、力強いエンタテインメントに仕上がっている。

 基本的にこの監督は、辻褄を合わせることよりもシチュエーションや台詞、仕草が如何に痛快であるかに拘っている傾向が見られるが、本篇も冷静に観ると、かなり無茶のある作品だ。折しも金融不況のまっただ中であるため、4年後に完全に崩壊したアメリカ経済によって失業者・犯罪者が激増する、という土台の説得力は著しく、現実に他国では民営の刑務所も存在していることを思うとリアリティさえ感じられるが、それでも刑務所内とはいえ大規模な事故や私刑を前提としたようなレース競技、などというものが安易に受け入れられるとは考えにくい。本篇の物語に関わる罠の仕掛け方も強引だし、特にクライマックス、あそこまでスムーズにことが運ぶのか、そもそもそれ以前の展開と較べて楽天的すぎやしないか、という印象は否めない。

 だが、そうした欠点などどうでもいい、と思えるほど、キャラクターはいずれもシンプルできっちり完成されており、銃撃やガス攻撃、クラッシュを狙ったタックルを許容するカーレースの迫力は強烈だ。主演のジェイソン・ステイサムは彼を一気にスターダムへと押しあげた『トランスポーター』シリーズに『ミニミニ大作戦』とドライバー役に幾度も扮し、アクション映画に多く出演している、言ってみれば妥当すぎる配役だが、それだけにキャラクターの完成度と安心感は比類がない。一方で、従来政治家や官僚など善人側に立つことの多かったジョアン・アレンが演じる女所長は、それ故に実に愉しげで、恐ろしくも魅力に溢れている。敵方も、本物のフランケンシュタインを死に追いやった張本人であり、ゲイのため助手として女性が同乗するのを拒否し、その助手もしばし殺しているというマシンガン・ジョー(タイリース・ギブソン)にMITを卒業した元インテリの中国系M14(ロビン・シュー)と個性豊か、味方にも既に仮釈放が可能なはずなのにシャバが怖くて未だに刑務所でメカニックを務めているコーチ(イアン・マクシェーン)、といった具合に、短くとも存在感を示すキャラクターが鏤められている。本来ならもっと描きこみたいだろうところをシンプルに、そして死なせるときは実に潔く、時に陰険に殺してしまうあたりも、良識派なら眉をひそめるところではあろうが、バトル物の漫画などに親しんできた男の子としては興奮を禁じ得ない。

 要するにこのアンダーソン監督は、ゲーム世代・漫画世代の感性をそのまま映画に持ち込むことに成功した人材なのだろう。『バイオハザード』にしても『エイリアンVS.プレデター』にしてもステージクリアしながら進んでいくゲームの発想が息づいているし、本篇では更に「床にあるボタンを点灯中に踏むと、武器や防御兵器、ナパームなどが使用可能になる」という趣向に、レースの勝ち負けには関係なくプレイヤーたちを妨害する“ドレッドノート”なる大物まで繰り出してくる始末だ。

 そうと解ったうえで、或いは感性に重なり合うところがあれば楽しめるし、辻褄や合理性を求めるとかなり微妙な評価を下したくもなるだろう。だがポール・W・S・アンダーソン監督が作る映画は基本的にそういうものであり、1回でも観て合わないと感じたなら避けて通るのが正解かも知れない。

 何にせよ、そういう意味ではこれまでのどの作品よりもポール・W・S・アンダーソン監督らしい作品に仕上がっており、彼の映画としては今のところ最高の出来、と言い切ってもいいかも知れない。頭を使って観る、というよりは感じて震える作品である。同じ流血・残虐シーンが相次ぐ映画であっても、昨日封切りとなった『SAW5』とは身構えが正反対の代物と言えよう――どっちもかなり極端なところに位置していて、大多数にお薦めするのは難しいのだが。

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