『ケープタウン』

新宿バルト9、スクリーン4入口に掲示されたチラシ。

原題:“Zulu” / 原作:キャリル・フェリー / 監督:ジェローム・サル / 脚本:ジェローム・サル、ジュリアン・ラプノー / 製作:リシャール・グランピエール / 製作総指揮:フレデリック・ドニギアン / 撮影監督:ドゥニ・ルーダン / 美術:ロラン・オット / 編集:スタン・コレ / 衣装:レイド・ネリー / 音楽:アレクサンドル・デスプラ / 出演:オーランド・ブルームフォレスト・ウィテカーコンラッド・ケンプ、ジョエル・カイエンベ、インゲ・ベックマン、ティナリー・ヴァン・ウィック・ルーツ、レガルト・ファンデン・ベルフ、パトリック・リスター、タニア・ヴァン・グラーン / 配給:KLOCKWORX

2013年フランス、南アフリカ合作 / 上映時間:1時間47分 / 日本語字幕:岡田壯平 / R15+

2014年8月30日日本公開

公式サイト : http://capetown-movie.com/

新宿バルト9にて初見(2014/10/08)



[粗筋]

 南アフリカケープタウン

 ひとりの少女の撲殺屍体が発見された。所持していた会員証から身許を探ると、元大物ラグビー選手の一人娘と判明する。

 事件を担当する刑事アリ(フォレスト・ウィテカー)とブライアン(オーランド・ブルーム)は遺体と共に発見した薬物に手がかりがあると考え、少女の交友関係から洗い出していく。

 だが、明白な証拠が出るよりも先に、事件は予想外の悲劇を招いた。少女が接触していたという男を捜して訪れた海岸で、話を聞こうとした男達が過剰に反応し、刑事のひとりを殺害してしまったのだ。

 どうやらこの事件の背後には、とてつもなく凶暴な闇が潜んでいる。アリとフォレストは同僚の弔いのためにも事件解決に全力を傾ける――

[感想]

 少女の惨殺屍体が発見されたことから始まる物語だが、謎解きとしてはあまり深みや旨味を感じない作りである。こういう展開ならあれが背景なのだろう、とごく大雑把に想像したものでも、ほぼ的中するはずだ。

 だが、犯罪捜査の現場のヒリヒリとするような空気と、舞台が南アフリカであればこその生々しさは逸品である。屍体を前にした捜査官たちの、感情こそ様々ながら如何にも日常茶飯事であることを窺わせる態度。アパルトヘイトが無くなったとはいえかつての立場によってそれぞれ複雑な想いを抱き、どうしてもわだかまりは消えずに残っている。そうした緊迫感が重なり合い、本篇独特の雰囲気を作り出している。

 展開の過激さも大きな特徴だ。フィクションずれしている観客は早いうちに察せられるだろうから粗筋ではあえてはっきり記したが、それでも同僚刑事の死の唐突さ、衝撃は凄まじい。事件の背景や、ごく大まかな筋立てはオーソドックスでも、ひとつひとつの出来事に生々しさが備わり、重みがあるのだ。

 本篇を特徴づけているもうひとつのポイントは、フォレスト・ウィテカー演じる刑事である。アパルトヘイトで受けた虐待を乗り越え一定の地位を築いた人物だが、しかし社会的地位の向上だけでは如何ともしがたい鬱屈を抱えた人物でもある。本篇では、彼の抱えた“闇”を当初は伏せた状態で描いているが、それがアリ刑事の穏やかな、しかしにわかに強い執念を感じさせる行動を裏打ちする。この作品の最も壮絶なひと幕が説得力を持つのも、この巧みな人物造形のなせる技だ。いつになく汚れた役を演じ、存在感を発揮したオーランド・ブルームも素晴らしかったが、アリ刑事に芯を与えたフォレスト・ウィテカーこそ本篇の主役と言っていいだろう。

 アパルトヘイトから解放されたひとびとと、かつて彼らを迫害していたひとびとが共存せざるを得ない社会。そして、法の上での平等が保証されようと解消されない貧富の差に喘ぐひとびとが無数にいる社会。本篇の事件の構図はどこか類型的だが、しかしそうしたいまの南アフリカならではの空気が、本篇に他の犯罪映画とは異なる衝撃を生み出している。原題は主人公たるアリ刑事と、随所に登場する部族の名前に基づいているが、舞台となった都市の名をずばり引用した邦題もまた的を射ているのではなかろうか――まさに、今のケープタウンを活写した作品として。

関連作品:

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アマンドラ!希望の歌』/『ホテル・ルワンダ』/『インビクタス/負けざる者たち』/『第9地区』/『デンジャラス・ラン』/『逃走車』/『シュガーマン 奇跡に愛された男

ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区』/『野蛮なやつら/SAVAGES』/『2ガンズ

コメント

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