『夏へのトンネル、さよならの出口』

TOHOシネマズ上野、スクリーン1入口脇に掲示された『夏へのトンネル、さよならの出口』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン1入口脇に掲示された『夏へのトンネル、さよならの出口』チラシ。

原作:八目迷(ガガガ文庫/小学館・刊) / 監督、脚本&絵コンテ:田口智久 / 原作イラスト&キャラクター原案:くっか / 製作:大熊一成、沢辺伸政、難波秀行、小川悦司、納谷僚介 / キャラクターデザイン&総作画監督:矢吹智美 / 美術設定:綱頭瑛子 / 美術監督:畠山佑貴 / 撮影監督:星名工 / 編集:三嶋章紀(三嶋編集室) / CG監督:さいとうつかさ / 音楽:富貴晴美 / 主題歌&挿入歌:eill / 声の出演:鈴鹿央士、飯豊まりえ、畠中祐、小宮有紗、照井春佳、小山力也、中村悠人、金澤まい、小林星蘭 / アニメーション制作:CLAP / 配給:Pony Canyon
2022年日本作品 / 上映時間:1時間24分
2022年9月9日日本公開
公式サイト : https://natsuton.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2022/9/15)


[粗筋]
 どこかに、《ウラシマトンネル》というものがある。そこを通ると、100歳になってしまう代わり、なんでも望みが叶うという。
 田舎町に暮らす高校2年生の塔野カオル(鈴鹿央士)はある日、線路から下ったところにある森の中に、奇妙なトンネルを見つける。酔っ払った父(小山力也)に罵倒され、家を飛び出したカオルは衝動的にこのトンネルに飛び込む。そこで見つけたのは、かつて飼っていたインコと、数年前に亡くなった妹・カレン(小林星蘭)のサンダルだった。
 衝撃を受け家に戻ったカオルは、自分が家を飛び出してから既に1週間が経過している、と言われる。カオルは、自分が見つけたのが《ウラシマトンネル》だと気づいた。
 ふたたびトンネルに赴いたカオルだが、少し踏み入ったところで、同級生の花城あんず(飯豊まりえ)が随いてきたことに気づいて、慌てて彼女を引っ張りトンネルを飛び出す。まだ日が射していたはずなのに、既に暗くなった空に、あんずも異常な場所であることを知る。
 カオル同様、そこが《ウラシマトンネル》である、と考えたあんずは、カオルにひとつの提案をする。夏休みを費やして、トンネルの法則性を調査し、最小限のリスクでお互いが求めるものを手に入れよう、と言うのだ。戸惑いながらも、カオルはこの提案を受け入れる。
 そうして、カオルにとって忘れられない夏が始まった――


[感想]
 出だしはファンタジー味のある“ボーイ・ミーツ・ガール”の体だが、その実、結構しっかりとSFをしている。
 如実になるのは、トンネルの“特性”を調べ始めるくだりからだ。そのまま進めば、ふたたび出口に戻ったときには大きく時間が過ぎている。だが、トンネルを進むのは、目的のものを得られるまででいいのだから、その法則性を推理すれば、最小限のリスクで済む。打算的、理性的なこの判断が、ファンタジーにSFとしての強度をもたらしている。もし漫然と潜入し、無為に影響を受けているだけなら、ひどくボンヤリとした物語になりかねなかった。
 この“トンネルの研究”という柱があるからこそ、本篇は青春ドラマとしても優れた仕上がりになっている。トンネルの要素がなければ、本篇で描かれるドラマ、イベントは陳腐なまでに定番なのだ。だが、《ウラシマトンネル》を研究するということ、そこに至るふたりの動機が、カオルとあんずの絆となり、ドラマとしての芯を通す。陳腐なイベントが、物語の中で光りをまとってくる。手法としては伝統的だが、本篇はツボをわきまえていて巧い。
 カオルとあんず、それぞれが《ウラシマトンネル》に託した願いと、その違いも彼らの物語にとって強い意味を持つ。あんずの願いが抽象的でありながら、明確な自分の“利益”を求めるものであるのに対し、カオルは願いそのものの目指すものが非常に明快でありながら、ある意味で自分自身をも代償に捧げるものだ。最初はふたりとも意識していないが、この違いが終盤での行動を決定づけ、唯一無二のドラマを紡ぎあげる。この《ウラシマトンネル》という着想の、理想的な見せ方のひとつと言っていい。
 ただ、個人的には、これだけか? という疑問を禁じ得なかったのも確かだ。こういう特殊な“機能”は、別の人間によっていちど発見されている、或いは、カオルたちの動向をきっかけに勘づいて関わる第三者が現れる、といった変化、バリエーションがあっても良かったように思う。もっとも、そうすると物語が膨らみすぎて尺が伸びてしまうのも確かで、ちらほらと登場する友人たちでさえまともに絡まないのも、作り手としての選択の結果だろう。
 だがそのために、観終わったとき、それ以上の“膨らみ”が与えられていない、とも感じる。確かに整理され、隙なく組み立てられており、しかも“ボーイ・ミーツ・ガール”として独創的、感動的な結末であるのは間違いないのだが、その先の余韻がどこか乏しい。あまりにも綺麗に“ふたり”の物語として完結して、本来ならあるはずの、その周囲の人びとの物語や心象に目が行かない。なにせ描写が乏しいので、想像がしづらいのだ。入場者特典として、原作者自らが書き下ろした後日譚の小説が読めるのだが、そちらを参照しても世界はあまり広がらない。未来は描かれているが、どこまでも彼らの物語で、ある意味贅肉が落ちすぎている。まるで周囲のものが、物語を動かすために反射を起こす筋肉のようだ。
 むろん、物語としては非常に端整で、この緊密ぶりを理想として評価するひともいるだろう。ただ、私の感覚では、もう少し周りに目を向けて欲しかったように思う。なまじヴィジュアル的にも、ファンタジー的な空想性、技術を活かした遊び心が籠められて優秀だっただけに、物語にもゆとりがないことが惜しまれるのだ――いい作品なのだけど、突き抜けるにもう一つ、パワーが足りない。


関連作品:
シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』/『未来のミライ』/『プロメア<前日譚つき>』/『ヒーリングっど プリキュア ゆめのまちでキュン!っとGoGo!大変身!!
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