『キングスマン:ファースト・エージェント(字幕)』

ユナイテッド・シネマ豊洲の入っているららぽーと豊洲エントランス脇の壁面に掲示された『キングスマン:ファースト・エージェント』ポスター。
ユナイテッド・シネマ豊洲の入っているららぽーと豊洲エントランス脇の壁面に掲示された『キングスマン:ファースト・エージェント』ポスター。

原題:“The King’s Man” / 原作:マーク・ミラー&デイヴ・ギボンズ / 監督&原案:マシュー・ヴォーン / 脚本:マシュー・ヴォーン、カール・ガイダシェク / 製作:アダム・ボーリング、デヴィッド・リード、マシュー・ヴォーン / 製作総指揮:レイフ・ファインズ、デイヴ・ギボンズ、スティーブン・マークス、マーク・ミラー、アンガス・モア・ゴードン、クラウディア・シッファー / 撮影監督:ベン・デイヴィス / プロダクション・デザイナー:ダーレン・ギルフォード / 編集:ジェイソン・バランタイン、ロバート・ホール / 衣装:ミシェル・クラプトン / キャスティング:レグ・ピースコート=アドガートン / 音楽:ドミニク・ルイス、マシュー・マージェソン / 出演:レイフ・ファインズ、ハリス・ディキンソン、ジャイモン・フンスー、ジェマ・アータートン、リス・エヴァンス、トム・ホランダー、チャールズ・ダンス、マシュー・グード、ダニエル・ブリュール、ヴァレリー・パフナー、アレクサンドラ・マリア・ララ、アーロン・テイラー=ジョンソン / クラウディ製作 / 配給:Walt Disney Japan
2021年イギリス、アメリカ合作 / 上映時間:2時間11分 / 日本語字幕:松崎広幸 / PG12
2021年12月24日日本公開
公式サイト : https://www.20thcenturystudios.jp/movie/kingsman_fa
ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2021/12/28)


[粗筋]
 1902年、ボーア戦争のただなかにある南アフリカの捕虜収容所を、オーランド・オックスフォード公(レイフ・ファインズ)が視察に訪れた。盟友である将軍キッチナーに対し、捕虜の待遇改善を訴えていたその矢先、狙撃手の銃弾が収容所に放たれた。標的であったキッチナーは無事だったが、オックスフォード公は右脚を負傷、不運にもキッチナーを狙った弾道に居合わせてしまったオックスフォード公の妻エミリー(アレクサンドラ・マリア・ララ)は急所に被弾してしまった。息を引き取る前、オックスフォード公の腕のなかでエミリーは「息子には2度と戦争を見せないで」と訴えた。
 ――それから12年。エミリーの思いとは裏腹に、世界は極度の緊張のさなかにあった。親族同士であるイングランド国王ジョージ、ロシア皇帝ニコライ、ドイツ皇帝ヴィルヘルムは幼少時からの対立を側近によって煽られるかたちで拗らせ、大国間の関係は悪化の一途を辿っている。それは人類史上例のない戦争の予兆であった。
 キッチナーは和平の鍵を握るオーストリア=ハンガリー帝国の皇位継承者フランツ・フェルディナント大公に魔手が迫っていることを察すると、人目を避けるため、サヴィル・ロウの高級テイラー《キングスマン》でオックスフォード公と成長した長男コンラッド(ハリス・ディキンソン)に接触、大公の公式訪問の護衛を頼んだ。
 果たせるかな、沿道に詰めかけたギャラリーのなかから襲撃者は現れた。オックスフォード公の機転によっていちどは難を免れるが、不幸なトラブルによってフェルディナント大公夫妻は殺害されてしまった。これにより世界情勢は一気に悪化、世界大戦に発展してしまう。
 オックスフォード公はコンラッドが戦争に行くことを望まなかったが、使命感に満ちた青年に育っていたコンラッドは、自分だけが安全な場所にいたくない、と軍隊に志願する。しかしオックスフォード公は、自分なりの戦い方があることを初めて我が子に告げた――平和主義者という表向きの顔を隠れ蓑に、ショーラ(ジャイモン・フンスー)やポリー(ジェマ・アータートン)ら使用人たちの情報網を利用して各国の情報を収集、必要とあらば自ら危地に赴き解決を図っていた。
 そうしてオックスフォード公が築いたネットワークはやがて、国家に属しない諜報組織《キングスマン》へと繋がっていく。しかしその前には、大きな悲劇が待ち構えていた――


[感想]
 シリーズ3作目だが、前2作のキャラクターは一切登場しない。現代を舞台に、様々な空想科学で彩った先行作に対し、本篇は第一次世界大戦前夜からその終盤までを背景に、先行作に繋がる、国家に属しない諜報機関《キングスマン》が如何にして誕生したか、を描いている。
 それゆえに、シリーズ作品ではあるが、作り方も楽しみ方も従来と趣を違えている。旧作は、往年のスパイ・アクションの醍醐味を拡張した大袈裟で魅力的なギミックを多用し、裏切りと驚きが入り乱れるプロットの起伏、そして伏線が寄与する胸熱な展開などが主な魅力だった。本篇でもその方向性を踏襲はしているが、しかしそれ以上に目を惹くのは、現実の歴史に物語を食い込ませていることだ。
 よほどちゃんとこの時代を綴った作品に接していないと解らないものも少なくないが、かなり多くの歴史的人物が登場する。ダンスのような格闘で、アクション・シーンでも存在感を発揮するラスプーチンにまず目が行ってしまうが、イングランドとドイツ、そしてロシアという3つの大国をそれぞれに治める皇帝(すべてトム・ホランダー)や、語り伝えられるスパイのマタ・ハリ(ヴァレリー・パフナー)、ドイツの政治に影響をもたらしたエリック・ヤン・ハヌッセン(ダニエル・ブリュール)など、いささかオカルト、通俗的な著名人が絡んでくる。当時の交通網や通信網を考慮すると、さすがにこれだけ広範囲にいる者が近い目的で結託していた、というのは荒唐無稽に過ぎるが、だからこそ面白い。
 ただ、そちらに気を使いすぎたのか、旧作にあったアクション・シーンの派手さやトリッキーな趣向は薄れてしまった。前述したラスプーチンの、コサック・ダンスを融合したような格闘をはじめ、ユニークな工夫は随所に認められるが、先行2作の全体像で仕掛けるようなダイナミックさは乏しくなった。よほど細かなアイディアや表現の工夫に目の行くアクション映画好きでないと、本篇には物足りなさを感じるかも知れない――つまりは、細部に目を向ければ相変わらずアイディアに満ちた作品なのだが、先行2作のような強烈な仕掛けはないので、全体のイメージは劣って映ってしまう。
 また展開においても、先行作と比較すると意外性に欠くように感じられる。実際のところ、中盤で見事に意表を突く趣向はあるのだが、これもクライマックスでひっくり返すような爽快感を与えるまでには至らないので、どうしても見劣りしてしまう。旧作と同じ感覚でいると、終盤で「あれ? もうひとひねりないの?」と思ってしまい、消化不良に陥る可能性はある。
 とはいえそれは、発想自体に前作を超えるものを求めてしまうが故のジレンマで、作品としては整っている。歴史上に実在する人物を絡め、その延長線上に《キングスマン》がいる、という感覚は、旧作から追ってきた者は知的興奮を味わえる。史実からさほど離れていないところで繰り広げられる陰謀のドラマとアクションは、往年の冒険ドラマに通じるものだ。また、劇中のの出来事が《キングスマン》に結実するにはだいぶ時間を要するが、旧作を観てきた者なら引っかかるキーワードが随所にちりばめられていて、いちいち嬉しくなってしまう。そして、全体としての驚きや衝撃には繋がりにくいが、シリーズ先行作と呼応する描写、ドラマが随所に見られ、ファンならば胸が熱くなるシチュエーションに富んでいる。恐らく、ファンのすべてが望んでいる作りではないが、しかし確かに、一筋縄では行かないファンサーヴィスが無数に仕掛けられているのだ。
 旧作ほどの意外性、衝撃はない、とは言い条、歴史的事実を巧みに織り交ぜながら感動的なドラマを構築する手管は巧みだ。なかなか難しいのも事実だが、旧作のような派手な趣向を求めなければ、違った充足感を色々なかたちで得られる。本篇はいわば、《キングスマン》という、特異なスパイ・アクションとして膨らんできた世界観の新たな活用形だ。決して、すべてのファンを納得はさせてくれないかも知れないが、そこにはクリエイターの誠実さと冒険心が確かに息づいている。

 なお、既に製作が発表されている続篇は、1作目・2作目に続くエグジーとハリーの物語であり、現時点ではその完結篇になる、と予告されている。
 しかし、《キングスマン》の世界観が現実と交錯する本篇の趣向に監督自身は可能性を感じているようで、或いはその前後にもうひとつ、本篇の手法の延長上における《キングスマン》の物語が楽しめるかも知れない。
 ただ、オリジナル・シリーズもそうだが、続篇がまたすべての観客の期待した通りになる、とは考えにくい――むしろ、本篇の内容を思えば、また思わぬ意外性を用意してくる可能性がある。そういう意味で、更なる衝撃に備えるためにも、本篇は鑑賞すべきだろう。


関連作品:
キングスマン』/『キングスマン:ゴールデン・サークル
キック・アス』/『X-MEN:ファースト・ジェネレーション
007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』/『シャザム!』/『アンコール!!』/『アメイジング・スパイダーマン』/『ボヘミアン・ラプソディ』/『Mank/マンク』/『マリアンヌ』/『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』/『コリーニ事件』/『TENET テネット
レッド・バロン』/『1917 命をかけた伝令』/『ヘルボーイ(2019)

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