『ザ・フォーリナー/復讐者』

新宿ピカデリー、スクリーン5入口に表示されたキーヴィジュアル。

原題:“The Foreigner” / 原作:スティーブン・レザー『チャイナマン』 / 監督:マーティン・キャンベル / 脚本:デヴィッド・マルコーニ / 製作:ジャッキー・チェン、ウェイン・マーク・ゴッドフリー、アーサー・サーキシアン、スコット・ランプリン、ジェイミー・マーシャル、クレア・カップチャック、キャシー・シュルマン、ケイ・キン・ハン、ジョン・ゼン / 撮影監督:デヴィッド・タッターサル / プロダクション・デザイナー:アレックス・キャメロン / 編集:アンジェラ・M・カタンサーロ / 衣装:アレックス・ボヴェイルド / キャスティング:デビー・マクウィリアムズ / 音楽:クリフ・マルティネス / 出演:ジャッキー・チェンピアース・ブロスナン、オーラ・ブラディ、レイ・フィアロン、チャーリー・マーフィ、スティーブン・ホーガン、ロリー・フレック・バーン、マイケル・ミケルハットン、ケイティ・ルング / 配給:TWIN

2017年イギリス、アメリカ、中国合作 / 上映時間:1時間53分 / 日本語字幕:寺尾次郎

2019年5月3日日本公開

公式サイト : http://the-foreigner.jp/

新宿ピカデリーにて初見(2019/5/4)



[粗筋]

 ロンドンで中華料理店を営むクワン・ノク・ミン(ジャッキー・チェン)の15歳の娘が亡くなった。プロムのためのドレスを引き取りに服飾店に立ち寄った際、近接する銀行を襲ったテロに巻き込まれたのだ。

 それ以来、クワンは鬱ぎこんだ。なんとしてでも犯人を罰して欲しい、と警察に訴え、なかなか進まない捜査に苛立ち、捜査主任のリチャード・ブロムリー警視長(レイ・フィアロン)をなんとも訪ねて訴え続けた。

 この時点で、爆破がUDIの急進派の犯行であることは、警察、そして政府ともに把握していた。そしてそれ故に、北アイルランド副首相のリアム・ヘネシー(ピアース・ブロスナン)が難しい立場に置かれていた。彼はかつてUDIのメンバーであり、過激な作戦にも携わったがその後転向、人脈を駆使して休戦交渉に力を注いでいた。しかし、爆発物の素性からUDIの犯行が確実視される事件の発生により、至急犯人を炙り出すよう求められる。ヘネシーは交渉のために、UDI側の政治犯に対する恩赦を求めたが、この交渉も難航していた。

 そんなヘネシーに、クアンもまた目をつけた。待てど暮らせど進まない捜査に苛立ちを募らせ、怒りを滾らせたクワンは、元UDIであるヘネシーが犯人の情報を持っている、と考えたのだ。

 政府と組織のあいだで板挟みになったヘネシーは、被害者とは言い条、一般人に過ぎないクワンの問い合わせにまで気遣う余裕はなかった。だが、やがてクワンの怒りは頂点に達する。彼は自らの店を、長年辛苦を共にしてきた従業員に譲ると、荷物を車に載せ、北アイルランドの首都ベルファストへと向かう。ヘネシーの地元であり、残された唯一の家族を奪ったUDIが根城とする土地へ。

 クワンが直接訪ねてきてもなお、まだヘネシーはクワンを侮っていた。日用品しか入っていなかった荷物で爆弾を製造し、トイレを破壊されるまでは――



[感想]

ライジング・ドラゴン』を最後に、往年の過激なスタントを軸とするアクションは封印する、と宣言したジャッキーだが、決してアクションから訣別したわけではない、というのはそれ以降の作品群からも明確だ。異なるのは、肉体の衰えと自らのキャリアが裏打ちするキャラクター性に向き合い、それを活かす役柄を求める方へとシフトした点だろう。かつてはジャッキーの演じるキャラクターにいなかった“家族”に言及したものが増え、若手や周囲のキャラクターを立てる位置づけも選ぶようになった。

 そして、そんな今のジャッキーだからこそ、本篇の役柄はうってつけだったと言える。

 本篇のジャッキーは、従来のイメージからかけ離れたレベルで笑わない。我が子を奪われた親の役なのだから当然だ、と思うかも知れないが、その直前のシーンでさえ本篇で彼が演じるクワンに笑顔はない。背負っている過去もそうだが、卒業を控え羽ばたこうとしている娘を前に心配が先に立っているので、笑うどころではないのも頷ける。いずれにせよ本篇は最初から最後までジャッキーは笑うことはない。

 かと言って、随所で怒りや哀しみを露わにするわけでもない。警察やヘネシーに直訴する際、少なくとも最初は礼儀正しく話をしようとする。だが、そのうち次第に感情を噴出させる。娘を突如として奪われた親ならば自然な反応と言えるが、しかしこの感情の大きな揺れが、その後の復讐劇に説得力をもたらしている。

 本篇の凄味は、アクションが始まって以降の無表情ぶりにこそあると言える。初めてクワンが牙を剥くくだり、直前に仕掛けをする顔に、表情はほとんどない。用意していたものを淡々と設置する様が描かれる。しかしあまりにも大きなその影響に、彼がプロフェッショナルであることの裏打ちと共に激情の凄まじさが見事に表現されている。演出の妙ももちろんあるが、ジャッキーのアクション俳優としての貫禄がものを言っているのは間違いない。

 だがその一方で、本篇はただの復讐譚に留まらない。実のところジャッキー演じるクワンは、序盤では敵が誰なのかは解らずにいる。背景を調査し、そのなかで嗅ぎ当てたUDI出身の政治家であるヘネシーに目をつけ、追求を始める。かつての活動家としての人脈を利用し、イメージを逆手に取った戦略で地位を築いたヘネシーは、停戦交渉が続く中での事件によって既に難しい立ち回りを迫られている。そこへ加えて、ただの風采の上がらないアジアの老人、程度に思っていたクワンの激しいプレッシャーがかかることで、更に事態が混沌としていく。

 いったい黒幕は誰なのか、クワンは誰に対して牙を剥くのか? という謎とスリルとを牽引力にして物語は展開する。観客側は冒頭で悲劇に直面するクワンに感情移入して鑑賞してしまうところだが、しかし展開を追ううちにクワンがいっそ“恐怖”の象徴のようにも見えてくるのが興味深い。そこには共感を拒絶する、クワンという人物が秘めた戦士としての透徹したプロフェッショナルぶりが確かに表出しているのだ。

 クライマックスを超えてもなお緊迫感を維持し、そうして描かれるエピローグは一種のドライさを滲ませつつも、従来のジャッキー映画に対する敬意を籠めた粋さがある。従来のジャッキー映画とは手触りもトーンも異なるが、彼のキャリアと経験値があればこそ為し得る、いまのジャッキーならではの映画と言えよう。



関連作品:

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