『キャメラを止めるな!』

TOHOシネマズシャンテが入っているピル外壁にあしらわれた『キャメラを止めるな!』キーヴィジュアル。
TOHOシネマズシャンテが入っているピル外壁にあしらわれた『キャメラを止めるな!』キーヴィジュアル。

原題:“Coupez!” / 英題:“Final Cut” / 原作:上田慎一郎監督『カメラを止めるな!』 / 監督&脚色:ミシェル・アザナヴィシウス / 製作:ノエミー・ドヴィード、ブラヒム・シウア、ミシェル・アザナヴィシウス、ヴァンサン・マラヴァル、アラン・デ・ラ・マタ、ジョン・ペノッティ / 製作総指揮:シドニー・キンメル、ロバート・フリードランド、チャーリー・コーウィン、キリアン・カーウィン、マイケル・ホーガン、テッド・ジョンソン、中野祐嗣、市橋浩治、和田亮一、フロランス・ガストー、オリヴィエ・テリ・ラピネ、ロランス・クラーク / 撮影監督:ジョナタン・リケブール / プロダクション・デザイナー:ジョアン・ル・ボル / 編集:ミカエル・デュモンティエ、ミシェル・アザナヴィシウス / 衣装:ヴィルジニー・モンテル / メイクアップ・アーティスト:ヴェスナ・ペボルデ / ヘアスタイリスト:マーゴ・ブランシュ / 音楽:アレクサンドル・デスプラ / 出演:ロマン・デュリス、ベレニス・ベジョ、竹原芳子、グレゴリー・ガドゥボワ、フィネガン・オールドフィールド、マチルダ・ルッツ、セバスチャン・サシャーニュ、ラファエル・クエナード、リエム・セーラム、シモン・アザナヴィシウス、アグネス・ハーステル、チャーリー・デュポン、ジャン=パスカル・ザディ、ルアナ・バイラミ、ライカ・アザナヴィシウス、成田結美 / 配給:GAGA
2022年フランス作品 / 上映時間:1時間52分 / 日本語字幕:松崎広幸
2022年7月15日日本公開
公式サイト : https://gaga.ne.jp/cametome/
TOHOシネマズシャンテにて初見(2022/7/16)


[粗筋]
 廃墟で行われていたゾンビ映画の撮影は波乱含みだった。監督のヒグラシ(ロマン・デュリス)がこだわるあまり、クライマックスはテイク31にも及んでいる。俳優もスタッフも疲弊が激しかった。
 どうにか休憩に入ったところで、屋外に煙草を吸いに出かけた助監督ヤマコシ(セバスチャン・サシャーニュ)が悲鳴を上げた。不気味な顔色をしたカメラマンのホソダ(グレゴリー・ガドゥボワ)に襲撃され、腕をもがれたのである。
 その場にいた俳優のケン(フィネガン・オールドフィールド)とチナツ(マチルダ・ルッツ)、メイク担当のナツミ(ベレニス・ベジョ)がホソダを締めだしたが、そのあいだに、息絶えたはずのヤマコシが姿を消していた。動揺するケンたちを、蘇ったヤマコシが襲撃する。
 ゾンビ映画撮影の現場はいまや、本物のゾンビの脅威に晒されていた――


[感想]
 オリジナルは、ここ数年の日本映画でも特筆すべき異例の大ヒットとなった作品である。制作費はわずか300万円程度、封切り時点での劇場はたったふたつ、と典型的な国内のミニシアター向け作品だったが、口コミにより急激に話題が拡散、多くの著名人もそのタイトルを上げるようになって、最終的に制作費の数百倍に達する興収を上げた。海外の映画祭でも好評を博した結果が、このリメイクである。監督は『アーティスト』でアカデミー賞に輝いたミシェル・アサナヴィシウス、出演はハリウッド大作にも参加するロマン・デュリスにベレニス・ベジョ、制作費は海外としては控えめだがオリジナルとは雲泥の差の5億円、と、そのスケールアップぶりだけでも溜息が漏れる。
 嬉しいのは、スタッフがオリジナルに最大限のリスペクトを捧げ、本質や魅力をいっさい損なうことなくリメイクしている。しかも、新たなアイディアばかりか、オリジナルがあってこそ成立する趣向まで追加しているのだから最高だ。
 基本的な趣向、展開はほぼそのまま温存している。それ故に、オリジナル未見のかたは、ほぼオリジナルに初めて触れたときの感覚を味わえるはずだ。ホラー映画らしい導入に、細かく紛れ込む違和感。恐らく序盤だけなら、高い評価は出来ない。しかしこれが中盤以降の描写で様相ががらりと変わっていく。細やかに張り巡らされた伏線、その見事な“昇華”がだんだん快感に変わっていき、最後には爽快感へと繋がっていく。
 ただ確実に言えるのは、撮影規模も技術も格段にオリジナルより向上しているので、画面に安定感がある。舞台となる建築物の由来は、工場だったオリジナルからショッピングセンターの廃墟に変更になっているが、障害物が減った分、ワンカットによる撮影の邪魔をせず、流れが掴みやすくなった。
 舞台の設定ばかりではなく、本篇は原作で用いられたアイディアをより効果的に、インパクトを強く表現している。やはり仕掛けに触れてしまうので、細かに例を挙げることは出来ないのだが、オリジナルではさらっとした描写に留まっていた趣向も意識的に際立てている。人によっては眉をひそめるくらいになっているのも事実ながら、物語の切迫感、独特の空気も強くなった。
 技術的な洗練、予算の潤沢さがクオリティの向上に繋がっているのも確かだが、何よりも重要なのは、オリジナルにもあった“映画作り”への想いをしっかりと受け継いだ仕上がりになっている点だろう。制約の多さ、時間に追われる緊迫感がありながら、そこに費やされる熱量が観客の感情を巧みに掻き乱す。毒も少々きつめになっているが、しかしそのぶん、中盤以降の緊張感とスピード感、そして爽快感も増しているのだ。
 基本的に同じ、と言ってしまうと、わざわざリメイクした意義を問いたくなる意地悪な人も多いだろうが、本篇はオリジナルを知っていてもいなくても楽しめ、オリジナルの価値さえ高める趣向を籠めた、理想的なリメイクと言える。本篇だけ鑑賞してもいいが、オリジナルを知らない人はあえて本篇のあとにオリジナルを鑑賞しても発見があるはずだ。オリジナルを存分に堪能した人も、だからこそ観ておくべきだと思う。

 ……オリジナルをまだ観ていない人が、最初に味わえるであろう面白さをなるべく削がないように書いたつもりだが、正直、隔靴掻痒の感は否めない。未見の方は、鑑賞後に読み直して、察していただけると幸い。


関連作品:
カメラを止めるな!
アーティスト
ゲティ家の身代金』/『やがて復讐という名の雨』/『ミュンヘン』/『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』/『燃ゆる女の肖像
ゾンビ [米国劇場公開版]』/『ショーン・オブ・ザ・デッド』/『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』/『REC(レック)(2000)
ザ・リング』/『THE JUON―呪怨―』/『12人の怒れる男』/『ロシアン・ルーレット』/『モールス』/『GODZILLA ゴジラ(2014)』/『マーターズ(2015)』/『ナミヤ雑貨店の奇蹟 -再生-』/『恐怖の報酬【オリジナル完全版】(1977)』/『サスペリア(2018)』/『最高の人生の見つけ方(2019)』/『THE GUILTY/ギルティ(2021)

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