『ロシアン・ルーレット』

『ロシアン・ルーレット』

原題:“13” / 監督&オリジナル脚本:ゲラ・バブルアニ / 脚本:ゲラ・バブルアニ、グレッグ・プルス / 製作:リック・シュウォーツ、ヴァレリオ・モラビート / 製作総指揮:ジャネット・ビュアリング、マギー・モンティース、ブライアン・エドワーズ、ロン・ハーテンバウム、ダグラス・クバー、ゲラ・バブルアニ、マイルズ・ネステル、アンソニー・コーリー、キャロライン・ヤーツコー、フランク・デュバリー / 撮影監督:マイケル・マクドノー / プロダクション・デザイナー:ジェーン・マスキー / 編集:ゲラ・バブルアニ、デヴィッド・グレイ / 衣装:エイミー・ウェストコット / 音楽:マルコ・ベルトラミ、バック・サンダース / 出演:サム・ライリージェイソン・ステイサムミッキー・ロークレイ・ウィンストン、カーティス・ジャクソン、アレックス・スカルスガルド、マイケル・シャノン、エマニュエル・シュリーキー、ギャビー・ホフマン、デヴィッド・ザヤス、ベン・ギャザラ、デイジー・ターハン、ウェイン・デュヴァル、チャック・ジトー、スティーヴン・ジェヴェドン、アシュリー・アトキンソン、ロナルド・ガットマン、ジョン・ベッドフォード・ロイド、ドン・フライ / 配給:Presidio

2010年アメリカ作品 / 上映時間:1時間37分 / 日本語字幕:川又勝利 / PG12

2011年6月18日日本公開

公式サイト : http://www.russian-roulette.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2011/07/05)



[粗筋]

 ヴィンス(サム・ライリー)の家はいま、金銭的に行き詰まっていた。大黒柱である父は骨折して入院しているが、その治療費の支払いが家計を圧迫している。このままでは家も奪われる、という状態だった。ヴィンスは電気技師の資格を取ってもう少し収入をアップさせようと努力しているが、それがいつ助けになるかは解らない。

 天佑は、ある家の配線工事をしているときに訪れた。その家の主人ハリソンは、何やら一攫千金の好機をもたらす招待状を手にしたようだったが、直後に薬物の過剰摂取で死んでしまう。たまたまハリソンが封書を隠す場所を目にしていたヴィンスは招待状を密かにくすねると、その指示に従って、荷物を受け取る。

 都会の駅に導かれたかと思うと、そのあと郊外の人気のない分かれ道へ向かうよう指示され、やがてやって来た車で、更に人里離れた土地へと赴く。身体検査をされ、着替えを求められたヴィンスが最後に運び込まれたのは、一軒の館。

 既に集まった多くの人の顔には興奮と、強烈な緊張感とが窺えた。やがてヴィンスは、ハリソンをこの謎めいたイベントに呼び寄せた当人たちと出会う。当然ながら詰問してくる彼らに、ハリソンが急死し、自分が成り代わって来たことを告げると、彼らは苦い顔をしながらも、ヴィンスを代役として受け入れた。

 だが、ここでいったい何が行われようとしているのか――その正体を聞かされると、ヴィンスは軽率に乗り込んできたことを、激しく後悔する……

[感想]

 この作品は、2005年にゲラ・バブルアニ監督がフランス資本で製作し、好事家を瞠目させた映画『13/ザメッティ』を監督自らがハリウッドの資本とキャストでリメイクしたものである。

 ある時期からハリウッドでは、他国で製作されたインパクトのある秀作をリメイクする、ということが流行し始めた。トム・クルーズニコラス・ケイジなど、製作にも着手しているスターたちがアジアなどの映画のリメイク権を率先して購入し、日本でそれらの作品が公開されるときには“○○がリメイク!”などという麗々しい宣伝文句が添えられることも少なくない。

 ただ、数多の企画が浮上しては立ち消えることが日常のハリウッドのこと、折からの世界的な不況も手伝って、こうしたリメイク企画はすっかり音沙汰がなくなってしまうか、無事完成に漕ぎつけたとしても中途半端な仕上がりで、日本に届くときには良くてDVD直行、悪い場合は日本でのリリースがないままに終わってしまうことも珍しくない。

 それ故に、監督自らが手懸けるという本篇の日本輸入も、私は内心危ぶんでいたのだが、無事公開の運びとなった。

 恐らくその背景には、リメイクものとしては異例に豪華な出演陣がものを言っているのかも知れない。特にアジア産ホラーのリメイクなどは、若手で知名度の低い俳優がメインに就くことが多いせいで余計にDVD直行するパターンが多いのだが、本篇は人気アクション・スターのジェイソン・ステイサムに最近華々しく復活したミッキー・ロークという大物が並び、主人公を演じたサム・ライリーや、“ゲーム”の進行役を務めるマイケル・シャノンなど、日本ではまだまだ知られていないが評価の高い俳優も揃っていることも有利に働いたのだろうか。

 だが、出演俳優以上に、こういうリメイク作品で不安を覚えるのは、果たしてどの程度、オリジナルの美点を留めているのか、という点である。ハリウッド的な文法、成功法に閉じ込められた結果、特徴的な味わいも主題性も損なってしまう、ということはままあり、たとえ同じ監督が出馬したとしても、簡単に安心出来ないのだ。

 実際に完成された作品を鑑賞すると、本篇の場合はほぼ杞憂に終わった、と言っていい。基本的なプロット、主題はまったく変えておらず、手触りもほぼオリジナルに近い。

 フランス版は現代劇ながら敢えて白黒で製作して、ノワールめいた感触、独特の頽廃的な空気を醸成していたが、本篇はカラーに戻している。そうすることでオリジナルと差別化はしているが、気配りの行き届いたカメラワークと、全篇に漲るビリビリとした緊張感は、いい意味で相通じる印象を生み出している。

 オリジナルと比較して最も異なるのは、主人公以外の登場人物、ゲームの参加者にも目を向けていることだろう。過去のゲームにも勝利しているが、弟ジャスパー(ジェイソン・ステイサム)に利用されているロナルド(レイ・ウィンストン)や、刑務所からわざわざ連れ出されたパトリック(ミッキー・ローク)の描写は、メインであるヴィンスの境遇とうまく呼応しあって、よりいっそう複雑なムードを醸しだしている。それぞれに名優、スターを配しているから描写を増やした、と意地悪な見方をすることも出来るが、そのために作品が破綻していないどころか、味わいを深めているのは評価すべきポイントだろう。

 クライマックスの展開もほぼオリジナルと同様ながら、ちょっとした工夫を凝らし、サスペンスと空虚な後味を強めるのに成功している。ハリウッドの大物、注目株を多数起用しながら、ハリウッド的でないこのラストシーンを許し、忘れがたい余韻を観客にもたらしているそのこと自体、本篇がハリウッドで製作された意義と言えるかも知れない。

 全篇で血の滾るようなサスペンスを求めたり、駆け引きから生じる緊迫感を求めると、間違いなく物足りない作品である。だが、この作品はそういう、正統派の娯楽からずれたところにこそ狙いを絞り、成果を上げている。有り体でない緊張感、一筋縄で行かない余韻を欲している人にこそお薦めしたい。

関連作品:

13/ザメッティ

エクスペンダブルズ

レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで

ベオウルフ/呪われし勇者

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