『マカロニウエスタン 800発の銃弾』


『マカロニ・ウエスタン 800発の銃弾』DVD Video商品ページ(Amazon.co.jp)。

原題:“800 baras” / 監督&製作:アレックス・デ・ラ・イグレシア / 脚本:ホルヘ・ゲリカエチェバリア、アレックス・デ・ラ・イグレシア / 撮影監督:フラヴィオ・マルティネス・ラビアーノ / 美術監督:ホセ・ルイス・アリサバラガ、アルトゥーロ・ガリシア・“ブラッファ” / 編集:アレハンドロ・ラザロ / 衣装:パコ・デルガド / キャスティング:アマヤ・ディエス、マメン・モヤ / 音楽:ロケ・バニョス / 出演:サンチョ・ガルシア、アンヘル・デ・アンドレス・ロペス、カルメン・マウラ、ルイス・カストロ、マヌエル・タリャフェ、エンリケ・マルティネス、ルシアノ・フェデリコ、エドゥアルド・ゴメス、テレレ・パヴェス、ラモン・バレア / 初公開時配給:cinequanon / 映像ソフト発売元:Amuse Soft Entertainment
2002年スペイン作品 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:松浦美奈
2005年10月15日日本公開
2006年3月24日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2021/5/29)


[粗筋]
 実業家の母ラウラ(カルメン・マウラ)に育てられたカルロス(ルイス・カストロ)はすっかり悪ガキになってしまった。大豪邸に引っ越した夜、カルロスは母ラウラ(カルメン・マウラ)の荷物で発見した写真から、父と祖父がハリウッドの西部劇に参加していたことを祖母(テレレ・パヴァス)から教えられる。父が事故で死んだ、とは聞かされていたが、祖父がいまも存命で、アルメリア地方にいることも初めて知ったカルロスは、学校のスキー旅行に行くふりをして、ラウラに持たされたカードを使いアルメリアへと赴く。
 カルロスの祖父フリアン(サンチョ・ガルシア)はアルメリア地方で、かつてマカロニ・ウエスタンの撮影に用いられたセットを流用したウエスタン村のスタント・ショーに出演していた。かつてクリント・イーストウッドのスタントも務めていた、と豪語するフリアンは、日々酒浸りになりながらも、主役の保安官としてショーを取り仕切っている。
 どうやらカルロスの父親の死にも関係があるらしいフリアンにとって、カルロスは決して逢いたくない相手だった。すぐさま追い返すが、断りもなく旅行を抜け出してきたカルロスは村に舞い戻ってきてしまう。だが、フリアンのみに降って湧いたトラブルを、カルロスの存在が解決してくれたことで、ふたりは一気に距離を縮める。
 その頃、ラウラは教師の連絡により、カルロスが旅行に来ていないことを知る。フリアンの元を訪ねた、と察した彼女はすぐさま駆けつけるが、それが更なるトラブルを招くこととなった……


『マカロニウエスタン 800発の銃弾』本篇映像より引用。
『マカロニウエスタン 800発の銃弾』本篇映像より引用。


[感想]
 タイトルは“マカロニ・ウエスタン”だが、正直ウエスタンではない。西部劇が撮影されたスペインの村を舞台にしたアクション――ではあるが、それも中心とは言いがたい。
 なにせ、上に記した、ざっくりとした粗筋でほぼ半分ほどなのだが、このなかで映画の見せ場としてのアクション・シーンはない。フリアンを中心とするスタント・チームによるウエスタンのショーが行われ、ショーとしては過剰なレベルのスタントが展開するが、はじめからショーの体裁であることを明示しているので、アクションそのものの驚きや衝撃は乏しい。少人数しか観ていないショーでよくやるよ、という笑いは誘われるが、恐らくマカロニ・ウエスタンを望んでいるひとが求めるものではないだろう。
 実のところ、本篇の1時間半近くはだらだらした乱痴気騒ぎと、カルロスの訪問と退出の繰り返しで展開される祖父と孫のドラマのみで構成されていて、アクション映画らしさはもちろん、シリアスな雰囲気にも乏しい。ここで描かれるのは、とうの昔に隆盛は過ぎ去った“西部劇”というジャンルに、遺物である撮影用の村落でショーを行う、というかたちで縋り付く男の滑稽な生き様がメインだ。その有様は、哀愁を帯びながらも狂騒的で、終始滑稽に映る。どちらかと言えば、人情味を感じるスラップスティック・コメディといった趣である。
 ただ、その設定ゆえに、ウエスタンへの愛着、リスペクトは感じられる。ウエスタン・ショーの定番を押さえた組み立てもそうだし、プライヴェートになっても、空砲をぶっ放しながらカウボーイをモチーフにした安酒場に駆け込む姿、全員本物ではないのに、西部劇に登場するならず者を彷彿とさせる言動に、呆れつつも苦笑いさせられる。村に併設された博物館の展示物はあからさまにインチキくさいが、登場するキーワードがしっかりと西部劇、それもまさにマカロニ・ウエスタンのツボを押さえているのも楽しい。
 タイトルにも出てくる“800発の銃弾”が登場するクライマックスはさすがにしっかりとアクション映画の要素が現れてくるが、それでも西部劇の愛好家を満足させる、とは正直肯定しにくい。舞台は西部劇そのもの、スタントマンたちの服装もそれっぽいが、戦う相手はそんなことお構いなしだ。プロテクターやシールドはしっかり装着しているし、煙幕に装甲車まで活用してくる。ここで西部劇の要素を援用した作戦やアクション描写がふんだんに盛り込まれていれば溜飲を下げるところだが、あいにく、そういう意味でインパクトがあるのはアクションパート中盤の仕掛けと、クライマックスの“一騎打ち”のシチュエーションくらいだ。しかも後者は、このシチュエーションを再現していればこそ、釈然としない後味を残してしまうのも惜しい。
 恐らく製作者が本篇で描きたかったのは、喪われていくもの、価値観に縋り付く愚かしさと愛おしさだったのだろう。そういう観点からすれば、刹那的に享楽を味わうフリアンたちの言動も理解できるし、クライマックスで示す決断にも頷けるものがある。そして、そういうスタンスであればこそ、最後に添えられたサプライズに価値が出てくる。
 惜しむらくはこの“サプライズ”、あそこでこそ“本物”の登場が欲しかったが、さすがに実現は叶わなかったらしい。しかし、作品全体を貫くマカロニ・ウエスタンへの愛を昇華させる趣向自体は実に気が利いている。家族にさんざん迷惑をかけながらも、自らが愛したジャンル、仕事にすべてを捧げた男へのはなむけとして、これ以上に相応しいものはない。
 繰り返すが、タイトルにある“マカロニ・ウエスタン”そのものの魅力を望んでいるひとは決して満足はしないだろう。けれど、西部劇という世界観を愛し、最後まで縋り付こうとした男の愚かしさとひたむきさを、苦笑いしつつも敬意と羨望を抱いてしまうはずだ。


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