『失われた龍の系譜 トレース・オブ・ア・ドラゴン』

失われた龍の系譜 [DVD]

英題:“Traces of a Dragon : Jackie Chan & His Lost Family” / 監督:メイベル・チャン / 製作:ウィリー・チェン、ソロン・ソー / 製作総指揮:アレックス・ロウ / 撮影監督:アーサー・ウォン / 編集:モーリス・リー / 音響:キンソン・ツァン / 音楽:ヘンリー・ライ / ナレーション:ティ・ロン / 出演:ファン・ダオロン、ジャッキー・チェン / ジャッキー・チェン提供 / 配給&映像ソフト発売元:MAXAM

2003年中国・香港合作 / 上映時間:1時間36分 / 日本語字幕:?

2005年3月5日日本公開

2005年9月23日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]

公式サイト : http://www.maxam.jp/trace/

DVD Videoにて初見(2014/02/19)



[粗筋]

 ジャッキー・チェンの父チェン・ジーピンは、妻ユエロンが病床に就いたことを機に、今までずっと我が子にも伏せていた、己の来歴を語った。

 長年ジャッキーは、一人っ子として扱われ、本人もそう信じこんでいた。しかし実は、ふたりの兄とふたりの姉がいるのだという。ふたりの姉は母の連れ子であり、ふたりの兄は父と死に別れた前妻とのあいだに産まれた。兄姉の存在自体はジャッキーにとってさほど驚きではなかった。むしろ彼を驚かせたのは、父と母の辿ってきた壮絶な半生である。

 実は父の名は、チェン・ジーピンではない。ジャッキーの父は中国、大東省に生まれている。最初の名をファン・ダオロンという。ジャッキーと同じように、幼少時にカンフーを学んだダオロンは、その技能を活かすため、中国国民党の要人の警護をする職に就いた――それが彼の、苦難に満ちた人生を決定づけたのだった……

[感想]

 ジャッキー・チェンは幼くして演劇の専門学校に入寮し、親と離れての生活を始めた。やがて成長して映画の世界に踏み込むが、いちど挫折して、両親のもとに身を寄せている。そして、かつての出演作を観た映画製作者からの誘いでふたたび香港に舞い戻り、成功への礎を築いた――というあたりのストーリーは、ある程度のファンなら知っている話だろう。ただ、映画界を離れていた頃の彼が向かったのがオーストラリアだった、というのは、冷静に考えると不思議である。何故両親は、幼い彼を香港に残して、海を大きく隔てた地に移っていたのか。

 本篇を観ると、そのことに幾分合点がいくはずである。ジャッキー・チェンの父が辿った激動の人生は、生まれ育った中国大陸から遠く離れることを余儀なくされていたわけだ。

 事実は小説よりも奇なり――という言い回しは個人的には好まない。それは、どれほどよく組み立てられたものでも、虚構というだけで一段低く評価しているから、冷静に現実と比較出来ないだけだろう、と思う(もちろん、下手な虚構も無数にあるのだが)。しかし、本篇でジャッキーの父が語る半生には、この言葉を使いたくなってしまう。まるで大河ドラマを地で行くような、波乱の日々を過ごしてきたのだ。

 本篇ではジャッキーの父の証言を、安易な再現ドラマを挿入せず、ジャッキーの父ファン・ダオロンにジャッキー本人、それに彼の兄姉たちのインタビューと、ジャッキー・チェンの出演作品の映像及び、恐らくは記録映像からの引用で構成している。歴史を物語る映像と並べて見せることで、半端な再現映像などよりも雄弁に、ファン・ダオロンという人物が辿った壮絶な歴史を実感させてくれる。

 面白いことに、ファン・ダオロンの物語はそのまま、中国近代史の一断面を切り取ったものにも見える。中国国民党に所属していたがために、共産党の台頭により始まった放浪の日々。ジャッキーの母と初めて出逢った上海から香港へ。その随所で、ファン・ダオロン、その妻のチャン・ユエロンは歴史に大きく刻まれるような事件を目の当たりにしてきた。その行く先に、ジャッキーという、世界に羽ばたくスターが生まれた、というのが興味深い。

 ジャッキーの与り知らぬところで、失った家族のために行動し、そして妻が死に瀕したことで、時機が来たことを悟り、ジャッキーに打ち明けた、という一連の物語は、確かに中国の歴史が一段落したことを窺わせる。恐らく、ジャッキーがもっとも活躍していた時期に、こんな話をすることは出来なかっただろうし、ましてや映画にまとめられることもなかったはずだ。そういう意味でも象徴的な作品だろう。

 しかし、そうは言いながら、どこか奥歯にものの挟まったような感覚も味わう。かつてより遥かに言論の自由が認められているのは本篇の存在が証明している。だが、それはどの程度のものなのか。かつて国民党に属していた、というファン・ダオロンは、郷里に戻ってのち、何を感じているのか。ジャッキーもまた、父の知られざる過去になにを思ったのか。その、本当に深いところまで踏み込めたようには感じられない。確かに彼らは何かを取り戻した、一方でまだ抑えているものがある、そういうふうに読めてしまう。

 ただ、だからといって本篇で語られることの面白さ、重みが意味を失うわけではない。恐らく当人も知らないうちに育まれていたジャッキー・チェンという優れた映画人の背景を垣間見ると共に、中国という巨大な国が近代に経験した激動を、個人の目線から眺めることが出来る、意義深いドキュメンタリーである。ジャッキーファンならずとも、というより、ジャッキーにこれといった思い入れがなくとも一見の価値がある作品だろう。

関連作品:

ポリス・ストーリー/香港国際警察』/『ポリス・ストーリー2/九龍の眼』/『ポリス・ストーリー3』/『サンダーアーム/龍兄虎弟』/『プロジェクトA』/『ヤング・マスター/師弟出馬』/『1911』/『ライジング・ドラゴン

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