『ザ・ロック』

原題:“The Rock” / 監督:マイケル・ベイ / 脚本:デヴィッド・ウェイスバーグ、ダグラス・クック、マーク・ロスナー / 製作:ジェリー・ブラッカイマー、ドン・シンプソン / 製作総指揮:ショーン・コネリー、ルイス・A・ストローラー、ウィリアム・スチュアート / 撮影監督:ジョン・シュワルツマン / プロダクション・デザイナー:マイケル・ホワイト / 編集:リチャード・フランシス=ブルース / 衣装:ボビー・リード / キャスティング:ビリー・ホプキンス、ハイディ・レヴィット / 音楽:ニック・グレニー=スミス、ハンス・ジマー / 出演:ショーン・コネリー、ニコラス・ケイジ、エド・ハリス、ジョン・スペンサー、デヴィッド・モース、ウィリアム・フォーサイス、マイケル・バーン、ヴァネッサ・マーシル / 初公開時配給:BUENA VISTA INTERNATIONAL(JAPAN) / 映像ソフト最新盤発売元:Walt Disney Japan
1996年アメリカ作品 / 上映時間:2時間15分 / 日本語字幕:戸田奈津子 / PG12
1996年9月14日日本公開
午前十時の映画祭11(2021/04/02~2022/03/31開催)上映作品
2010年9月22日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2021/04/03)


[粗筋]
 3つの戦争で功績を上げた英雄・ハメル准将(エド・ハリス)が、密かに集めた兵士と共に海軍基地に潜入、保管されていたVXガスを仕込んだミサイル15基を盗み出した。彼らは旧アルカトラズ刑務所の見学ツアーに紛れ込んで上陸すると、ガイドや他の観光客を牢屋に閉じこめ人質にした。
 ハメル准将は、戦争の中で無為に命を散らした部下や、功績を上げたにも拘わらず遺族に対し補償はおろか正しい説明すら行わない政府に対して憤っていた。ハメル准将たちの要求は1億ドル、その多くは部下の遺族に分配し、残りは彼らが有意義と考える用途に使う、と宣言する。
 ハメル准将が盗んだミサイルは、着弾するとVXガスを放出、その毒素は都市をひとつ死の街に変えるに充分な量があった。海軍やFBIで構成された対策本部は、数百万の人命を守るために81人の人質を犠牲にすることも考慮しながら、VXガスを無力化する作戦に着手した。
 そこで白羽の矢が立ったのが、スタンリー・グッドスピード(ニコラス・ケイジ)である。化学者で、爆発物解体にも精通しているが、ただし通常は研究室での勤務で現場の経験はない。
 もうひとり、呼び寄せられたのは、ジョン・メイソン(ショーン・コネリー)。誰ひとり逃がしたことがないと御公には称しているアルカトラズ刑務所から唯一脱獄した、いわば脱獄のプロだった。既に60歳を過ぎ、身体能力の衰えが危惧されたが、アルカトラズの抜け道を熟知している彼の力は、犠牲を最小限に留めるうえで必要だった。どうやらFBI上層部と遺恨のあるらしいメイソンは当初拒んだが、恩赦と一流ホテルでの身支度を交換条件に協力要請を引き受けた。
 だがメイソンは一瞬の隙を突いてホテルから逃走してしまう。ハメル准将が指定したタイムリミットまで既に1日を切るなか、果たしてグッドスピードは無事にミサイルを無力化して、数百万の人命を救うことが出来るのか――?


TOHOシネマズ日本橋、スクリーン4入口脇に掲示された『ザ・ロック』作品紹介記事。
TOHOシネマズ日本橋、スクリーン4入口脇に掲示された『ザ・ロック』作品紹介記事。


[感想]
 男の子の大好きな娯楽性てんこ盛り、といった趣である。
 大胆極まるミサイル強奪に始まり、アルカトラズ島を占領し要塞化、大量殺戮兵器をネタにした脅迫事件。政治家、官僚の暗躍が描かれ、特殊部隊と共に事態に臨むのは、秘められた過去を持つ脱獄の達人と、科学の知識しか持たない素人。更にはにわかに繰り広げられる逃走劇、車が吹っ飛ぶカーチェイス、物量で攻める銃撃戦。そしてクライマックスには、一分一秒の戦いが展開される。犯罪ものに戦争ドラマ、そこにスパイ・アクションの要素まで詰め込んだ贅沢っぷりである。
 監督のマイケル・ベイはいまや、派手だけど大味な作品を撮るひと、というイメージだが、なかなかどうして、本篇は様々な娯楽要素を投入しながらもうまく整理されている。細かいところを見れば不自然さや大仰さも目につくが、それを意識させないスピード感と熱量で押し切ってくる。ある程度の繊細さと、シチュエーションのために細部を切り捨てる大胆さが共存し、堂々たるエンタテインメントなのに風格すら感じさせる仕上がりだ。
 この“風格”にとりわけ貢献しているのはショーン・コネリーである。今でも最高の《ジェームズ・ボンド》俳優と言われているが、本篇ではあのボンドにも似た活躍を示している。ボンド引退後は俳優としての評価を得るべく『薔薇の名前』や『アンタッチャブル』など様々な役柄に挑み結果を残す一方で、アクションをふんだんに盛り込んだ娯楽大作を欲するファンに応えようとしたのかも知れない。加齢も踏まえたキャラクター性になっているが、だからこそ佇まいの凛々しさ、風格が引き立っていて、役者としてのキャリアの豊かさを実感させる。
 コネリーの貫禄に因るところが大きいとは言い条、他の俳優も充分なインパクトを示している。ニコラス・ケイジは現場経験がないキャラクター故の滑稽さを演じつつ、事態が悪化していくに従って成長し、その奮闘ぶりで観客の感情移入を誘う。襲撃犯を仕切るエド・ハリスは、義憤から過激な犯行に及んだ男の責任感や覚悟を堂々と演じ、やもすると観ている側までも同調してしまいそうな説得力を示す。体制側が様々な思惑でメイスンやグッドスピードを翻弄する以上に、決して一枚岩ではない襲撃犯側の意思の違いも表現されているので、激しいアクションの中に細かで熱いドラマも顔を覗かせてくる。襲撃犯と海兵隊の潜入班が対峙した際のやり取りや、クライマックスでの駆け引きの緊張感は、蓄積した人間描写の賜物だ。
 また本篇は、提示したモチーフの使い方に無駄がない。こういうシチュエーションであればこんな展開に運び、こういう要素を用いるならこんなふうに利用する、というのが実にうまく配置されている。あまりに綺麗にハマりすぎているので、先読みできてしまうきらいもあるが、明白なところをあえて外さないのも、語り口のテンポの良さと相俟って爽快感に結びついている。
 ハメル准将の訴えること自体は重いが、作品そのものは荒々しくもいい意味で軽い。2時間たっぷり充実感が味わえる、極上のエンタテインメントである。


関連作品:
アイランド(2005)』/『トランスフォーマー』/『トランスフォーマー/リベンジ』/『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』/『トランスフォーマー/ロストエイジ
薔薇の名前』/『理由(1995)』/『月の輝く夜に』/『ブラック・レイン』/『ハート・ロッカー』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ<ディレクターズ・カット>』/『エイリアン2 完全版
ブリット』/『アルカトラズからの脱出
チル・ファクター』/『マトリックス・リローデッド』/『ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記』/『僕らのミライへ逆回転』/『アンダーワールド:ビギンズ』/『ナイト ミュージアム2

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