『ゴーストバスターズ/アフターライフ(字幕・TCX・Dolby ATMOS)』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2入口脇に掲示された『ゴーストバスターズ/アフターライフ』ポスター。
TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2入口脇に掲示された『ゴーストバスターズ/アフターライフ』ポスター。

原題:“Ghostbusters : Afterlife” / 監督:ジェイソン・ライトマン / 脚本:ジェイソン・ライトマン、ギル・キーナン / 製作:アイヴァン・ライトマン / 製作総指揮:ダン・エイクロイド、マイケル・ビューグ、ジェイソン・ブラメンフェルド、ジェイソン・クロス、アーロン・L・ギルバート、エイミー・カープ、ギル・キーナン、ジョー・メジュック、トム・ポロック / 撮影監督:エリック・スティールバーグ / プロダクション・デザイナー:フランシス・オーデュイ / 編集:ダナ・E・グラウバーマン、ネイサン・オルロフ / 衣装:ダニー・グリッカー / キャスティング:ジョン・パプシデラ、アリ・サフダリ / 音楽:ロブ・シモンセン / 出演:マッケナ・グレイス、フィン・ウルフハート、キャリー・クーン、ポール・ラッド、ローガン・キム、セレステ・オコナー、ビル・マーレイ、ダン・エイクロイド、アーニー・ハドソン、シガーニー・ウィーヴァー、アニー・ポッツ、ボキーム・ウッドバイン、J・K・シモンズ、オリヴィア・ワイルド、エマ・ポートナー、ジョシュ・ギャッド、ダニエル・ケネディ、ボブ・ガントン / 配給&映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment
2021年アメリカ、カナダ合作 / 上映時間:2時間4分 / 日本語字幕:アンゼたかし
2022年2月4日日本公開
2022年5月25日映像ソフト日本盤発売 [Blu-ray & DVDセットBlu-ray & DVDセット(Amazon.co.jp限定特典)4K ULTRA HD + Blu-ray Disc]
公式サイト : https://www.ghostbusters.jp/
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2022/2/10)


[粗筋]
 収入源に悩むシングルマザーのキャリー(キャリー・クーン)は、家賃の滞納が嵩み、とうとうアパートから立ち退きを命じられた。残された行き場はひとつ、わずか一週間前に亡くなった父イゴン・スペングラー(ハロルド・ライミス)が遺した農地だけ。キャリーはふたりの子供とわずかな荷物を車に詰めこんで、父が暮らしていたサマーヴィルという町へと旅立った。
 イゴン・スペングラーはかつて、キャリーたち家族を捨ててサマーヴィルにひとり移り住んでおり、すっかり疎遠だった。あわよくば遺産で滞納を精算するつもりだったキャリーだが、父が遺したのは借金ばかり。唯一の財産である、“荒れ地の家”で生活するほかなかった。
 キャリーの末娘フィービー(マッケナ・グレイス)は、この家に奇妙な気配を感じていた。母と兄トレヴァー(フィン・ウルフハート)とは別の気配があり、枕許に並べてあるチェスの駒が勝手に動いている。そしてあるとき、床に仕掛けられた細工を動かすと、飽いた床板の下に、謎の端末を発見する。
 それだけではなかった。勝手に点る照明を辿り、納屋の滑り棒の下にある地下室に潜ると、科学知識の豊富なフィービーをときめかせるような機材に溢れていた。とりわけ興味を惹かれたのは、作業台の上に置かれた機材。まるで自分の好奇心を理解しているかのような“気配”に導かれて、フィービーはその機材を整備した。
 サマースクールの教師である地震学者グルーバーソン(ポール・ラッド)から、それらの機材がかつてニューヨークで発生した幽霊騒ぎを解決した組織《ゴーストバスターズ》のものであったことを知らされる。彼らの活動を報じたネットの映像には、若い頃のイゴンの姿もあった――他でもない、フィービーの祖父は、この《ゴーストバスターズ》の一員だったのだ。
 地下室にあった機材――ゴーストの動きを封じるプラズマ発生装置《プロトンパック》の修復を済ませたフィービーは、サマースクールの友人・ポッドキャスト(ローガン・キム)とともに廃工場でテストを実施する。《プロトンパック》は見事に機能したが、そこでフィービーたちは、施設内の機材を貪り食うゴーストと遭遇した。
 数年前からこのサマーヴィルでは、地殻変動とは異なる謎の地震が多発している。そして、いちどはなりをひそめていたはずのゴーストの再来――それらは、新たなる災厄の訪れを意味していた……


[感想]
 80年代を代表するポップカルチャーのひとつとなった『ゴーストバスターズ』は、キャリアにおいてコメディ系列の作品を多く手懸けたアイヴァン・ライトマン監督の作品である。だがその息子のジェイソン・ライトマンは、早くからアカデミー賞候補に上がるような、いわゆるエンタテインメントとは異なるものを中心として撮っており、作品からは血縁関係が感じられない。そんな彼が、ここに来て父の代表作の正式な続篇に着手する、というのは、正直なところまったく想像が出来なかった。
 近年は賞レースでジェイソン・ライトマンの名前をあまり聞かないようになり、窮して手を出してしまったのか――とだいぶ意地の悪い想像もしてしまった。しかし、実際に完成された本篇を観る限り、そうした安易さはまったく感じない。序盤は、ほんとうに“ゴーストバスターズ”か? と訝るほどに親しみやすくも丁寧なドラマを編んでいるのに、しかし気づけば見事に、あの世界観に接続している。
 この内容は、『ゴーストバスターズ』が2作まで充分な成績を上げながら、なかなか第3作の完成に結びつかなかった背景と無縁ではない。
 かなり早い段階から第3作の企画は存在したが、様々な事情から自体は二転三転し、最終的にオリジナルの脚本家のひとりであり、メインキャストのひとりでもあったハロルド・ライミスの逝去により、完全に頓挫してしまった。このとき、ある程度まで組み上げられていた第3作の製作態勢は、2016年のポール・フェイグ監督版『ゴーストバスターズ(2016)』に引き継がれたという。
 しかし、本篇の序盤に郷愁豊かなジュブナイルの手触りが生まれたのは、ハロルド・ライミスの不在が逆に重要になっているのだ。第2作のときと同様にゴーストの脅威が消えた世界で、その“功績”も知らなかった子供たちが、ゴーストや、それに対抗するべく開発されたユーモラスで魅力的なギミックに遭遇する。端緒となった人物がほんとうにこの世にいない、ということが、本篇に得がたいロマンをもたらしている。
 絶妙なのは、そもそも本篇は“ゴースト”バスターズだ、という事実を巧みに活かしていることだ。第1作から、いわゆる死者の幽霊と、いわゆる悪魔が混在している世界観となっている。最強の敵は概ね闇の世界を拠点とする存在だが、殺人鬼やかつての独裁者の亡霊も現れている。それはつまり、物語には常に死者が寄り添っている、という意味でもある。遺していったギミックや、最期に果たそうとしていた使命の狭間から垣間見えた、いまは亡きイゴン・スペングラー博士の存在が、クライマックスで重要な意味を帯びてくるこのドラマ性は非常に味わい深い。まして、スペングラー博士をはじめとしたキャラクターは、物語の背景として設定のみ存在しているわけではなく、かつてスクリーンに明確に描かれ、世間を熱狂させた存在なのだ。語り口の巧さだけでは醸成し得ない情緒が、見事なかたちで作品に採り入れられている。
 物語が佳境に入るにつれて、トーンに往年の味わいが蘇ってくる感じも秀逸だ。ジュヴナイル的な冒険を導入としたドラマが、“ゴースト”の存在や、それらと戦うために開発されたギミックに接することで、急速にオリジナルの面白さが回帰してくる。かつての《ゴーストバスターズ》の活躍を知るグルーバーソンが、懐かしいアイテムに実際を使えることに興奮しているくだりは、オリジナルを知る観客は共感するしかない。そして、新たに登場するギミックの数々も、映像技術の進歩により派手さ、大胆さを増しながら、往年のチープさもテイストとして留めているのが嬉しい。往時を知らないひとでも、空想科学の楽しさに満ちた数々のアイテムや描写に興奮を覚えるはずだ。
 市井のひとびとの繊細な感情を汲み取ることに長けたジェイソン・ライトマン監督らしい、繊細な人物描写も、こうしたオリジナルにある稚気、遊び心と共鳴して、《ゴーストバスターズ》という世界観をアップデートしている。オリジナルを原理主義的に受け入れて、「あのキャラクター、あのユーモアのセンスじゃなきゃ認めない!」という断固たる態度を貫くようなひとはともかく、そうでないひとなら、オリジナルへのリスペクトを感じられるに違いない。そして、オリジナルを知らない世代、接する機会のなかったひとであっても、ジュヴナイルとしてのロマンと、オリジナルの持つ魅力、昂揚感へと導いてくれる、理想の入口になっている。
 33年という時の流れ、変化にも意義を持たせた、いまリリースするに相応しい“第3作”だと思う。もしかしたらジェイソン・ライトマン監督は、この作品を撮るためにキャリアを構築していたのかも、と考えてしまうほどだ。

 なお本篇は、好評を受けて目出度く続篇の製作が決定したらしい。スタッフ、キャストは2022年6月の現時点で未発表だが、ジェイソン・ライトマンとギル・キーナンが脚本家として契約を結んだ、という事実は公表されており、本篇の路線を踏襲するかたちになるようだ。
 日本での公開後に、シリーズの父たるアイヴァン・ライトマンは逝去したが、たぶんまだしばらくは、息子がこの世界を守っていくのだろう――劇中で、フィービーが祖父の守ろうとしたものを受け継いだのと同様に。


関連作品:
ゴーストバスターズ(1984)』/『ゴーストバスターズ2』/『ゴーストバスターズ(2016)
サンキュー・スモーキング』/『JUNO/ジュノ』/『マイレージ、マイライフ』/『ヤング≒アダルト』/『とらわれて夏
マリグナント 狂暴な悪夢』/『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』/『アベンジャーズ/エンドゲーム』/『ザ・スイッチ』/『ブルース・ブラザース』/『エクソダス:神と王』/『スペンサー・コンフィデンシャル』/『21ブリッジ』/『リチャード・ジュエル』/『アナと雪の女王2』/『人生の特等席
ターミネーター2』/『スタンド・バイ・ミー』/『SUPER8/スーパーエイト

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