『翔んで埼玉』

TOHOシネマズ上野、スクリーン3入口脇に掲示されたチラシ。

原作:魔夜峰央(宝島社・刊) / 監督:武内英樹 / 脚本:徳永友一 / 製作:石原隆、村松秀信、遠藤圭介 / プロデューサー:若松央樹、古郡真也 / 撮影:谷川創平 / 照明:李家俊理 / 美術:あべ木陽次 / 編集:河村信二 / 装飾:竹原丈二 / 人物デザイン監修&衣裳デザイン:柘植伊佐夫 / 録音:加藤大和 / 音楽:FACE 2 fake / 主題歌:はなわ『埼玉県のうた』 / 出演:二階堂ふみGACKT伊勢谷友介ブラザートム麻生久美子島崎遥香成田凌加藤諒益若つばさ間宮祥太朗中尾彬武田久美子麿赤兒竹中直人京本政樹 / 制作プロダクション:FILM / 配給:東映

2019年日本作品 / 上映時間:1時間46分

2019年2月22日日本公開

公式サイト : http://www.tondesaitama.com/

TOHOシネマズ上野にて初見(2019/4/2)



[粗筋]

 ――その昔、埼玉県民は東京都民から過酷な迫害を受けていた。通行手形を持たなければ関所を越えることも許されず川口市に追い返されてしまう。手形などなしで東京への行き来を可能にしてくれる救世主を、埼玉県民は切に求めていた。

 東京にある白鵬堂学院は、将来の官僚候補達が集っている。一部の裕福な埼玉県民は、寄付によってこの学校に藉を置き、東京での生活の足掛かりにしようと試みているが、しかし彼らは最下層のクラスに配され、都民と同じ校舎で学ぶことも許されないのだった。

 そんな白鵬堂学院に、アメリカ帰りの転校生が編入してきた。彼、麻美麗(GACKT)はその高貴ないでたちと優雅な振る舞いにより、瞬く間に生徒達の崇拝を集める。都知事の息子であり、学院の生徒会長として君臨する壇ノ浦百美(二階堂ふみ)は麗に自分の取り巻きに誘い入れるが、麗はまるで耳を貸さない。百美はそんな麗に恥辱を味わわせようと、東京テイスティングの勝負を挑むが、麗は百美を上回る記録を弾き出した。

 却って屈辱を味わわされた百美だったが、ショックで倒れた柴に介抱され、保健室で唇を奪われたときから、彼の中で何かが変わる。不快感が一変し、麗に心酔した百美は、ふたたび彼からのキスを求めて、麗の歓心を買うべく尽力する。

 だが、麗を誘って赴いた遊園地で、ふたたび百美は衝撃を受ける。園内に埼玉警報が鳴り響き、炙り出されかかった埼玉県民を、麗が庇ったのだ。

 美しいいでたちと洗練された物腰を備え、山手の住民とさえ見紛う麗だが、その実態は、埼玉県民の解放を願って暗躍する、隠れ埼玉県民だったのだ――



[感想]

 全篇、埼玉および周辺の県へのディスりで出来ている。しばしば囁かれる各県の妙な噂、悪口の類をまるで事実の如く誇張して描く、というスタイルで貫かれた作品だが、不思議なくらいにイヤな印象を受けない。最初から最後まで笑っていられる。

 それは、本篇での埼玉に対する表現が、基本的に自らを蔑む“自虐”で成立していることと、その内容を極端なくらい誇張して描くことで、ユーモアに昇華しているからだ。現実には近代の埼玉に関所なんか設けられていないことは日本人なら知っているし、見渡す限り野っ原が広がる未開の土地だなんて認識は持っていない。東京の人間であっても、実際に悪し様に言う人間がいない、とまでは言わないが、「言っただけで口が埼玉になる」なんて考え方をしているひとは、まあさすがに居ないだろう。実際にそういう風に表現することで、何もかも笑いに変えてしまっている。

 それでいて、本篇での表現にはしばしば、それぞれの土地に対する理解と愛着も窺える。名産の少なさを嘆きながらも、同時にその名産への愛情をちらつかせ、他県から蔑まれているからこその矜持も見せる。終盤、県境を挟んでの“戦争”が始まるくだりでの、麗の演説と民衆の反応は、しごく大真面目であるほどに笑えるが、同時に感動的でさえあるのも、きちんと登場人物たちの郷土に対する愛が表現されている故だろう。

 またこの作品、ひとつひとつの趣向について、表現が徹底している。たとえば白鵬堂学院で最下層に位置づけられるZ組の生徒は、豪奢な校舎から隔離された小屋に押し込められているが、教室内の壁に貼られた習字には海なし県の憧れを示すかのように“刺身”なんて文字が見える。正体を知られた麗が逃亡する際、奇妙なルートを選択するのだが、百美に語ったその理由など、きちんと現実の地理が反映されているし、そう語る背後の風景も麗の話をしっかり補強してたりする。

 何よりも度胆を抜かれるのが結末だ。笑いつつ、若干慄然ともするくだりなのだが、ああそう言われてみれば、と頷かされる部分も少なくない。そう感じさせるのも、徹底的にものごとを誇張し、それに添ってディテールを突き固めていったからこそだ。だから、そんな馬鹿な、と笑いながらも妙な信憑性を感じてしまう。

 魂は細部に宿る、というが、本篇は自虐的表現であってもいっさい手を抜かず、徹底的に世界観や物語を構築している。だからこそ、非現実的なほどに先鋭化された自虐が笑えるし、そこに確かな愛も感じられる。何もない、と自他共に認める埼玉の、底に秘めたる魅力を炙り出した快作であり、怪作である。

 ……プログラムのインタビューでGACKTも言及していたが、本篇を観て、むしろ怒っていいのは群馬かも知れない。さすがにプテラノドンは飛んでないだろさすがに。



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