『スプリット』

TOHOシネマズ西新井が入っているアリオ西新井、駐輪場脇の外壁に掲示されたポスター。 スプリット [Blu-ray]

原題:“Split” / 監督&脚本:M.ナイト・シャマラン / 製作:マーク・ビエンストック、ジェイソン・ブラム、M.ナイト・シャマラン / 製作総指揮:ケヴィン・スコット・フレークス、バディ・パトリック、スティーヴン・シュナイダー、アシュウィン・ラジャンー / 撮影監督:マイケル・グローラキス / プロダクション・デザイナー:マーラ・レペア=スクループ / 編集:ルーク・シアロキ / 衣装:パコ・デルガド / キャスティング:ダグラス・エイベル / 音楽:ウェスト・ディラン・ソードソン / 出演:ジェームズ・マカヴォイ、アニヤ・テイラー=ジョイ、ベティ・バックリー、ヘイリー・ルー・リチャードソン、ジェシカ・スーラ、ブラッド・ウィリアム・ヘンケ / ブラインディング・エッジ・ピクチャーズ/ブラムハウス製作 / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:NBC Universal Entertainment Japan

2017年アメリカ作品 / 上映時間:1時間57分 / 日本語字幕:?

2017年5月12日日本公開

2018年5月9日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://split-movie.jp/ ※閉鎖済

TOHOシネマズ西新井にて初見(2017/5/12)



[粗筋]

 パーティの帰り、同級生のクレア(ヘイリー・ルー・リチャードソン)の父親に家まで送ると言われたケイシー(アニヤ・テイラー=ジョイ)は、同じく同級生のマルシア(ジェシカ・スーラ)とともにクレアの父の乗用車に乗った。だが、気づいたとき、運転席に座っていたのは見たこともない男(ジェームズ・マカヴォイ)で、ケイシーたち3人は薬品を吹きかけられ昏倒する。

 目醒めたとき、ケイシーたち3人は窓のない部屋に閉じ込められていた。唯一の扉を開けて現れた男は、彼女たちの前で奇妙な振る舞いを見せる。裸になって踊るように強要したかと思えば、次に現れたときにはやけに女性的な物腰で彼らを気遣う。更には“ヘドウィグ”と名乗って子供のように振る舞った。

 ケイシーたちを誘拐した男は、解離性同一性障害を患う、いわゆる多重人格者だった。どうやら、その人格のいずれかが彼女たちを何らかの目的で攫ったらしい。

 男以外に、監視する者は存在しないようだった。3人はどうにか隙を突いて、脱出することを目論むが――



[感想]

 粗筋はだいぶ序盤の出来事しか書いていない。恐らく本篇は、内容については過剰に知りすぎずに鑑賞したほうがいい、と考えたからだ。

 とはいえ、本篇を楽しむためにはたぶん、外すべきでない条件がある。

 M.ナイト・シャマラン監督の作品をある程度鑑賞している、ということである。

 観なくても楽しめるだろうが、恐らくしっくり来ない点も多い。本篇の描写が衝撃をもたらすのは、よほど読解力に優れたひとか、或いはシャマラン作品に馴染んでいるひとか、ではなかろうか。

 この作品、多少なりとも能動的に物語を解釈するなり、劇中の謎を読み解こうとする姿勢がないと、恐らく面白くない。しかも、そうして鑑賞したところで、その努力や期待に報いる作品かどうかは、観る者の嗜好や資質次第だ。だいぶクセが強い、と言える。本篇で初めてシャマラン作品に接したひとや、前々から「微妙だな~」と感じつつシャマラン作品を追ってきたひとは、ハズレだ、と決めつけてしまうかも知れない。

 しかし少なくとも、しばらく悪い形で発揮されている感のあったシャマラン監督のセンスが、ようやく内容と噛み合って、作品の魅力を高めているのは間違いない。

 いちばん伝わりやすいのはカメラワークだ。遠近感やシンメトリーの構図を用いることで巧みに不穏さや緊張感を演出しており、物語の流れを追いきれずとも自然に惹きこまれてしまう。薄汚れながらもどこかに美学を感じさせる監禁場所のデザインも相俟って、映像的な見応えに富んでいる。

 また、一時期のシャマラン監督が多用していたものの、全般に独りよがりの傾向にあった“象徴”の扱いが、本篇に関して言えば、作品と非常に良く噛み合っている。特に本篇については、物語の核そのものと巧みに結びつき、きちんと説得力を備えているのだ――ただ、やはり納得しづらいひとも少なからずあるとは思うが。

 いずれもシャマラン監督が初期作品から明確にしていた個性だが、作を追うごとに独善的になり、観客を納得させるかたちに昇華できないきらいがあった。本篇でもまだ癖は強いが、描こうとしたものとその着地とのあいだに乱れはない。

 紆余曲折を経て、シャマラン監督が自らの美点と欠点とを認め、それを洗練させることに精根を尽くした結果が本篇なのだろう。評価するしないに拘わらず、根気強く彼の作品を追い続けてきたファンにこそ捧げられた作品と言える。シャマラン第2章の始まり、という見方は決して大袈裟ではないと思う。

 そして――だからこそ、本篇の劇場公開時点で予告されていた次回作『ミスター・ガラス』に、不安を残しつつも期待せずにいられない。それは本篇のヒットの産物であり、ある初期作品を発表していた際に仄めかしていた忘れものでもあるから。



 ……なんだかシャマランの作品として語るのに必死で触れ忘れてしまったので、最後に添えておきたい。

 本篇の見所はシャマランらしさが作品の質に貢献していることもさりながら、やはり多重人格の犯罪者を演じきったジェームズ・マカヴォイも外せない。

 マカヴォイは『つぐない』『声をかくす人』のような優れた文芸作品に出演する一方、若きプロフェッサーXとして『X-MEN』シリーズに参加したり、『フィルス』では破滅的な悪徳警官を嬉々と演じたり、と実にその振り幅の大きい人物である。その守備範囲の広さを、本篇では遺憾なく発揮している。

 多重人格とは言い条、基本的に顔も体格も基本的には変えようがない。なのに劇中、人格が変わると雰囲気はもちろん、身体のサイズまで変わったような錯覚をもたらす。それでいて、きちんと芯は通っているように映るのだ。もともと達者なひとだ、とは思っていたが、本篇を観ると改めて感心させられる。その巧さがまだまだ一般層には浸透していないように感じられるので、本篇と、続く作品において、もうちょっと名前が知れ渡るのを期待したい。本当に、いい俳優なんです。



関連作品:

サイン』/『ヴィレッジ』/『レディ・イン・ザ・ウォーター』/『ハプニング』/『エアベンダー』/『デビル(2011)

声をかくす人』/『フィルス』/『X-MEN:フューチャー&パスト』/『キャリー(1976)』/『フューリー

“アイデンティティー”』/『SAW』/『オールド・ボーイ』/『マーターズ(2015)』/『ヘレディタリー/継承