『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』

ユナイテッド・シネマ豊洲の通路に展示された巨大タペストリー。

原題:“Sicario : Day of the Soldado” / 監督:ステファノ・ソッリマ / 脚本:テイラー・シェリダン / 製作:ベイジル・イヴァニク、エドワード・L・マクドネルモリー・スミス、サッド・ラッキンビル、トレッド・ラッキンビル / 製作総指揮:エレン・H・シュワルツ、リチャード・ミドルトン、エリカ・リー / 撮影監督:ダリウス・ウォルスキー / プロダクション・デザイナー:ケヴィン・カヴァナー / 編集:マシュー・ニューマン / 衣装:デボラ・リン・スコット / キャスティング:メアリー・ヴェルニュー、マリソル・ロンカリ / 音楽:ヒドゥル・グドナドッティル / 出演:ベニチオ・デル・トロジョシュ・ブローリンイザベラ・モナージェフリー・ドノヴァン、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、イライジャ・ロドリゲス、デヴィッド・カスタニーダ、マシュー・モディーンキャサリン・キーナー / サンダー・ロード・ピクチャーズ製作 / 配給:KADOKAWA

2018年アメリカ作品 / 上映時間:2時間2分 / 日本語字幕:松浦美奈 / PG12

2018年11月16日日本公開

公式サイト : https://border-line.jp/

ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2018/11/20)



[粗筋]

 アメリカ・テキサス州のメキシコとの国境にあたる地域で、自爆テロが連続して発生する。政府はこれを、メキシコを牛耳る麻薬カルテルの犯行と認定、ジェームズ・ライリー国防長官(マシュー・モディーン)は極秘裏に作戦を展開し。カルテルの殲滅を計画する。

 計画遂行のために呼び出されたマット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)は、カルテルの内部抗争を引き起こし共倒れにする策を提案する。以前から作戦行動を共にしてきた暗殺者アレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)を召集し、マットは作戦に乗り出す。

 実行犯はまずアレハンドロを中心に、麻薬カルテルの弁護士を務める男を襲撃、殺害する。それから、巨大カルテルの支配者カルロス・レイエスの末娘イサベル(イザベラ・モナー)を拉致した。マットは衛星を使ってイサベルが攫われたあとの動向を観察、ボスに報告に赴いた人物を追い、更なる工作を仕掛ける。

 他方、イサベルはテキサスに用意した隠れ家に移し、麻薬取締局の突入によって救い出された格好にして、ふたたびメキシコへと移送した。しかし、国境を越えたあとに起きた小競り合いが、マットの想定していなかった事態を引き起こす……

[感想]

 2016年、アクション要素の強いサスペンスながら、社会性と作家性に富んだ内容で高く評価された『ボーダーライン』の続篇である。

 前作からわずか2年という、比較的早いペースでのリリースだったが、静寂と構図で緊張感を演出したドゥニ・ヴィルヌーヴ監督と、麻薬戦争の過酷な様相を目撃する位置づけで登場したエミリーブラントという、ふたつのビッグネームが既に外されている。そこにどんな事情があったのか、は解らないが、本篇を観る限り、このふたりの不在が作品のマイナスに働いている印象はない。無慈悲な世界観と、緊張感に満ちたプロットは健在だ。

 そもそも、ストーリー的に直接の繋がりはない。グレイヴァーとアレハンドロが動く理由は前作と近いものがあるが、別個の案件であり、前作を観ずとも理解するのに支障はない――というか、そもそも作品の方向性として、状況に応じて対処も、敵味方の構図も目紛しく変わるので、仮に話が繋がっていたとしても、無理に前提を理解する必要はない。こういう世界なのだ、という程度の認識で臨んでも充分に作品世界を味わえる。

 前作でも終盤はベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロの振る舞いに焦点が当てられるが、本編はより早い段階から彼に焦点を合わせていく。決して具体的にではないが、その言動の端々にアレハンドロの過去をちらつかせ、行動原理の一端が窺い知れる展開となっている。

 前作においてもアレハンドロの過去は垣間見えていたが、その断片的な情報から判断する限り、アレハンドロはエリートに属する人間だった。それが、ある事情から暗殺者へと転身し、依頼にかこつけて復讐を果たそうとしている。背景が背景であるだけに、麻薬組織の人間に対して容赦がなく、前作の終盤はむしろ彼の言動にこそ慄然とさせられる面もあった。

 翻って本篇では、少し違った面を見せる。いずれ復讐を果たすべく、任務にはとことん非情を貫いていた男が、本篇ではその人間性を垣間見せる。作戦のためには情を捨てねばならないところで、彼は迷いを見せる。

 それは途中から別行動を取るグレイヴァーにしても同様だ。こちらはアレハンドロよりもドライに使命に臨むが、同時に迷いも覗かせている。本篇においては、そうして状況次第では本人にとって過酷な決断を迫られる事態も織り込み、前作とは異なる恐怖と緊張感とを描きだしている。

 前作の世界観をしっかりと踏襲しつつ異なる局面を見せ、衝撃を新たにした本篇だが、ひとつだけ惜しまれるのはクライマックスの展開がいささか偶然が勝ちすぎている点だ。あれくらいしか乗り切ることの出来ない難局であったのも事実だし、それが脚本を担当したテイラー・シェリダンによればもともと3部作として構想されていたシリーズの中盤である本篇から最終章への布石を用意している、と捉えると興味深い趣向なのだが、前作の無常観、非情感とも違うモヤモヤを残していることも否めない。

 監督が代わったことで、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の作品に共通する構図の見事さ、沈黙の緊張感もかなり減っている。しかしそのぶん、テキパキと物語は進み、一種の膠着状況が幾度か訪れるにも拘わらず、スピード感を作り出している。尺の長さは前作とほぼ同じ程度だが、恐らく本篇のほうが早く終わるような印象を受けるのではなかろうか。

 前作の魅力をそのまま、とまでは行かないが、作品世界を受け継ぎ、更に深化させることに成功した、続篇としては納得のいくクオリティだろう。

関連作品:

ボーダーライン

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