『ボーダーライン』

新宿ピカデリー、スクリーン6入口に表示されたキーヴィジュアル。 ボーダーライン スペシャル・プライス [Blu-ray]

原題:“Sicario” / 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ / 脚本:テイラー・シェリダン / 製作:ベイジル・イヴァニク、エドワード・L・マクドネルモリー・スミス、サッド・ラッキンビル、トレッド・ラッキンビル / 製作総指揮:ジョン・H・スターク、エリカ・リー、エレン・H・シュワルツ / 撮影監督:ロジャー・ディーキンス,ASC,BSC / プロダクション・デザイナー:パトリス・ヴァーメット / 編集:ジョー・ウォーカー,ACE / 衣装:レネ・エイプリル / キャスティング:フランシス・メイズラー / 音楽:ヨハン・ヨハンソン / 出演:エミリー・ブラントジョシュ・ブローリンベニチオ・デル・トロ、ヴィクター・ガーバー、ジョン・バーンサルダニエル・カルーヤジェフリー・ドノヴァン、ラオール・トゥルヒージョ、フリオ・セサール・セディージョ、ハンク・ロジャーソン、ベルナルド・サラシーノ、マキシミリアーノ・ヘルナンデス、ケヴィン・ウィギンズ、エドガー・アレオラ / サンダーロード製作 / 配給:KADOKAWA

2015年アメリカ作品 / 上映時間:2時間1分 / 日本語字幕:松浦美奈 / R15+

2016年4月9日日本公開

2018年2月2日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

公式サイト : http://border-line.jp/

新宿ピカデリーにて初見(2016/4/16)



[粗筋]

 アリゾナ州チャンドラーにある、誘拐事件の容疑者宅に突入したFBI捜査官ケイト・メイサー(エミリー・ブラント)は、銃撃戦の末に制圧した邸内で、壁に塗り込められた、無数の屍体を発見する。その衝撃も醒めやらぬ中、捜査員たちが邸内を捜索していると、地下倉庫の扉に仕掛けられていた爆薬によって、2人の捜査官が犠牲となった。

 直後、ケイトと同僚のレジー・ウェイン(ダニエル・カルーヤ)は本部に召集され、ふたりが見知らぬ面々から奇妙な取り調べを受ける。そのなかで、国防総省の人間というマット・グレイヴァー(ジョシュ・ブローリン)から、誘拐事件の主犯がマニュエル・ディアス(ベルナルド・サラシーノ)だと聞かされる。摘発のための作戦が始まる、と言われ、ケイトは志願して加わることになった。

 当初、目的地は国境にあるエルパソという話だったが、マットはアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)という謎の男を拾うと、エルパソでデルタフォースと合流、そこから国境を越えメキシコのフアレスへと向かった。メキシコ警察と隊列を組み、現地で確保されていたマニュエル・ディアスの兄弟ギエルモの身柄を引き受けると、ふたたび国境へと車列を走らせた。

 国境の検問を優先的に通過したケイトたちの車列は、しかし通過後の合流地点で渋滞に巻き込まれ、立ち往生してしまう。ほどなく、ケイトと同じ車に乗ったアレハンドロが、窓を開けるようケイトに命じると、静かにライフルを構えた――



[感想]

 メキシコに存在する麻薬カルテルや、麻薬流入を巡るアメリカ・メキシコ国境線の攻防などは、それこそドキュメンタリーでもフィクションでも頻繁に触れられ、題材としてはすっかり手垢がついた状態だ。しかし、そんな状況にあっても本編は新鮮な驚き、衝撃をもたらす。

 それは、最初から最後まですべての事情を知らないまま、作戦に加えられるケイトという視点の存在がまず奏功している。誘拐事件の捜査のために踏み込んだ住宅で無数の屍体を発見し、仕掛けられた罠によって同僚を傷つけられ、殺される。真犯人を摘発したい、という想いから、素性の知れないマット・グレイヴァーの作戦に加わり、意味も解らないままに麻薬カルテルを巡る熾烈な駆け引きの最前線を体験させられる。

 本篇において、視点人物であるケイトは、麻薬戦争を巡る戦況、そのなかで展開する作戦の意味をなかなか知らせてもらうことが出来ない。それは物語全体に謎を張り巡らせ、その緊張感自体が同系統の作品とは微妙に質の異なる緊張感を漲らせている。

 しかも、そうして繰り広げられる駆け引きが壮絶で、容赦がない。冒頭で登場する大量の屍体やトラップにも度胆を抜かれるが、国境間際で繰り広げられる銃撃戦や、アレハンドロが情報を引き出すための手段、そしてトンネルでの攻防など、苛烈な見せ場が繰り返される。沈黙や、動きの乏しい画面を挟みこみ、その静寂で緊張感を生み出すドゥニ・ヴィルヌーヴ監督らしい演出とも相俟って、全篇にスリルが漲っている。

 終盤に至るとケイトが視点人物でなくなり、アレハンドロの行動をカメラは追い始める。物語の構成としては破調であり、普通なら据わりが悪くなりそうなものだが、観ているときにそのことを気にすることはないはずだ。それほどに本編クライマックスの緊張は著しく、また結果的に視点をバトンタッチする流れが自然だ。何より、観客はそれまでを凌駕する戦慄を味わわされ、ただ打ちのめされるほかない。

 先にも触れたように、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は沈黙を巧みに駆使して緊張感を作り出す名手だが、それに加え、構図のセンスにも優れている。突入する住宅を遠景で撮し、そこにおもむろに特殊部隊が入り込んでくるくだりや、敵がどこにいるか解らない国境際でのやり取りをあえて死角の多い構図で再現する手法、クライマックスのヘッドライトの灯りのみで描かれる攻防など、物語の緊張感と相俟って記憶に残る場面がふんだんだ。

 現在、アメリカに限らず、メキシコ側でも治安維持に対しては対策を講じており、本篇がメキシコで封切られた際には「フアレスの現状を伝えていない」としてボイコット運動が提案された、という話もあったらしい。しかし、現状はどうあれ、こういう物語に説得力が備わるような現実は、確かにあった。

 そうした、少なくともかつては確実に存在していた過酷な実態を織り込みながら、娯楽性と高い作家性とを共存させた、滋味に満ちた傑作である。



関連作品:

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