『ロスト・バケーション』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2の地下通路に掲示されたポスター。 ロスト・バケーション [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

原題:“The Shallows” / 監督:ジャウム・コレット=セラ / 脚本:アンソニー・ジャスウィンスキー / 製作:リン・ハリス、マッティ・レッシェム / 製作総指揮:ジャウム・コレット=セラ、ダグラス・C・メリーフィールド / 撮影監督:フラヴィオ・ラビアーノ / プロダクション・デザイナー:ヒュー・ペータップ / 編集:ジョエル・ネグロン / 衣装:キム・バレット / 視覚効果監修:スコット・E・アンダーソン / 視覚効果プロデューサー:ダイアナ・スタリック・イバネス / キャスティング:ベン・パーキンソン / 音楽:マルコ・ベルトラミ / 出演:ブレイク・ライヴリー、オスカル・ハエナダ、ブレット・カレン、セドナ・レッグ、ジャネール・ベイリー / ウェイマラナー・リパブリック・ピクチャーズ、オンブラ・フィルムズ製作 / 配給&映像ソフト発売元:Sony Pictures

2016年アメリカ作品 / 上映時間:1時間26分 / 日本語字幕:? / PG12

2016年7月23日日本公開

2017年7月5日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon|aK ULTRA HD + Blu-ray セット:amazon]

公式サイト : http://www.bd-dvd.sonypictures.jp/lostvacation/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2016/7/23)



[粗筋]

 ナンシー(ブレイク・ライヴリー)は、病気で苦しんだ末に息絶えた母の思い出を辿って、友人とともにメキシコに赴いた。かつて母が楽しげに語っていた秘密のビーチを発見すると、二日酔いで寝込んでいる友人をホテルに残し、カルロス(オスカル・ハエナダ)という地元の男の車に便乗させてもらい、現地に向かった。

 地元のサーファーと交流しつつ、自分も波乗りを楽しんでいたナンシーだったが、サーファーたちが海を上がったあとで異変に気づく。海にクジラの死骸が浮かんでいたのだ。そんな中、訪れた波に乗っていたとき、突如として強い衝撃を受け、ナンシーは振り落とされる。

 そこにいたのは、先ほどのクジラを仕留めたと思しい、サメだった。

 左脚の大腿部を噛まれ酷い裂傷を負いながら、ナンシーは岩場によじ登り、辛くも難を逃れる。だが、サメはクジラの死骸からナンシーのいる岩場のあたりを回遊して離れようとしなかった。

 地元の者でも稀にしか訪れないビーチに人の姿はない。岸までのほんの数百メートルが、傷ついたナンシーにはあまりにも遠すぎた……。

[感想]

 こんなにシンプルで、しかし恐怖を誘うシチュエーションもそうそうない。舞台は人の滅多に訪れないビーチ、主人公は沖合の岩場にいて、海中にいるのは血に飢えたサメ。ただ並べただけでも、怖気が震うような設定である。

エスター』で注目されて以来、発表するほとんどの作品をサスペンスに絞ってきたジャウム・コレット=セラ監督は、このシチュエーションを存分に活用し、極めてシンプル、そして手頃な尺にも拘わらず、見応えのあるサスペンスを構築している。

 いっそ作り手の悪意を感じてしまうくらい、物語はヒロインを着実に追い込んでいく。人気のないビーチ、岸まで遠い岩場、という基本の条件の上で、しばしば状況が変化する。時としてそれはヒロインの希望にもなるのだが、しかし一瞬希望をもたらされたからこそ、あとでそれらが空に帰したときの絶望感が深い。

 サスペンスフルな展開のために、本篇は様々な条件やアイテムを巧みに駆使しているが、その配置がまた絶妙だ。それが登場した当初はさほど意識しないような要素が、あとあと大きな意味を孕んでくる、という場面が随所にある。凡庸な映画なら、ただ“脅威の到来”を示すだけに過ぎないプロローグの描写でさえ、あとあと意味を帯びてくる。それに気づいた瞬間のカタルシスは、本篇のスリルをいっそう濃厚なものにしている。

 現代の映像作家らしく、物語にはスマホウェアラブルカメラなどが登場するが、これらでさえ語りや表現はもちろん、ストーリーの発展に利用しているのだから抜かりがない。メッセージのやり取り、というかたちで仄めかされるヒロインの経歴は、この極めて限られた登場人物で展開する物語にドラマ性も付与している。

 いちおうサーファーや途中で姿を見せる地元の人間など、他のキャラクターも登場はするが、実質ひとり芝居に等しいブレイク・ライヴリーの健闘ぶりも賞賛に値する。序盤では端整なボディラインを惜しげもなく晒してリゾート感たっぷりの絵面に貢献する一方、岩場の上でひたすら恐怖と対峙する繊細な演技を示し、クライマックスでは海上でのアクションにも臨んでいる――当然このあたりはセットやCGを駆使し、実際の潜水なども随所でスタントを用いていると推測されるが、そこに一貫性と説得力があるのは、表情をきちんと組み立てていったブレイク・ライヴリーの功績と言っていいだろう。

“サメ”というモチーフを用いた映画は多いが、突飛な趣向を用いずにそのスリルを描いた、という意味で、本篇はその頂点のひとつを極めた、と思う。この映画を観たあとでは、きっとひとりで海に行けなくなる。

関連作品:

エスター』/『アンノウン(2011)』/『フライト・ゲーム

ザ・タウン』/『野蛮なやつら/SAVAGES』/『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』/『あの日、欲望の大地で

オープン・ウォーター』/『ファインディング・ニモ

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